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ダンジョンから愛をこめて  作者: 葉山 友貴
第一章 出会い
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第21話 マグマゴーレム戦


「…ということで、マグマゴーレムとの戦いについて、作戦会議を開きます! その前に、ウンディーネは参戦できそう?」


「ワタシは水のない場所では長く活動できん。短時間ならやれないこともないが、力は減少するだろう。マグマゴーレムとやらの場所は、この泉から遠いのだろう? 残念だが、ワタシは協力出来ぬな」


 本当に残念だ。マグマゴーレムにとって、水の精霊であるウンディーネは天敵みたいな存在だろう。正直、頼りにしていた部分があった。


「加護くらいは与えてやってもよいがのう。無いよりはマシだろう」


「ありがとう。あとは、あのゴーレムは物理攻撃より魔法の方が効果的だと思うんだ。 魔法が使えるのは…」


 フレデリカとエリンの手が上がる。エリンは恐る恐るといった感じだ。


「私は、風魔法と歌を使った補助魔法が得意よ。相手が生物なら歌で妨害も出来るんだけど…今回は無理ね」


 何事も相性だろう。生物が相手ならフレデリカの歌は強力な武器になったばすだ。


「私は、光魔法、です!でも、一つだけだし、覚えたばかりなのであまり期待はしないで欲しいかな…」


 ハーピーの群れに流星群の如き魔法を使った時とはうってかわって自信なさげだ。


「あの時はどうかしてたんです。怒りで目の前が、真っ赤になってしまって…」


「それでも、次に挑む戦いはフレデリカとエリンを中心に組み立てようと思う。あとは、もう一つ武器が欲しいな。出来れば僕達にも扱える、魔道具のような…。


 そうだ!!カインとコウケイにゴーレムに通用する魔道具を作って欲しい」


「なんじゃと!?」「無理難題ネ!」


「それでも頑張って貰いたい。ウンディーネも手伝ってね」


「何やら面白そうだの。あい、分かった」


 新しいおもちゃを与えられた子供のようにウンディーネの目はキラキラと輝いている。


「魔道具が完成したら、出発するよ!それまでは魔法を組み込んだコンビネーションの練習だ!スコル、ハティも準備はいい?」


「「ウォン!!」」


 こうして僕らの猛特訓は始まった。








 魔道具の作成は難航していたが、着実に前へとは進んでいた。ウンディーネがいい仕事をしているみたいだ。カイン曰く、魔道具の作成は錬金術師の分野で、鍛治師や薬師である二人の専門外らしい。試行錯誤で始めた魔道具作りだったが、ウンディーネの魔法的助言により、形になってきた。精霊というのは伊達じゃないようだ。





 一方、僕らは訓練に励んでいた。その休憩中、珍しくエリンから話しかけられた。基本的に受け身のエリンが積極的になるのは珍しい。


「あの…どうして、ロキ、さんは私のためにこんなに一生懸命やってくれるんですか? ゴーレムに挑むなんて、死ぬかもしれない危険を伴うのに…」


 エリンは胸の前で手を組み、不安そうな顔をしている。


「エリンは、母さんのために身の危険をかえりみずにナイトメアの前に挑んだよね?あんなに強力な魔物、すごく怖かったはずだよ。足が震えてたし。それでも母さんのために命をかけてくれた。一緒に泣いてくれた。その恩に報いるのは当然だよ」


 僕の回答に、スコルとハティも頷いている。


 何でもない事だと言ったつもりだったのに、エリンは急に泣き出してしまった。


「ロキ、ざあぁぁぁん!!」


 困った。背中を撫でると、余計に泣き出してしまう。


「おお!! ついに、出来たぞい!!」


 カインの大声が響いた。ナイスタイミングだ。


「エリンよ!何を泣いておる!?完成したぞ!見てくれ」


 カインとウンディーネが完成したての魔道具を片手に雪崩れ込んできた。一刻も早く見て欲しかったんだろう。興奮冷めやらぬと言った感じだ。


 その見た目はボールのよう。投げて使うみまいだ。それなりの重さを感じるが、これならエリンでも投げそうだ。


 まずはテスト。目印の木に向かって思っ切り投げた。


 ぶつかった瞬間、ボールを中心に巨大な水の玉が出現した。水が玉を維持出来なくなると、重力に従って地面に水溜りが出来た。その効果は絶大。残された木の幹は球状に抉れていた。


