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ダンジョンから愛をこめて  作者: 葉山 友貴
第一章 出会い
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第6話 訓練


「次は、日課の"走り"だ。とにかく速く、長く、走れるようにならないと話にならないよ」


「ゼェ、ゼェ。そんな、こと、言ったって…」


 あの日から毎日走らされた。それも朝から晩まで。マーナの教育方針はスパルタだった。倒れるまで訓練しては眠り、朝は叩き起こされる。出される食事は何でも食べた。基本的にマーナ達と同じ物を食べる。最初は吐いてしまったゴブリン肉も今では何事もないかのように食べれるようになった。


「何度言ったら分かるんだ。相手が動いてから考えるんじゃない。動きを予想して合わせるんだよ」


「そんなこと言ったって…」


 今日は毎日の日課に加えて、"動き"を教えてもらえたが、上手くいかない。マーナに戦いを教えてもらう日々を過ごし、スコルとハティの凄さが理解できるようになった。とにかく速い。それに柔軟で、急な方向転換にも速度を落とさずに対応できる。


 そもそも体の作りが違うのだ。同じタイミングでやったら、どうしても一歩遅れる。マーナの言う通り、"予想"して動くしかないんだ。


「ここだッ」


 僕は一人だけ明後日の方向に曲がってしまった。すぐには上手くいかない。焦らず毎日少しずつだ。


「さぁ、今日はおしまいだ。ご飯にするよ。今日もよく頑張ったね」


 毎日こんな過酷な訓練をこなせる理由は、マーナのおかけだろう。ほとんどは厳しいが、時には優しく、上手くできた時には褒めて貰える。挫けそうな時には、見捨てずに見守ってくれる。僕は、マーナに母性ーー母に抱くような感情を持っていた。


「今日はオーク肉だよ。最近よく頑張ってるからね。ロキには特別に焼いといたよ」


「ーーグスン」


 急に涙が頬を伝う。孤児院ではいつも本と一緒に食べていた。誰かと一緒に食べるご飯が、こんなにも美味しいなんて。暖かい気持ちになる。


「な、泣くほど美味しいのかい?」


 突然僕が泣き出したから、マーナは慌てている。


「また泣き虫ロキが始まった」


 スコルからは、からかわれる。


「ーー♪」


 ハティは何も言わず、僕の頭をポンポンしてくれた。肉球が気持ちいい。


 おかしな話しだけど、この瞬間、実感したんだ。


「僕は、幸せだなぁ」


「ーー食え。足りなかったら、もっと焼いてやるからな」


 珍しくスコルが素直に優しい。


「ーーううぅ、ありがどう。美味しい!うぅ…」


「泣くか、食うかどっちかにしな!」


 マーナのツッコミでその場が和んだ。


「「ワハハ」」





「ねぇ、マーナのこと。母さんって呼んでいい? ほ、ほら、スコルとハティは呼んでて僕だけマーナだったら、変かなって思ってさ」


「…お前はもう我が子同然だ。もちろん、構わないよ」


 エメラルドグリーンの瞳を細めて、優しく認めてくれた。


「やった! 母さん、ありがとう!」


 ロキは無邪気に走って、スコルとハティに合流した。今日から実際に二人に同行して狩りをする。基礎は教えた。後は実戦で経験を積む。


「ここにあるのは、好きに使っていい」


 ハティに案内された部屋には、いくつもの武器や防具が煩雑(はんざつ)に置かれていた。それに用途不明の怪しげな道具(アイテム)まである。


「凄い!こんなにたくさん! 僕に使えそうな武器あるかな…?」


 ロキの身の丈はありそうな巨大な斧を手に取ってみるが、まず持ち上がらない。次に、綺麗な装飾が施された直剣を見つけた。鞘から抜いてみると、刃の部分が薄く発光している。


 剣を正眼に構え、何度か素振りしてみる。まるで物語に登場する騎士になったみたいだ。


「ハティ、これどうかな!?」


「似合わないし、重心がズレてる」


 ハティはチラッと一瞥すると、めんどくさそうにそう答えた。


「…そんなに直接的に言わなくったっていいじゃない。僕も似合うとは思ってないけどさ」


 剣を鞘にしまうと、口を尖らせる。その時、武器に埋もれた隙間から光を見た。手を突っ込んで引き寄せると、その手には一つの短剣が握られていた。過度な装飾はない。シンプルで実用的だ。それに、なにより手に馴染む。初めて持った短剣なのに、日々愛用しているかのようだ。刃の部分には何やら文字が刻まれているが、装飾なのか全く読めない。


「武器は、これにしよう。あと防具は、と」


 全身甲冑(フルプレートアーマー)を見つけた。こんなのを僕が着たら、重すぎて動けない。僕の武器は速さだ。防具は硬さよりも、軽さを重視した方がいい。こうなったらいいとこ取りだ。


「このインナーと脛当てに、こっちからは、胸当てだけもらおう。この重い籠手は手の甲から先は取っちゃえ。肩当てを付けて、と。よし、完成だ!」


 急所を守り、敵と接触する手足、肩を防具で補強した。僕の戦い(スタイル)は、足を止めて戦わない。捕まったら負けなんだ。だから、これで十分。


「今度はいいんじゃない?」


 ハティからのお墨付きを貰えた。早く実戦で試してみたい。


 僕の状況を整理すると、こんな感じ。


ーーーーー

名前 :ロキ

職業 :見習い盗賊

スキル:忍び(スニーク)

装備 :質素な短剣、銀の装備シリーズ(甲手、肩当て、腰、脛当て)、鉄の胸当て

特技?:動物、魔物と話せる

ーーーーー


 もっと強い武器があったら、軽くて丈夫な防具があれば、強力な職業やスキルを持っていれば、ないものねだりはやめよう。配られたカードで勝負する。


 僕の冒険は始まったのだ。


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