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ダンジョンから愛をこめて  作者: 葉山 友貴
第一章 出会い
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第19話 ハーピー


 こちらは食料調達&拠点確保組。ハティ、カイン、コウケイの三人は草原地帯を進んでいた。


「お肉、発見」


 ワイルドウルフの群れに遭遇。ハティは問答無用で襲いかかった。散り散りに逃げ惑う狼の群れ。ほどなくして、ハティは得意げに二体の戦利品を口に加えて戻ってきた。足取りは意気揚々といったところだ。


「なぁ、コウケイよ」

「何だヨ」

「ワシら、こっち側でよかったな…」

「…同じこと思ってたネ」


 ゴブリン組は互いに肩を叩き合い、幸せを噛みしめる。



 とりあえずの食料は確保した。道中、果物や木の実があれば採取するとして、あとは水場と当面の拠点だ。水場が近くにある拠点ならなお良し。


 草原を歩いていると、遠くに森が見えてきた。果物や木の実を探すために、一同は森へと入る。


「この森は豊作じゃの」


 木登りしたカインは熟れた果物を器用にもぎっては下に落とす。それをコウケイが受け取り、懐にしまっていく。


「後で薬草探しもしたいネ。こういう森に自生しているのだヨ」


「コウケイはいいのう。ワシも早く鍛治仕事がしたいワイ」


「鍛治は準備する物が多いから大変ネ。炉が有っても、薪や水だって必要なんだネ?」


「おお、そうだ。よく知っているな。例えば、こういう森に泉があれば、うってつけなんじゃが…あれは、何じゃ?」


 カインが木の上から何かを見つけたようだ。スルスルと降りてくると、興奮したようにある方向を指差す。


「水、見つけたぞ!! 湖じゃ!」


「行こう!」


 ハティは二人を背中に乗せ、森の中を走った。進化したことで少し狭いが、詰めれば二人乗れるようになっていた。足場の悪い森歩きは、四足歩行の方が圧倒的に速い。あっという間に湖に到着した。


 そこは、森の中にぽっかりと切り取られたように存在していた。美しい光景が広がっていた。静寂に包まれた湖には、波紋ひとつない。薄らと緑の苔が生えており、木々の間から差し込む光は湖面に反射し、キラキラと輝いている。


「こんな所に、水場が…なぜじゃ?」


 魔物に荒らされておらず、"不自然な"ほど手付かずの湖。



 カインが湖の水を飲もうと、手ですくうと、水が急に盛り上がった。それは急速に人型を形作り始める。


「湖畔を荒らす不届き者よ。それ以上踏み込めば命はないと思え」


 研ぎ澄まされた剣のように鋭く尖った切っ先をカインの喉元に突きつける。水のはずなのに、喉を貫ぬくだけの強度を持つ説得力がある。思わず良くない想像をしてしまう。


「も、申し訳ない。悪気は無かったんじゃ。この美しい風景を汚そうなんて思いもせん!」


 両手を上げ、降参の構えで叫ぶ。


「ほう、お主、魔物にしては見どころがあるな。ゴブリン」


 人型の水はカインの喉元から剣を引く。なんとか落ち着いて話すことができた。


「ワシは、トバルカインじゃ。カインと呼んでくれ」


「ーーワタシは、ウンディーネ。ワタシは、気がついたら湖にいたのだ。この付近には乱暴な不届き者しかいないし、水場もないから移動出来ない。話し相手に困っていたのだ。カインよ、また遊びに来てよいぞ」


 カインは気に入られてしまった。ウンディーネを刺激しないようにハティとコウケイを連れて、そそくさと退散した。さすがのハティとはいえ、体が水で出来た相手では非常に分が悪い。ウンディーネは笑顔で手を振っていた。顔も水で出来ているから、恐らくといった感じだが。








 一方、探索組は草原地帯を抜け、岩石地帯に差しかかっていた。


「ハァハァ、歩きにくいな…」


「相変わらず軟弱だな。気合いで乗り切れ」


 スコルは僕にゲキを飛ばす。さすが余裕がある。足場が悪くとも、エリンを乗せた状態で岩から岩へ軽やかに移動している。


「む。この匂いは…ハーピーか!?」


 上空を優雅に飛び回るハーピーの群れを見つけた。スコルは鼻が効く。索敵において、フェンリルの右に出る魔物は中々いないだろう。


「ーーあらやだ。獣臭いわね」

「…あそこに、ワンコロがいるわよ」

「「ーーいやねぇ」」

「人間もいるわよ?」

「あらあら、男の子はかわいい顔してるけど、女の方は野暮ったくて全然ダメね」


 好き放題な言われようだ。エリンに通訳していると、だんだん顔が険しくなってきた。握り拳に力が入っている。僕が言ってるわけじゃないのに、なぜか僕への風当たりが強い。


「…何ですって??


