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ダンジョンから愛をこめて  作者: 葉山 友貴
第一章 出会い
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第17話 中層


「ん…はっ!? ここは…外?え、草原?」


 眩しい光で目が覚めた。地面には背の短い草が敷き詰められ、辺り一面は青々とした草原が広がっていた。上を見上げると、急速に穴は塞がりつつあった。迷宮の中にいることは確かなようだ。


「ーー本当に、落ちてきたんだ。良かった、みんな居る。いや、母さんが居ない…母さん!?」


 周りには、マーナを除いて全員がいた。ナイトメアの亡骸もあった。マーナはどこだろう。しかも、どうしてあんな高さから落ちて助かったんだろう?草原がクッションになって、衝撃を和らげてくれたのだろうか。


「うるさいねぇ。目が覚めたんなら、どいておくれ」


 真下から声が聞こえた。


「母さん!!」


 マーナは傷ついた体で、落下の衝撃からみんなを庇ってくれていた。おかけで僕を始め、全員に目立った外傷はない。


「その声は、ロキ?もう目が見えなくてね」


 痛々しい姿だった。白銀で美しかった毛並みは血で汚れ、手足は折れ曲がっている。目は瞑ったままだ。


「みんなを起こすよ!」


「いいから、聞いておくれ。大事な話だ。今後、下層にある白狼族の里を探しな、きっと力になってくれる。このマーナの子だと言うんだよ。


 心残りは、ガルムには悪いことをした。息子達の面倒を見れなくなっちまったよ。あの世で謝らなきゃだね。


 …ロキ、お前が私の子になってくれて嬉しかったよ。お前の眼には力がある。自分を信じて突き進みな。壁に当たったら仲間を頼ること。頼もしい仲間がたくさんいるだろ?」


「母さん!!分かったよ!だから、あまり喋らないで!!」


「最後に、このマーナの名とガルムの名を貰って…お、くれ」


 マーナは、最後に満足そうに笑みを浮かべたまま息を引き取った。









ーーー気高く、美しく、そして慈愛に満ちた白銀の狼 マーナ ここに眠る


 草原を見渡す小高い丘に墓を建てた。


「ーー俺は、強くなる。誰よりも強くなる」

「…どんな敵からも守れるようになる」

「グスッ、マーナさん…。私は、どんな傷でも癒し、誰よりも慈愛に満ちた神官になります」

「「ワシは(私は)一流の職人になる」」


「僕は、この迷宮を、制覇する。そして誰も悲しまないような世界にする」


 それぞれの決意を胸に、墓標に誓いを立てた。



 その日は悲しみに包まれながら、みんなで身を寄せ合って眠りについた。今日は泣いていい。でも明日からは、もう泣かない。


 翌朝、日が昇ると同時に起床した。そう、この階層には、"太陽"がある。もちろん、本物ではない。擬似的な太陽だ。それに夜もあった。


「おはよう!みんな起きて!」


 スコルとハティは既に起きて、訓練していた。エリンとゴブ達が眠気眼を擦りながら起きる。


 ナイトメアの亡骸は一日経つと、迷宮が吸収し始めていた。このまま放っておけば、いずれ何も無くなるだろう。その前にマーナが倒した証として、その自慢の一角を頂いておいた。カインに頼んで、武器に加工してもらおうか。


