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ダンジョンから愛をこめて  作者: 葉山 友貴
第一章 出会い
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第10話 薬師と異変

「あれは、ワイルドバットとインプ!」


 迷宮内を訓練兼探索をしていると、前方からワイルドバット三体とインプ一体の魔物の群れが現れた。ワイルドバットは蝙蝠に似た魔物で、インプは小さい悪魔のようだ。


「ケケケ」


 先手必勝。壁を蹴って、バットに短剣を振るった。二体が地面に落ちる。着地する時を狙って、最後のバットが突貫してきた。


 素早く短剣を逆手に持ち変え、迎撃の構えを取る。バットは不規則に飛ぶから進路を予想しづらい。でも一つだけ確実に分かる時がある。攻撃の瞬間だ。


「ーーキィィィ!」


 バットは超音波を発する。…頭が痛い。けど、ここで敵から目を離せない。


「クッ、ーー今!」


 短剣を短く、鋭く振る。刃は胴に吸い込まれていき、バットを両断。撃墜。


 残るインプは、どこに行った?


「…イッ、ッテ」


 太腿に小さな槍が生えている。


「クケケ、マヌケ」


 上ばかり見て下を見てなかった。インプは元々小さい魔物だ。弱い魔法が使える個体もいたはず。しかも短い時間なら空を飛べるから、バットと同時に仕掛けてくるものだと思って油断した。


「ーーウッ!」


 槍を引き抜くと、インプ目掛けて投擲。空中へと逃げられたが、それは折り込み済みだ。足を引きずりながら、回り込んで首を刈る。なんとか全滅させることが出来た。


「ほれ、ポーションじゃ」


「ありがとう」


 カインからポーションを受け取ると、半分を口に含み、残りを刺された太腿にかけた。淡く発光。一気に楽になる。しばらくすれば、傷口は塞がるだろう。いつ見てもすごい効き目だ。


「ポーションが残り少なくなってきたね」


「ロキが飲みまくるからだ」


「僕はスコルみたいに避けるのが上手じゃないんだよ!」


「言い訳するな。一対一はマシになってきたが、乱戦になるとダメだな」


 戦闘を見ていたスコルから指摘が入る。自分でも分かってはいるんだけど、難しい。


「なぁ、一人紹介したい奴がいるんだが、いいか? ソイツも変わり者のゴブリンなんだが…」


 カインから話を聞いてみると、興味が湧いた。


「会ってみたいけど、先にマーナに聞いてみよう」


 とにかくボスの了解がないと、話は進まない。







 僕達は日課である迷宮探索を終え、寝床に戻ってきた。帰ると落ち着く。すっかり自宅のような感覚だ。


「マーナ!! また、仲間に入れたいゴブリンがいるんだ!」


「好きにしな。ただし、目を見てからだ」


 即答だった。


「ここのところ迷宮の中で、何かに見られているような、妙な雰囲気を感じる。探索するときは、気をつけるんだよ。必ずスコルかハティを同行させることさね」


「ありがとう! 分かったよ!ハティ、行こう」


「ウォン!」



 ハティに騎乗したカインの案内で迷宮を、進む。最近はこのスタイルがすっかり定着した。スコルは嫌がってカインを乗せてくれないけど、ハティの時はやってくれる。これなら、素早く移動できるし、魔物に遭遇したときも安全な場所に避難できる。


「ーー着いたぞ。やっぱり居たな!お前さん達はここで隠れててくれ。ハティを見たら、驚いて話どころでは無くなるからな」


 まるで湖畔のような光景だった。水辺には、雑草が生い茂っている。その草むらの中に埋もれるようにして、一体のゴブリンが屈んで何やら作業していた。


 カインの言う通りだ。ハティと仲良く草むらの中に身を隠す。


「おーい、コウケイ」


「誰かと思えば、トバルカイン。何の用ネ?」


「お主は変わらないな。相変わらず作ってるか?ポーションとやらを」


「大きなお世話ネ。ちょうど試作品が出来たところヨ。飲むカ?」


「今は、いらん。それよりもお主を誘いに来た。そのポーション作りの才能、誰かのために活かさないか? 今から紹介するが、驚かないで欲しい。 ロキ!出てきてくれ」


「僕は、ロキ。こっちは、ハティ。よろしくね」


「人間!!なんで、言葉分かるネ? 狼!!わ、私、食べても美味しくないネー!!」


 気が動転したのか、こちらにお尻を向けて小さくなってしまった。


「やっぱりこうなったか。おい!コウケイ!食べらないから、安心しろ!ワシがその証拠だ! それにこのロキは、魔物の言葉が分かる。ワシは生活を共にして色々と親切にしてもらってるんじゃ」