 厳しい規律がある中で、少しでもお洒落に見えるように私が苦労して手作りしたこの礼拝服を、野暮ったいですって?」


「…ワンコロ、だと?」


 二人が怖い。特にエリンの目が怖い。静かに怒っている。しかもブツブツと何かを小声で呟いているみたいだ。怖くて聞き返せない。


「スコル、行くのよ。新しく覚えた光魔法はこの時のためだったのね」


「あ、ああ。俺を侮辱した鳥どもは許さん」


 あのスコルでさえ、エリンの圧力に押され気味だ。




「ーー光魔法『ホーリーアロー』!!」


 スコルに騎乗したエリンは、ハーピーに向けて躊躇せずに光の矢を放った。初めての使った魔法だったこともあって、ハーピー達には命中せずに空を切る。


「ーーいきなり魔法をうってきたわよ!」

「ダサいうえに野蛮だなんて、とんでもない娘ね!」


 空中では突然の襲撃に混乱が生じている。


「…スコル、私を乗せて出来る限り高く飛んでちょうだい」


「う、うむ。引き受けた」



「はあぁぁぁああ!!


 光魔法『ホーリーアロー』『ホーリーアロー』『ホーリーアロー』…教えられた内容がやっと理解できたわ。そういう事だったのね!





ーー多重魔法『ホーリーレイン』ッ!」



 まるで流れ星のようだ。何本もの流れ星は、流星群のように何本もの光の雨となり、ハーピーに降り注ぐ。


「何よ!!こんなの反則よ!!ーーキャアアア」


「ダサいって言ってごめんなさい!だから、許しーーギャアアァァ」


「…今更謝ったって許さないんだから。フフフ」


 逃げ惑うハーピーを見ながら満足そうにエリンは微笑む。怒らせないようにしようと心に誓った。きっとスコルも同じ気持ちだったと思う。僕らは自然と顔を見合わせ、頷きあった。



 ハーピーは物凄い形相で数々の悪態を吐きながら飛んでいった。いくら麗しい容姿をしていても内面までもが美しいとは限らない。


 そういえばあの綺麗な歌声のハーピーは居なかった。また聞きたいな、あの歌。縁があればまた会う事もあるだろう。二度会えば巡り合わせ、三度会えばそれを運命と呼ぶ。マーナは仲間を大切にしろと言っていた。仲間に誘ってみるのもいいかもしれない。








 ハーピー襲撃の時から、だいぶ歩いた。汗が止まらない。


「暑い」


 スコルが舌を出しながら険しい顔をしている。まるで暑さの元凶がいるかのように空を睨む。白銀の毛を持つスコルは寒さには強いようだが、その分暑さに弱かった。


「やっぱり?僕だけかと思ったけど、違うんだね」


 足場の悪い中を移動しているから汗をかいてると思ったけど、どうやら違うみたいだ。


「私にも暑すぎます…。この服しか持ってないんです」


 肌を見せないように全身を覆う礼拝服を纏うエリンにこの暑さは堪えるだろう。脱ぐわけにもいかないし、耐えてもらうしかない。




「ーーあれは!?」


 岩石地帯の終点。大岩群の向こうに上の階層へと続く扉が見えた。


「あったよ!扉だ!!」


 興奮のあまりエリンの手を取ってしまう。


「やりましたね!ロキさん! あのぉ、手が…」


 エリンは頬を朱色に染める。


「ハーピーがいるぞ。さっきの奴らではない。歌う方だ」


 早速、会えた。辺りをキョロキョロと見回し、恐る恐る扉に手をかけた。


 ゆっくりと大岩が盛り上がり、巨大な人型を成型しはじめた。岩に命が吹き込まれ動き出す巨大な人形ーーゴーレム。


「ーーやっぱり開かない。急がないと…気付かれる」


 規格外の大きさのゴーレムは、真紅の心臓から血管のような線を体中を巡られせる。それは血液を送り出すポンプのように鼓動に合わせて脈動する。徐々に周囲の温度が上がる。高温に熱せられた赤熱の表皮は、燃え上がらずとも真っ赤に着色されている。