「悔しいがワシの技量では、まだ無理じゃ」


「…まだってことは、いつかは作れるんだね?待ってるよ」


 カインと握手。男同士の約束だ。


「…おはようございます」


 エリンは時より欠伸をしている。まだ眠そうだ。


「僕達は、今日からここで生き残らないといけない。まずは、この階層の調査。次に、水場と寝床の確保。そして、マーナからの遺言ーー下層にある"白狼族の里"を目指す」


 みんなを見渡しながら、そう言い切った。


「下層…ゴクリ」


 エリンが唾を飲む音が聞こえる。


「分かった」「ーーコクコク」


 一方で、スコルとハティは意にも返さない。


「下層か、上等だ。強力な魔物にも通用する武具を作るぞい」

「私はポーション、ネ。下層の薬草を使えば、より上質なポーションが作れるネ」


 ゴブリンコンビはやる気に満ちている。


「ただ、その前にエリンを地上に送らないとだね。それに、ガルムの子供達も気になるし。この階層で拠点を作ったら、地上に向けて出発しよう」


「あ、ありがとうございます! 忘れてるのかと思ってました!ごめんなさい!」


「エリンには、色々と助けられたからね。後回しになって悪いけど、しばらくの間は一緒に生活しよう」


「異論はない」「ーー♪」「任しとけ!」




 そこで、何かに気づいたエリンは、高揚しつつ、スコルとハティに声をかけた。


「スコルさん、ハティさん!もう次の転職ができそうですよ?」


 ナイトメアと戦った経験が活きたのだろう。見習い職は経験が溜まるのが早いらしい。


「「ウォン!!」」


 二人とも嬉しそうに尻尾を振っている。あれから強さに対して貪欲になった気がする。


 一時、厳かな空気が流れる。転職の儀式は、何度見ても飽きない。人を魅力する何かがある。


「ーーー汝の新たな職は【戦士】。誰よりも強く、逞しく、そして優しくありなさい」


「「ウオォーーン!!」」


 二人は別々のスキルを発現した。それぞれの個性にあったものなんだろう。スコルはより攻撃的に、ハティはより守りに特化したスキルだった。


「あと、カインさん、コウケイさんもです!」


 おまけと言わんばかりにゴブリン組も転職可能だっだ。要塞の中からとはいえ、魔道具で頑張ってくれていたからね。


 こうして、二人は【職人】になった。発現したスキルは、"創造(クリエイト)"。やはり戦闘向きではないが、武具や薬品を作る際に成功率に補正がかかる。職人なら喉から手が出るほど欲しがる有用なスキルだった。


「「ほおぉぉぉぉ〜!!」」


 ゴブリンコンビは嬉しさのあまり、謎の雄叫びを上げていた。


 探索の前に自分達の能力を再確認しよう。山ほどあった魔道具はナイトメアにすべて使ってしまった。出し惜しみしてられる状況ではなかったし、それは仕方ない。


 今の僕達は、こんな感じ。


--------

名前 :ロキ=マーナガルム

職業 :初級職【盗賊】

スキル:忍び(スニーク)背面攻撃(バックスタブ)

装備 :質素な短剣(ルーン付与:効果不明)、銀の装備シリーズ(甲手、肩当て、腰、脛当て)、鉄の胸当て

特技 :動物、魔物と話せる

持ち物:投げナイフ×5、ナイトメアの一角


名前 :スコル=マーナガルム

職業 :初級職【戦士】

スキル:強撃、攻撃特化スキル

装備 :なし

特技 :なし

持ち物:なし


名前 :ハティ=マーナガルム

職業 :初級職【戦士】

スキル:強撃、防御特化スキル

装備 :なし

特技 :背に騎乗させて快適に走れる

持ち物:なし


名前 :トバルカイン

職業 :初級職【職人】

スキル:算術、創造(クリエイト)

装備 :皮の胸当て、清潔な腰布

特技 :武器研ぎ、簡易な防具加工

持ち物:砥石


名前 :コウケイ

職業 :初級職【職人】

スキル:算術、創造(クリエイト)

装備 :質素なローブ、清潔な腰布

特技 :薬調合

持ち物:調合セット、粗悪なポーション(コウケイ作)×2、薬草(上層産)×3


名前 :エリン=セインウッド

職業 :初級職【神官】

スキル:光魔法『ヒール』『ヒーリングフラッシュ』etc

装備 :祈りの杖、拝礼服(神官ギルド製)

特技 :儀式(進化の儀、転職の儀)、進化、転職までの経験値が分かる

持ち物:なし

--------


 スコルとハティは、新しいスキルを試したくてウズウズしていた。それは、カインとコウケイも一緒だ。


 ただし、カインにとっては、武具作成に必要な金床(かなとこ)と炉が不足している。コウケイを見ると、もう早速ポーション作りを始めているようだ。実に楽しそうに作業するコウケイを、カインは羨ましそうに横目で見つめている。何とかしてあげたいな。