「すごい…すごいよ!!」


「じゃろう〜? ワタシの水球を模して作ったのじゃ!カインとコウケイと三人で頑張ったんじゃぞう」


 すごいのは分かったんだけど、ウンディーネの口調がカインと似てきた。昼夜を共にするうちに移ったのかな。このやりとりの間に、カインとコウケイはグラグラと頭が揺れ始めた。


「「もうダメじゃ(ダメネ)」」


 二人が倒れた、かと思えばそのまま寝始めた。徹夜で魔道具開発に励んでいたのだろう。睡眠がいらないウンディーネな合わせていたのかもしれない。このまま寝かせてあげよう。







 翌日、出発の朝。


 スコル、ハティ、エリン、フレデリカ、僕の総勢五人はそれぞれ準備を整えていた。


 ウンディーネ、カイン、コウケイの三人は留守番だ。元々、カインとコウケイは戦闘向きではない。それに一人でウンディーネを残したら、寂しがると思う。


「ーー清らかなる聖水よ。我が、ウンディーネの名において、其方らに水の守りを与えたまえ」


 神々しい雰囲気を身に纏ったウンディーネが祈りを捧げた。涼しげな薄い膜に包まれているような感覚がある。


「これで火に対する耐性がつく。それに、攻撃に微々たるものではあるが、水属性がついたぞ。火の魔物相手なら有効じゃろうて」


「ありがとう。心強いよ!」


「加護は一日しか持たないから急ぐのだぞ」


「十分だよ。それじゃあ、行ってきます!」


「ウオォーーーォォン」


 スコルは細く長く、遠くまで聞こえるように遠吠えをした。すると、暫くして規則的な足音が聞こえてきた。地を鳴らす足音は僕らが待つ手前で一斉に止まる。


「兄貴!呼びましたか!?」


 そこには、ワイルドウルフの群れが一列に並んでいた。舌を出して、荒い呼吸を繰り返している。よほど急いで来たのだろう。


「お前ら遅いぞ。次、呼んだらもっと早くこい!」


 暴虐無人な振る舞いに呆れる。


「へい。分かりました!すいやせん!」


 まるで舎弟だ。野生の姿はめっきり面影がない。


「お前らに頼みがあって呼んだ。こいつらを乗せて運んで欲しい。ーーマグマゴーレムを倒しに行くからよ」


「え!?あの岩の化物をですか!?さすが兄貴っす!!」


 ワイルドウルフ達がざわついている。スコルに憧れの視線を注いでいた。すっかり兄貴で定着していた。


「そういう事ならお安い御用で!おい!精鋭部隊、前に出ろ!」


 選抜されたエリート・ワイルドウルフは一歩、前進した。まるで訓練された兵士のようだ。


 そのウルフ達の背に乗せてもらった。今回は加護の時間制限がある。


 移動速度重視のため、事前にスコルに相談してたんだ。そしたら、いい方法があると、悪い笑みを浮かべていた。


「重くてごめんね。よろしくね」「バウ♪」

「私、重くないかしら?頼むわね」「バウッ♪」

「頑張ろうね!」「…バウ」


 明らかに僕のワイルドウルフだけ乗り気じゃない。エリンとフレデリカを乗せたウルフは嬉しそうだ。尻尾をこれでもかと言わんばかりに振り回している。


 僕らはカイン一同見送りの元、出発した。この時もカインのバックの中には上層で手に入れた卵が入っていた。肌身離さず持ち運んでいるらしい。その卵が微かに震えていたことに誰も気付いていなかった。



 ワイルドウルフは、スコルとハティには敵わないけれど、継続して僕が走るよりはずっと速い。騎乗して目的地のマグマゴーレムのところまで、ひたすらに走った。


 道中、フレデリカから話しかけられた。


「ごめんなさい、昨日のやり取りを聞いてしまったんだけど…あなた達地上を目指しているの?」


 エリンの泣き声が聞こえていたのだろう。大声でやり取りしていたのだから、無理もない。


「そうだよ。そういえばフレデリカはどうして上層を目指していたの?扉の前にいたよね?」


 マグマゴーレムに見つかって、それは敵わなかったのだが、遠目から見つけた時を思い出した。


「私も地上を目指しているのよ!!


