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ダンジョンから愛をこめて  作者: 葉山 友貴
第一章 出会い
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第15話 増強


「みんなどこに行ったのぉ? ギデオン、ファウラ、ノルン…」


 エリンは一人、孤立していた。さっきまでは、ギデオンの後ろを必死で着いて行っていた。少し距離を離されても走る速度を調節して、私が追いつける速さを維持してくれていたのに。


 でも、あの時、ギデオンは思い詰めた顔をしてきた。横穴から魔物が押し寄せてきて、見つかる前に進む方向を変えないといけなかった。魔物に見つかるから声は出せない。きっと私が居ないことに気づかなかったんだ。


 魔物が過ぎた後には、誰も居なかった。進む道は分からない。仕方なくあてもなく彷徨う。


「どうしよう。このままじゃあ、魔物に見つかるか。お腹が空いて倒れるか…。  あの光はなんだろう」


 フラフラと歩いていると、小部屋から漏れ出す淡い光を見つけた。神聖性を感じるのは、追い詰められた時に見た光だから?それとも、私が神官だから?


 罠の可能性を全く考慮せずに。光に吸い寄せられる虫のように、エリンは無警戒に小部屋へと入っていった。










 無言で、マーナの背中を追いかける。余計なことを考えないように。頭から振り払うように。ガルムはぶっきらぼうだけど、悪い狼ではなかった。前に殺されかけたけど。


「…ガルム。あんたは強かった。勇敢だったよ」


 マーナは立ち止まり、天に向かってそう呟いた。残ったガルムの身に何かあったんだろうか。容易に想像できてしまう。顔を正面に向けてまた走り出す。


「ハァハァ。ねぇ、どこに向かってるの?」


 走りながらマーナに尋ねた。この速さを維持するのは、なかなかキツい。


安全地帯(セーフティポイント)さ。ロキなら知ってるだろう?」


「やっぱりあるんだ!?」


「ああ、ある。でも、"今"どこにあるかは分からない。だから、こうやって走り回って探してるんだよ」


「もしかして、安全地帯(セーフティポイント)って、移動するの?」


「やっぱり、ロキは頭がいいね。その通り。私らが寝床として使っているあの部屋だって、元は安全地帯(セーフティポイント)だったのさ」


「そうだったんだ!だから帰ってきた時に妙に落ち着くのはそのせいだったのかな?」


「…それは、気のせいだ。ーーー見つけたぞ!!」


 マーナは思わず叫んだ。過去に、安全地帯(セーフティポイント)になっていた場所をしらみ潰しに巡って見つけたようだ。


 そこへ足を踏み入れた。


「ほう」「うわぁ」「壮観アルネ」「凄い」「ー♪」


 三者三様の感想を思いのまま口に出す。


 中央にあるのは、一本の大木。暖かく、どこか懐かしいような、優しい光に溢れている。葉は青々と生茂り、木から落ちた葉が空中を埋め尽くすように舞っている。


 僕は木に手を当てて、大木を見上げていた。目を瞑り、心地よい光に身を任せる。


「気のせいかな?体の調子が良くなってる」




「ーー気のせいじゃない、と思います。この木の名は、世界樹(ユグドラシル)。神樹とも呼ばれています。この光には癒しの効果があるんです」


「ーー!?」


 いつの間に。神樹の根本には、膝を抱えて座る少女がいた。白を基調とした拝礼服に、栗色の髪。たしか、冒険者パーティにいたシスターだ。名前は…


「君は…」


「エリン=セインウッドです。魔物使い(テイマー)さん」


 怪訝な顔をしていたのか、名前を教えてくれた。こちらも自己紹介するのはマナーだよね。


「僕は、ロキ。魔物使い(テイマー)?じゃないよ。…僕は、盗賊だから。見習いだけど」


「えっ、盗賊?それなら、その魔物達は!?どうして襲われないの?」


 さっきまでオドオドしていたのに、いきなり食いついてきた。


「友達だから、襲われないよ。そこの一番かっこいい狼は、僕の母さん」


「え!?もしかして人に見えるけど、あなたも、狼…?」


「ーー小娘よ、静かに。もうすぐここも【種渡り】になる。時間がない」


 マーナは苦渋の表情を浮かべている。マーナの言葉はエリンには分からないから、僕が通訳をする。これからエリンと魔物達が会話する時は、僕を介してもらおう。


「…本当だわ。神聖力が薄まってる」


「【種渡り】?」


「えっと、安全地帯(セーフティポイント)は、"移動"するんです。その理由が【種渡り】。神樹の種は光に乗って迷宮内を彷徨い、やがて地面に落ちる。そこが新しい安全地帯(セーフティポイント)になるんです。つまり、定期的な神樹の移動に伴い、安全地帯(セーフティポイント)も移動するんです」


「今、移動されたら、もう見つけるだけの時間は残されていない。ナイトメアがそこまで迫っている」


 マーナはナイトメアの気配が分かるのだろう。



「覚悟を決めるかね」


 緊張した空気がその場を支配する。死ぬ覚悟?それとも…?