「二手に別れよう。探索組は、僕、スコル、エリンの三人。拠点と食費調達はハティ、カイン、コウケイにお願いするね」


「私は探索ですか…?」


 エリンは怪訝な顔をする。食料調達より探索の方が危険が伴う可能性が高いと思っているのだろう。


「今の僕達は、回復手段が乏しい。コウケイのポーションか、エリンの魔法頼りになる。だから、怪我をするリスクが高い探索に同行して欲しいんだ」


「そういう事なら…分かりました」


 覚悟を決めたように頷く。


「エリンは僕が絶対守るから」


「えっ…?はい、よろしく、お願いします…」


 何か変なこと言ったかな?顔を真っ赤にして下を向いてしまった。


「エリン、体調悪いのカ?薬、作るカ?」

「ーー??」


 コウケイは心配して顔を覗き込もうとしている。相変わらずハティは頭をポンポンしている。


「だ、大丈夫です!!さぁ、行きますよ!私だって、新しい魔法を覚えたんです!ぶっ放してやりますよ!」


 エリンのテンションが、何だかおかしい気がするけど、本人が大丈夫だって言ってるから問題ないか。





 草原地帯を進む。移動速度重視して、エリンはスコルに騎乗している。


「ーーラ〜ラララ〜♪」


 透き通るように美しい歌声が聞こえた。


「素敵な声…誰が歌ってるのかしら?」


「本当だ…爽やかな風が通り抜けたような気持ちになるね」


「ーーフン」


 スコルの尻尾がすごい勢いで荒ぶっている。きっと気に入ったんだろう。


「上だ」


 スコルが空を見上げてそう呟く。声色に緊張感はない。敵意を感じないから、危険ではないんだろう。足元に小さな影がどんどん大きくなっていく。見上げると、上空を羽ばたく人影が見えた。


「とっても、綺麗な、歌声ですねー!」


 僕が声をかけると、人影がこちらに気づいた。


「ーーあ、あー!」


 こちらに気づくと、慌てた様子で物凄い速さで逃げていってしまった。気持ちは分かる気がする。一人だと思って大声で歌っていたら、知らない人が近くにいたと気づいた時、それは恥ずかしいことだろう。


「可愛いハーピーでしたね」


 人の姿に、両手は翼。容姿端麗。ハーピーの特徴と一致していた。僕もエリンと同じ感想だった。


「ハーピーは群れで行動すると聞いでいましたが、単独(ソロ)とは珍しいですね」


「ハーピーが集団で、それも上空から攻撃されたら苦戦しそうだ。僕達は空を飛ぶ相手に対する攻撃手段が乏しい」


「ーー俺が、どんな敵だって倒してみせる」


「スコル、意気込みは頼もしいけど、遠距離への攻撃手段が無いでしょ!」


「ムゥ」



 草原地帯を進むと、魔物の群れに遭遇。


「ワイルドドックかな?いや、少し違う?」


「ワイルドウルフ、ですね」


 すかさずエリンから訂正が入る。僕みたいな本で読んだ独学よりも、きちんと勉強しているだけあって知識がある。


「狼か?ならば、任せろ。


 ウオオォォォォーーーン」


 迫力のある遠吠え。それまで統率の取れていたワイルドウルフの群れは混乱してしまう。しきりに群れの一匹の方を見ているみたいだ。


「ウォン」


(スコルは、なんて言っているの?)

(リーダーを出せだってさ)


 群れが割れると、一回りは大きいワイルドウルフが中から歩いていた。その手足は震えるように見える。


 睨み合いが続く。いや、よく見ると相手のリーダーウルフは徐々に上目遣いのようになっている。


「ウオオォン!」

「クゥン」


 最後には、リーダーウルフが平伏してしまった。


「俺が呼んだらすぐ駆けつけろよ。分かったら行っていいぞ」


「「「クゥン」」」


 そそくさと狼の群れは退散していった。孤児院で僕がやられていたことの逆の立場だ。複雑な心境。


「ガルル。アイツら喧嘩を売る相手を間違えたな」


 狼が居なくなると、上機嫌でウルフは笑った。


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