 ーーそれなら、地上まで私も同行していいかしら?!」


 一大決心といった感じで身を乗り出す。重心が寄ったウルフは転びそうになるが、必死に耐える。


「もちろんいいよ。フレデリカが一緒に来てくれたら心強いよ」


 何か事情がありそうだ。フレデリカから話してくれるまで、あえては聞かない。数少ない経験から肌で感じた。


「あら、ありがと。さすが私の王子様っ!」


 頬に軽いキスをされた。心臓が跳ね上がる。顔に熱を持つ。動揺している僕を尻目にフレデリカは颯爽と行ってしまった。







 道中は特に障害はなく、順調に進んだ。先頭でスコルが威嚇していたからかもしれない。


「扉が見えたぞ。ゴーレムは…居ないな」


 岩石地帯の端、終点にたどり着いた。切り立った岩場から、上層へと続く扉を見下ろす形。


「私が扉に手をかけた瞬間、ただの岩山だと思ってたのが動き出したのよ!」


 フレデリカはあの時の光景を思い出し、恐怖がフラッシュバックする。思わず声が上ずる。どうやら平時は擬態しているらしい。


「誰が行く…?」


 仲間を見渡すと、一斉に目を逸らされた。


「はぁ、僕が行ってくるか」


「ロキさん!回復魔法は任せてください!」


 エリンは負傷する前提みたいだ。


「鎮魂歌を歌ってあげるわ!」


 フレデリカに鎮魂されては堪らない。まだまだ生きていたい。扉に手をかけたら全力で戻ってこよう。


「みんな、ひどいよ…。行ってくるね。魔法の準備よろしく」




 暑い。扉に近づくにつれて、体感温度が上がる。もうどうにでもなれ、崖から飛び降りる気持ちで扉に手をかけた。


「ーーゴオォォォォォォォ」


 低い地響きのような雄叫びと共に、背後でゴツゴツと岩同士がぶつかり合う音が聞こえる。振り向くのが怖い。


「風魔法『ウィンドバレット』」

「光魔法『ホーリーアロー』」


「ゴッ!?ゴオオオオオ」


 間髪を開けずに魔法が命中する。


「今だッ!! うわ、おっきいな!」


 近くで見上げると、その巨大な姿に圧倒される。頭に魔法の直撃を受けたマグマゴーレムは体勢を崩していた。この隙に仲間達の元へ合流する。


「こ、怖かった、死ぬかと思った。魔法援護ありがとう」


「もうちょっと溜めてもよかったのよ?エリンが急かすから」


「だって、ロキさんに危ない目にあってると思ったら、私見てられなくて…」


「タイミングはバッチリだったよ!むしろもう少し遅かったら、危なかった…」



「ーーゴオォォォォォォォ」


 体勢を整えたゴーレムが雄叫びを上げる。表情は分からないが、怒っているのかな。


「いくぞ!」

「ウォン!」「はい!」「分かったよ」



 スコン、ハティはゴーレムに密着し、撹乱している。僕は少し距離を取り、カイン達から託された魔道具『ウォーターボール』を握りしめる。ちなみに僕が名前をつけた。普通すぎると不評だったけど、あまりに恥ずかしい名前だったら、使い辛い。


 とにかく魔道具は有限だ。まずは弱点を探り、全弾そこに叩き込むのが理想だ。




「…硬い」


 ゴーレムの太ももに牙を突き立てたハティは涙まじりに呟く。腕、足、胴体、どこも硬い。岩の塊だ。しかも、体中にマグマが張り巡らされている。ウンディーネの水の加護が無かったら、恐らく攻撃するだけでこちらが重傷を負っていただろう。


 背後に回ったスコルが膝裏を爪で攻撃したその時、ゴーレムがぐらついた。その隙に、スコルが同じ箇所へ追撃をかける。一糸乱れぬコンビネーションだ。


「ゴッ? ゴオォォォ」


 バランスを崩したゴーレムは思わず片膝をつく。立ち姿であれば到底届かない頭部に今なら手が届く。しかもバランスを崩して動きを止めている今なら。虎の子の『ウォーターボール』を一つ取り出して、思いっきり投げつけた。


 結論から言うと、効果はあった。あったのだが、劇的というほどではない。感触的にフレデリカの放つ風魔法と同じくらいだ。


「頭は弱点ではないのか。フレデリカ、エリン!手答えのある部位は分かった?」


「分かりません…」「何とも言えない。どこに放っても、まるでダンジョンの壁に向かって当ててるような感触なんだ」


 このままだとジリ貧だ。今のところゴーレムの鈍重さもあり、スコルとハティにダメージはないたが、体力に限界はある。持久戦になったら、こちらが不利だ。


 これまでの攻防で、何か見落としてないか。そもそもゴーレムはどうやって動いているんだ?魔力が動力源であれば、どうやって供給されている?