「ーーゴオォォォォォォォ」


 一歩踏み出す度に足元が焦げつく。普通のゴーレムではない。ハーピーに向かって歩を進めているように見える。


「マグマゴーレム!? 本では見たことありましたが、実物は初めてです…」


「あのハーピーに向かっていってない?あの扉の番人なのかな?とすると、行動原理は…」


「ロキさん!それが本当なら、考察は後回しにして助けに入りますよ!スコルさん!」


「おう。と言いたいが、俺は熱いのが苦手なのだ…期待はするな」



 ゴーレムが拳を振りかぶる。動きは遅いが、その体積による攻撃は災害に近い。


 ハーピーが地面を蹴った直後、


ーードゴオオオオオ


 爆音が鳴り響いた。さらに熱風と伴った瓦礫が周囲を包む。


「えっ、うそ!? キャアアアァァァ」


 運悪く岩の礫がハーピーの翼に命中。熱風に揉まれ、空中でバランスを崩す。そのまま地面をまで回転しながら、落ちてくる。


「スコル!乗せて!」


「ふん!」


 スコルの了解を確認せずに瀬に飛び乗ると、一気に加速した。言葉にせずとも僕の意図を汲み取ってくれる。ハーピーの着地点を予想し、先回りする。


「そのまま、そのまま。少し左。ーー今ッ!!」


 両腕を伸ばして飛び込んだ。


「ーーう、グググッ!!…捕まえた」


 一気に両手に負荷がかかる。落下の勢いを殺しきれず、両足で地面を抉りながら耐える。…止まった。危うく激突寸前のところだった。その代償として、手足を負傷してしまった。


 僕が抱き抱える形で体が密着している。ハーピーは、恐る恐る目を開けた。顔が近い。大きな目を見開き、口をパクパクしている。


「あ、あの時の人間?! でも、どうして…」


「ゴーレムにやられるのが見えたから、急いで来たんだ。間に合ってよかったよ」


 僕は張り詰めた緊張を解き、安堵する。


「あなた、私の言葉が分かるの!?」


 ハーピーは驚愕の表情だ。


「あ、うん。僕の特技でね。あそこにいる狼のスコルも手伝ってくれんだよ。僕は、ロキ。…ロキ=マーナガルム。後で仲間を紹介するね」


「そう…なの? ごめんなさい、余りにも驚くことばかりでお礼がまだだったわ」


 一呼吸置いて、ゆっくりと瞬く。胸に手を当てる。


「助けてくれて、ありがとう。…あなたは私の王子様ね」


「えっ!?」


 いきなりの不意打ちに胸が高鳴る。


「うふふ。冗談よ。私は、フレデリカよ。よろしくね」


 フレデリカはウィンク一つすると、その整った顔を崩して笑った。


「おい。まだ気を抜くには早いぞ。あのデカブツが追ってきてる。逃げるぞ!」


 スコルは追いついて、そう忠告する。


「スコル!フレデリカを乗せてあげて!翼を怪我して飛べなさそうだ。あとは、エリンを乗せたら、全力で逃げるよ!」


「俺は、馬じゃないんだがな。…後で、歌を聞かせろよ」


「ええ、喜んで。お願いね、誇り高き白銀の狼さん?」


「ふん…スコルだ」


「あら、嫌われちゃったかしら?」


「あれは嬉しいんだよ。ほら、尻尾を振り回してるでしょ?スコルが初対面で、気に入るのは珍しいんだよ」


 スコルの尻尾は暴れ回っていた。そこには隠しきれない気持ちが存分に現れていた。


「逃げるぞッ!!」






 標的を仕留めきれずいたゴーレムは苛立っていた。その手から真っ赤に熱せられた岩を出現させ、この場から離脱しようとする地を駆ける小さき者達に向けて放り投げる。


 赤熱の岩石は地面に着弾すると、周囲を巻き込み爆発するが、その小さき者には当たらない。まるでどこに投げるか分かっているかのようだった。数回、投擲を繰り返すが、当たらない。そうこうしているうちに、見えなくなってしまった。


 仕留め損なったのは悔しいが、この扉を守護するうちは、また会えるだろう。それまで大人しく待とうではないか。そんな思いを胸に抱き、ゴーレムはただの大岩に戻る。扉に手をかける不届き者が現れるその時まで、再び眠りにつく。


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