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ダンジョンから愛をこめて  作者: 葉山 友貴
第一章 出会い
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第13話 怪物との遭遇

 一晩経ったのに、魔物の逃走は終わっていなかった。魔物の流れと反対に進めば何か分かるかもしれない。


「こっちに行こう」


 僕は魔物の群れをかき分けるように進む。気を抜いたら、押し返される。躓いて転んでしまったら、大怪我しそう。


「近道」


 勢いをつけて壁を走る。スコルとハティは高くジャンプして飛距離を稼ぐ作戦みたいだ。


 どのくらい時間が経っただろうか。流れに逆らって無我夢中で突き進んだ。パッと魔物が消える。


 曲がり角の奥から激しい戦闘音が聞こえる。


「ーーまさか…? まだ、戦っている?」


「ウォン!!」「急ぐ!!」


 我先にと、雪崩れ込んだ。その先には、大きな部屋。


 壮絶な光景が広がっていた。


 中央に居座り、暴虐の限りを尽くす怪物。三つ首を持ち、それぞれが意思を宿す。そして、共通するのは凶悪な殺意。



ーー冥界の番犬、ケルベロス。



「母さん!!」「「母様!!」」


 悲鳴にも似た声が出た。


 マーナとガルムは血塗れにも関わらず、足を止めることなく動き続けていた。止まったら死を意味すると理解しているんだ。マーナは片目が潰れているのか、瞑ったまま。ガルムは…、左後ろ足が動いてない。


 それに、見慣れない一団。冒険者のパーティーだ。魔術師に、神官。前衛は戦士かな?あと中衛に狩人。バランスのとれたパーティーだ。


 ケルベロスの後ろにポッカリと開いた暗い穴。どこまで続いているのか。そこから魔物が絶えず湧き出ている。


 ケルベロスを抑えるマーナとガルム。穴から這い出る魔物を押さえ込む冒険者パーティー。


 絶妙な均衡を保っていたが、時間はケルベロスと魔物達の味方だった。元々薄氷を踏むような攻防で成り立っていた均衡だ。最初の綻びは小さなものだったが、徐々に精彩を欠いた動きとなる。




 最初に、冒険者のパーティーが崩れ始めた。


「ーーあれは…お兄ちゃん? お兄ちゃん!! 私、妹のノルンよ!! やっと見つけた!」


「ノルン?!よそ見、するな! 一体抜けたぞ!」


 壁役となっていた前衛の戦士の脇を姿勢を低くした武器を持つ人型の魔物ーーリザードマンが抜いた。


「お兄ちゃん!!やっぱり生きてると思ってた!ずっと探してたのよ!私、頑張ったのよ!」


 ノルンの声は届かない。何重にも魔物の唸り声が重なり、重低音を響かせているためだ。


「ノルン!!!」


 戦士の怒号が響く。前衛をすり抜けた一体のリザードマン。ノルンとシスターに凶刃が迫る。狩人が弓を放つが、リザードマンは止まらない。


「ーー危ない!ーーッツ!!」


 リザードマンが反りの強いサーベルを振りかぶった瞬間、戦士は二人に覆いかぶさるように立ち塞がった。背中で刃を受ける。


「ーーグッ、ハッ」


「ギデオン!!いやあぁぁぁ!」


 戦士ギデオンは深い傷を負うと、そのまま意識を失った。残された二人の前には、残虐な笑みを浮かべるリザードマンが立ち塞がる。


「ーーギャッ、グギャ」


 唐突に、頭から二本の矢が生える。


「すまん!間に合ったか?!」


「ファウラ!!ありがとう! ーー治癒魔法『ヒール』ッ」


 シスターは、すぐにギデオンに癒しの魔法を施す。


「まずいッ!前衛がいない」


 狩人ファウラは中衛から前衛の位置まで上がる。構えていた弓を片刃の短刀に持ち替えた。


「シスターエリンは、今のうちにギデオンの治療を。復帰次第、交代(スイッチ)だ!長くは持たないぞ!急げ!」


「治療魔法『ヒール』『ヒール』…お願い、目を覚ましてッ」


「…ごめんなさい。私のせいだ」


 挽回しようとしても、杖を持つ手が震えて魔法が出せない。少しでもファウラの負担を減らすために、魔法で援護しないといけないのに。早く魔物を倒して、お兄ちゃんのところに行かないと行けないのに。しかし、思いとは裏腹に一向に魔法は発現しない。


「ノルン!!援護を頼むッ!!」


「や、やってるのよ…さっきから。どうして、出ないのよぉ?」


 ノルンは今まで兄ロキを見つけるために血が滲むような努力をしてきた。その目標である兄を目にした途端、張りつめいていた緊張の糸が切れてしまった。


 もう、そこに居たのは、天才魔術師ノルンでは無く、年相応の少女だった。決壊した感情は止めどなく溢れ出す。


「ーーグスッ、グス。うあぁぁぁん」


 こんなはずじゃなかった。情けない自分。弱い自分。本当は成長した自分をロキに見て欲しかった。褒めて欲しかった。やり切れない思いを抱き、その場に座り込んでしまった。


「うっ…ここは…? スマン!気を失っていた。状況は?」


 治療を受けていたギデオンが目を覚ます。記憶が混濁しているようだ。


「ファウラさんが前衛に出ています!ノルンさんの様子がおかしいんです。魔法が使えません…!」


 ギデオンは、エリンから状況を聞くと、目を瞑り暫く思案。次に目を開ける時には、決心した表情をしていた。


「そうか…ここまでだな。この魔物を押しかえせればよかったが…撤退する。俺達はこの事態を絶対に地上へ知らせなければならない」


 パーティーのリーダーでもあるギデオンはそう判断した。本来ならこの人数で、無限とも思える魔物の群れを押し返すなんて選択肢にも入らない。しかし、幸か不幸か、このパーティーには、鬼才メーディアの再来とも呼び声が高い天才魔術師ノルンがいた。彼女の魔法なら魔物の大群に対抗できる。


 さらに、斥候役としても優秀で、中距離からの攻撃もできるファウラ。まだまだ未熟ではあるが、将来性に期待できるエリンがいたことも、ここで戦うと判断する上での後押しとなった。


 さらに、怪物ケルベロスが出たときは、さすがに即撤退をしようと思ったが、幸運は続き、上層では出会うことはない下層の魔物ーーフェンリル二匹が登場し、ケルベロスと戦い始めたではないか。この二匹はフェンリルの中でも特に強力な個体であった。


 暗黙の了解として、不思議な共闘が始まった。ただし、それもこれまで。ここまで文字通り身を削って戦い抜いたフェンリルには悪いが、ノルンが崩れた以上、我々人間に勝ち目はない。先に、撤退させて貰おう。


 ギデオンは最後の起爆石を投げた。高く弧を描き、前衛で奮闘していたファウラの頭上を超えて、大群の中に放り込まれた。


「撤退だ!! 爆破に乗じて走れ!!」


 次の瞬間、耳をつんざくような大爆発。


「走れ、走れ!! ノルンは俺が背負う。先頭はファウラだ!魔物を排除しながら案内しろ! エリンは死ぬ気で走れ!!遅れたら置いていくぞ」


「相変わらず人使いの荒い人だ、了解したッ!」


「は、はい!!」


 ギデオンは、茫然自失としたノルンを回収すると、踵を返して撤退を開始する。引き際のよさはベテランの証だ。最後尾はエリン。


「気高き狼、フェンリルよ!健闘を祈る!」


 ギデオンは最後に振り返り、そう言い残す。


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