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ダンジョンから愛をこめて  作者: 葉山 友貴
第一章 出会い
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第25話 初探索<ノルン視点>

 ダンジョンの入口の前に人だかりができていた。真新しい武器や防具を仲間うちで自慢しあっている。ノルンは微笑ましい気持ちになっていた。


「集合場所はあそこね…あ、おーい! 二人も一緒に行くのね!? ドレイクは居ないの?」


 その一団の中に見知った顔を見つけ、駆け寄る。


「久しいな、ノルンよ。あの時は世話になったな」


 モリソンはひょろっとした細身の長身の戦士。頭は硬いし、口下手だけどいざとなった時は、凄く頼りになる。盗賊との戦いでは、私を命がけで守ってくれたお陰で、必殺の魔法を発動することができた。


「ドレイクは参加しないそうだ。なんでも野暮用があるとかで。あ〜酒が飲みてえな〜」


 バッカスは神官。質素倹約、清潔を品位とする神官からかけ離れた生臭坊主。なんでも娘さんを亡くしてから、こうなったみたいで強くは言えないのよね。しかも、神官としての腕は一流。実戦経験も豊富な貴重な神官。


「禁酒してるんでしょ? あなたがこういう作戦に参加するのは、珍しいわね?」


「…エリンとは、顔見知りでな。駆け出しの頃、面倒を見てやったことがある。あとは暇だったからな!」


 バッカスは照れ隠しのように最後は大声で言った。こう見えて面倒見のいいおじさんなのだ。生きていたら娘さんと同じくらいの歳だろうし、気になるのかもしれない。


「そう…。今回は新人の神官も多いから、頼りにしてるわね!」





「みんな!よく集まってくれた!」


 一段小高い段に登りギデオンが声を張り上げている。よく通る声だ。雑談が一斉に止んだ。


「今回は実戦形式の研修だ。こんな機会めったにないからな!気を引き締めるように!この研修で、リーダーを務めるギデオンだ!よろしくな。あともう一人、特別ゲストがいる………あの、メーディアだ!!」


 ギデオンが壇上から降りると、入れ替わりでメーディアが立った。観衆からざわめきが起こる。噂だけが一人歩きし、もはや職員の間で伝説のように仕立て上げられた存在。誰しもが恐れながらも憧れの感情を抱いていた。


「何が、あの、だ?ギデオン? こういうのは苦手なんだよ。あー、よろしくねー」


 ギデオンに詰め寄った後、やる気が無さそうに軽く手を挙げた。私には分かる。あれは照れているときのメーディアだ。


「各パーティに、先輩職員を一人つける。分からないことがあれば、その先輩に何でも聞いてくれ! ダンジョンを探索して、異変や気になることがあれば、些細なことでも教えてくれ!以上だ」


 ギデオンは一通り説明し終えると、自分の受け持つパーティのもとへ歩いていった。それを皮切りに再度一団は雑談が再開される。特にメーディアのパーティでは、黄色い声が目立っていた。ノルン、モリソン、バッカスは自分の受け持つパーティへと向かう。



「さぁ、あなた達が私のパーティね。まずは自己紹介からしましょうか。私は、ノルンよ。職業は魔術師、よろしくね! じゃあ、次はあなたから」


「は、はい!俺は、ニルギリです!戦士です!」


 カチコチに緊張した少年。歳は私よりも少し下かな? そこまでガッチリとした体型ではないのは、成長期前だからかな。


「次は、私ですねっ!ルフナです。職業は狩人。斥候の真似事と、弓が得意です。鍵開けは苦手です…あと近接は練習中…」


「…嘘つけ」


「何ですって!?」


 ルフナという少女とニルギリは顔見知りなのか、仲良く火花を散らして喧嘩している。


「二人は仲が良さそうね」


「全然!です!こいつとは、ただ村が一緒なだけで。腐れ縁みたいなもんです!」


「私も、こんなやつと一緒にしないでください!」


 助け舟を出したつもりだったんだけど、収まるどこらか火に油を注いでしまった。


「何だと〜」「何よ〜」


「まぁまぁ、最後は僕だね。僕は、神官のルクリリ。こんな顔だけど、歴とした男です。今日はメーディアさんの一番弟子とさて名高いノルンさんのパーティに入れて、幸運だなと思ってます!つまらない喧嘩なんてしないで貪欲に吸収していきます!」