「ーーえ、あれ?」


 エリンは素っ頓狂な声を出すと、高まった緊張感が弛緩する。


「また、お前か、小娘」


 マーナは少しイラついたようにエリンを睨みつける。


「ご、ごめんなさい! 皆さん転職出来るのに、なんでやらないんだろうと思って…」


「転職、だと?」


 マーナの眼光はさらに鋭くなる。初対面だと分からないと思うけど、この表情はマーナが理解できない時にする顔だ。転職の意味が分かってないんだろう。


「はい!転職、です!」


「ガルル」


「ごめん。分かるように教えてもらえる?」


 僕が助け舟を出した。


「転職を知らない…?分かりました。


 各職業は経験を積むことで、成長限界に達します。それが来たら、もう一段階上の職業へと転職ができるんです。転職には、神官ギルドで転職の儀を執り行う必要があります」


「強くなれるのは魅力的だけど、神官ギルドには行けないから…」


「ーーはい。私、できます。初級職の神官なので、"固有スキル"まで観ることはできませんが…」


 小さく手を挙げて、控えめに申告する。


「「え!?」」






「慈悲深き神々よ。今ここに、エリンの名において、転職の儀を執り行う。満ち足りた力よ、汝の未来に。新たな力よ、汝の栄光に。


ーーー汝の新たな職は【盗賊】。誰よりも速く、忍び、そして真摯(しんし)でありなさい」


 先ほどまでとは、打って変わりどこか神々しい姿に思わず(こうべ)を垂れる。


「…ありがとうございます」


 力が増した気がする。体が作り替えられるような、不思議な感覚。転職というよりは転生と呼ばれた方が納得する。それに、新たなスキルを発現したみたいだ。


「スキルが発現しましたか?」


 確かめるように掌を閉じたり、開いたりしてると、エリンから声をかけられた。


「うん。背面攻撃(バックスタブ)って言うみたい」


「盗賊の一般的なスキルですね。零級ー見習いなら、全員がスキルを一つ、覚えます。初級以上になると、その人の資質が関わってきて三つ覚える人もいるんですよ?」


 エリンは人差し指を口に当てて、そう説明した。






 次はスコルとハティの番。


「今のあなた方は【レッサーウェアウルフ】という種族です。お母さんとは違う、のですね?」


「我々、白狼族には、大人になるための"試し"がある。それに認められなければ成人にはなれない、はずなんだが…」


 これまでなら、マーナは自信を持って言い張ったはずだ。しかし、目の前で行われる光景に最後は自信なさげにしりすぼみになっていった。



 エリンがスコルとハティの前に立つ。


「魔の神々よ。今ここに、エリンの名において、進化の儀を執り行う。満ち足りた力よ、汝の未来に。新たな力よ、汝の栄光に。


ーーー汝の新たな種は【フェンリル】。誰よりも速く、強く、そして気高くありなさい」


「「ウォォォン!!」」


 スコルとハティが光に包まれる。次に姿を現したのは、白銀の毛並みに凛とした顔。マーナに似たその立ち姿だった。スコルに至っては、体格がマーナよりも一回り大きい。ハティはマーナと同じくらいなのに。


「力が、(みなぎ)る。誰にも、負ける気がしない」

「すごい…けど、疲れる」


 もしかすると、元々、魔物はある特定の条件を満たすと進化する種族で、転職と本質は似ているのかもしれない。だから、神官であるエリンが儀式を行うことができた、のかもしれない。


「戦力が上がった。嬉しい誤算だ。これならナイトメアに対抗できるかもしれない」


「あと、あのゴブリン達も、進化できそうです」


「ワシらも?!」「驚いたネ!」


 カインとコウケイの二人は、エリンの前で膝をつき、祈りのポーズ。


「ーーー汝の新たな種は【ホブゴブリン】。誰よりも深く、己の欲望に忠実でありなさい」


「これなら作業が捗るな!」「大っきくなったネ!」


 二人とも子供くらいの身長だったのが、大人くらいまで成長した。青年といった感じだ。力は増しているようだけど、現時点で戦闘面での活躍は期待できなさそうだ。


「マーナさんは…"まだ"進化できないみたいです。あと皆さん、転職も出来そうですよ?」


「「「なに!?(なんだと!?)」」」




 こうして、マーナ、スコル、ハティの三人は【見習い戦士】に、カインとコウケイは、【見習い職人】となった。


【見習い戦士】のスキルは、強撃。【見習い職人】は、算術というスキルを覚えた。職人のスキルは戦闘向きではないが、職人を志す者にとっては有意義なスキルらしい。



 各自新たな力や持ち物を確認し、出発の準備が整った。その時、舞っていた葉が一斉に空中に舞い上がると、神樹は眩い光を放った。そこに残された一枚の葉。世界樹の葉だった。


 僕らの門出を祝うかのような幻想的な光の祝福。覚悟を決めて小部屋を後にした。


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