 ふと、ゴーレムの動き出した時の様子が頭をよぎった。赤い線が血管のように体中に巡っていって、それから動いていた、と思う。もしかして、その赤い線の元を叩けば、止められるのではないか。


「フレデリカ、エリン!ゴーレムの心臓を狙って!」


「心臓って、あの胸ある赤い小さな魔石みたいな場所? 外しても怒らないでね〜」

「難しいですが、頑張りますっ!」


 風魔法と光魔法を放つが、一部屋分くらいはありそうな巨大な掌に阻まれる。しかし、必死で心臓を守ったのを見ると、大事な部分であることは間違いなさそうだ。


「スコル、ハティ!お願い!」


「無茶ばかり言う、やってやる、がなッ!」


 スコルは大きく地面を蹴り出し、一気に加速する。


ーー心臓が狙われている。


 その気配を感じ取ったゴーレムはスコルを止めようと必死に迎撃する。真っ赤に熱せられた岩礫を手から発射する。しかし、一度スピードに乗ったスコルには当たらない。全てを置き去りにし、スコルはさらに加速する。


 空気を切り裂くように駆けるスコルの周りには、徐々に火花が散り始める。それを無理やり魔力で制御する。それはフェンリル固有スキルの鱗片。荒れ狂う炎を自身の周囲に留め、敵を穿つ。何人たりとも近づくことは許されぬ炎。赤熱の太陽。


 発現したばかりのスキル。さらに今回は相手が悪かった。地獄の業火でさえ、耐えるような火耐性をもつマグマゴーレム。これが通常のゴーレムであれば、心臓に風穴を空けただろう。


 スコルの突撃を心臓に受けたマグマゴーレムは…未だ健在だった。フラフラと覚束ない足取りで、確かなダメージを受けてはいるが、二本足で立ったままでいる。一方スコルは、極限まで加速した運動エネルギーを衝撃に変換。空中に投げ出されていた。重力に従い落下の最中。


 刹那、スコルはマグマゴーレムと目が合ってしまう。交差する視線。強敵と認識したゴーレムは、油断なく拳を振りかぶる。空中にいるスコルに逃げ道はない。絶体絶命の状況でも、スコルは焦らなかった。それは、その視線の先に見えた半身。ハティの存在がいたからだ。




 ハティは視界にゴーレムとスコルを捉えたまま走り込んでいた。背後からゴーレムに忍び寄る。その拳を振り上げた瞬間、一気に加速。振り下ろされる巨大な拳の下に潜り込む。そして、寸分違わないタイミングでその剛腕を逸らす。


 岩と金属が擦り合う甲高い音が響き渡る。一瞬でもズレれば、自分ごと押しつぶされただろう。少しでも躊躇すれば拳に置いていかれただろう。僅かでも臆すれば、スコルはこの世に居なかっただろう。それでもハティはやってのけた。


「一撃でダメになっちゃった」


 ハティの背には、人間の盾があった。その中心部からはヒビが入る。ゴーレムの拳を逸らすために、盾で押し返した結果だった。この盾はカインに持たされた物。元を辿れば、上層から落とされた時に砦に使っていたガラクタの一部だった。


 長年、人間の道具を集めてきたハティにとって人間の武具を装備するのには何の抵抗もなかった。むしろ盾がなかったら、あの攻撃を防ぐことは出来なかっただろう。感謝してるくらいだ。


「スコルも使いなよ」


「むう。しかし、己の爪や牙を以外の武器はだな…」


 無事に地面に着地したスコルはハティに礼を言った後、同じくカインから渡された武具を前に迷っていた。


「ゴオォォォオオオォォ!!」


 マグマゴーレムは怒っていた。足を踏み鳴らし、地震のように大地を揺らす。扉の守護を仰せつかっていた手前、広範囲に及ぶ攻撃はあえて避けてきた。それが僅かに残っていた理性と共に吹き飛んだ。扉を破壊するほどの地ならし。当然、この揺れの中を二本足で立てる人間は居ない。


 ロキとエリンは手をついて揺れが収まるのを待つことしか出来なかった。


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