 ルクリリの自己紹介にニルギリとルフナの二人は下を向いて黙ってしまった。かわいい顔して、ホントいい性格をしてるわね。


 男二人に、女一人。私を入れて、四人のパーティ。前衛は戦士一人、中衛はルクリリと私かな、後衛は弓が得意なルフナに任せるのがいいかな。ノルンは、三人の紹介を聞いて、瞬時に隊列の編成を考える。助っ人として、何度も臨時パーティを組んだ経験のあるノルンにとっては、朝飯前のことだった。


「準備はいい? 武器、防具、弓、矢に、ポーション、大事な物は最終チェックして。それじゃあ、行くわよっ!」


 ダンジョンへの扉を開く。何度入っても、この瞬間だけは慣れない。ヌルッとするような誰かに見られているような、気持ち悪い感覚。


 そこは洞窟の中。光苔が淡い光源となっている。雨でも降ったかのように湿度は高い。


「ここが、ダンジョン…」


 上層一階に降り立った新人の三人が息を飲む。


「狩人のルフナは周りを警戒して。斥候役、お願いできるわね? 魔物と遭遇したらすぐに戦士のニルギリと交代(スイッチ)。ニルギリはこのパーティ唯一の壁役よ、しっかりね。とりあえず私は危なくなるまで手を出さないから、あなた達だけでやってみて」


 目的は上層の探索と、上層四階、あの化物(ナイトメア)がいた部屋の調査。


 ダンジョンは上層、中層、下層と最近見つかった深層から成り立つ。深層を除き、それぞれの階層は十階ずつで構成されている。


 ただし、人が把握している限りの話だ。というのも人類はダンジョンを攻略していない。歴代最高との呼び声が高い冒険者パーティ"銀翼の翼"でさえ、深層は歯が立たなかった。


 深層の一階層目である三十一階に足を踏み入れた途端、原因不明の力を受けて深層の魔物に大怪我を負わされてしまった。その怪我を受けたにも関わらず、一人も欠けることなく生還したのは流石というべきだろう。


 今回の目的は、上層四階だ。いくら新人パーティとはいえ、訓練を積んだ職員だ。さらに経験があり、腕の立つ先輩職員が同行するのであれば危険度は限りなく低い。万が一、異常事態(イレギュラー)があったとしても今回はメーディアがいる。念には念を入れた体制のはずだった。






「そこの曲がり角から、魔物が来る!五匹くらい?」


 斥候役のルフナから曖昧な警告が出る。


「…ずいぶんざっくりしてるわね。斥候役は魔物の数に加え、飛んでいる敵か、四足歩行の速そうな敵か、敵の陣形まで分かれば伝えることね。今回の敵は、ワイルドバット二体、ラージラッド二体、ゴブリンが一体ってとこね。数は合ってたわよ」


 すぐにノルンから訂正が入る。この時、ノルンは微弱な風魔法を常時発動させていた。空気の流れを感じ取り、探知機のように迫り来る魔物の情報を正確に感じ取っていた。驚愕すべきは、その繊細な魔法操作の能力と微弱とはいえど、常に発動を可能とするその魔力量。


「…凄い。どうして分かるの!?」


 ルフナは驚愕の表情。驚きのあまり敬語を忘れてしまっていた。


「日々の鍛錬ね。私は魔術師だから、魔法でのアプローチだけど、自分に出来ることを磨き上げれば武器になるわよ」


「…来るぞっ!!ルフナ、下がれ!」


 興奮気味のルフナを強引に後衛に押し込むと、最前線にニルギリが出て行った。いいタイミング。普段、ガサツな印象を受けるニルギリだけど、案外視野が広いのかも。それともルフナをずっと見ていただけ?


「ーッ!くらえっ!」


 ニルギリは片手剣とバックラーのような小型の盾を装備している。体格的にも大剣は使いこなせないからだろう。敵の攻撃を小盾でいなし、剣を叩き込む。ラージラッドが真っ二つに分かれた。もう一体には水平に剣を振る。


「おっしゃあああ!!」


 二体を屠り、気合いの雄叫びを上げる。


「そこっ!油断しないで!」


 後衛から矢が飛ぶ。空中からニルギリの死角へと回り込んでいたワイルドバットに命中する。


「ルフナもね」


 足元スレスレを飛ぶワイルドバットが前衛をすり抜け、中衛であるノルンの前に姿を現した。


「シャアアアアアア」


 変則的に飛び回りながら、牙を剥き出しに敵意を露わにする。


「風魔法『ウィンドバレット』」


 杖を前に突き出す。発動と同時に敵が弾け飛んだ。


「今、何を…?」


 ノルンの隣で見ていたルクリリは驚愕の表情を隠せない。戦闘が始まってから、いつでも動けるように集中して戦いを見守っていたはずなのに、目の前で何か起きたか理解出来ない。いや、頭では理解できる。受け入れたくないのだ。手が届かない、規格外の存在を。


「…速すぎる。ありえない。どうしてそんな速度で魔法を発動できる…? しかも、何だ、あの魔法は…避けられるはずないじゃないか…これだから天才は…全く嫌になる」


 ブツブツと毒を吐く。一つずつ積み重ねてきた努力を一気に飛び越えて見せた。それが才能、生まれながらに持っていたもの。ルクリリは毒は吐くが、腐ってはいない。これがルクリリ式の心の安定を保つ方法だった。


「隣にいるから聞こえてるぞー。こんなキャラだったのか…。暫くは、そっとしておこう…あとはゴブリン一体!任せたよ」


 ノルンは観戦モードに入っていた。持ち直したルクリリはいつでも動けるように再度見守りの体勢に戻る。


 新人が、初めて戦う魔物はゴブリンが多い。直線的で単調な攻撃。力はそれほど強くないし、体格だって子供くらいだ。


 だたし、殺意は本物。本気で自分の命を取りにくる。その敵意に、悪意に当てられて足がすくんでしまう者は珍しくはない。


 ニルギリの足は震えていた。


「これはな、武者震いだからなああぁぁ」


 短い掛け声と共に袈裟斬り。運悪くゴブリンの棍棒に当たり斬撃がズレる。これでは致命傷にはならない。ゴブリンは先の攻撃でダメになった棍棒を放り投げると、手ぶらのまま襲いかかってきた。


「えっ!? うわぁぁぁ」


 口を大きく開けたゴブリンがニルギリの腕に噛みつく瞬間。


「はっ!! ーーダンジョンでは、常に冷静でいなければならない。取り乱せば即、死に繋がるからだ、と僕は教わった」


 ルクリリは、杖でゴブリンの顎を的確に打ち抜いた。流れるようにゴブリンを連続で殴打し、絶命まで導く。背中越しにニルギリに声をかけていた。


「こ、今回は、たまたまだっ! まぁ、礼は言っとく…ありがとな。正直、助かった」


 俯き加減にそう呟く。


「ほんっと、昔から詰めが甘いんだからっ!」


 後ろから大股で歩きながら語気を強める。ニルギリの前までくると、両手を腰に当てて正面から見据えた。


「…怪我が無くてよかった。ルクリリ、ありがとうね。ニルギリ!挽回するよっ」


「お、おう!当たり前だ!」


「ふっ、いつでも頼っていいんですよ。怪我をしたら治してあげますからね」


「あ!今、勝ち誇った顔してただろ!? 次は負けないからなー!」


「騒がしいし、まだまだ未熟。…でも、いいパーティだね」


 ノルンは目頭を押さえながら、そう感じたままに言葉にした。そして探索を再開する。

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