「よかった、食べられないネ。お前、私の、ポーションに興味あるネ?」


「うん。手持ちが少なくなってきて。見せてもらってもいい?」


「ほら。持ってけドロボーネ」


 そんな言葉どこで覚えたんだろう。コウケイから緑のポーションを受け取ると、自分が持っていたポーションと比べてみた。色は同じ緑だけど、コウケイの方が深い緑で、小さいゴミのような沈殿物がある。


「ーーそれは、人間が作ったポーション?ちょっと見せて欲しいネ!」


 ポーションを手渡すと、灯りにかざしたり、回したりと研究者のように忙しなく動く。


「はぁ。やっぱり人間は凄いネ。私の、ポーションじゃ、ここまでの効能は期待できないネ」


「それでも、お前さんならいつかは作れるじゃろ? 人間のポーションを超える、薬を」


「ーー当たり前ネ」


 目の奥に輝きを見た。カインの時と同じだ。この小さな体に野心の炎が宿っている。


「君も一緒に来る? 暫くはカインと一緒の部屋で過ごすと思うけど」


「行くに決まってるネ!! お前さん達と居た方が、私の夢に近づけそう! 正直、一人でここまで来るだけでも命がけだったネ…」



 次の瞬間、迷宮が、揺れた。


「地震!? 迷宮でも起きるの!?」


「地面が、揺れている?!」「なんだこれは…?」


「早くマーナと合流しよう」


 ハティが珍しく焦っている。迷宮で地震なん聞いたことがない。新たに仲間に向かい入れたコウケイをハティに乗せ、急いで寝床へと急ぐ。


 道中は混沌としていた。ワイルドドッグ、バット、ラージラッドなどの小型の魔物が大群を為して、一斉に逃げ出していた。何か良くないことの前触れなのか。胸中に不安を残しつつ、自然と走る速さを上げる。


 その後は、何事もなく、寝床に到着した。


「マーナ!!」


「やっと戻ったかい!さっき地面が揺れたが、こんなことは初めてだ。 これからはガルムと合流する。話をつけてくるから、ここで待ってるんだよ。不測の事態があれば、ロキの指示に従いな。あんた達の中で一番強いのはスコルだけど、生き残る力、諦めない心はロキが一番だ。反論は許さない、分かったね?」


「母様!!俺も… ーー気をつけて。ウォーン!」


 スコルは言葉を飲み込んだ。本当なら付いてきて欲しい、と言われたかったんだろう。


 実力不足。マーナはそう判断したのか、それとも別の理由があったのか。今となっては分からないが、この時は残ることを指示した。複雑な思いを抱いたままスコルは吠えた。


「ウォーン!!」


 ハティは同意する。スコルと同じように遠吠えで無事を祈る。


「母さん!!絶対に帰ってきてよ!これを…」


 マーナになけなしの青ポーションを渡そうととするが、


「私を誰だと思ってるんだい?そのポーションをロキが持ってな。それじゃあ、ちょっと行ってくるよ」


 あっさりと断れてしまった。


「「行ってらっしゃい!!」」


 ただ待つのはもどかしい。マーナのことだから、すぐに帰ってくると思うけど、時間経過が遅く感じる。




 しかし、この日、いくら待ってもマーナは帰ってこなかった。



 翌朝、僕達は早朝から集まっていた。


「マーナが約束を破るはずがない。マーナの身に何かあったんだ。怪我をして動けないのかもしれない。僕は探しに行くべきだと思う」


「ウォン! 同意する。もし母様と拮抗する魔物がいれば、俺が参戦する」


 スコルはやる気に満ち溢れている。気力は充分。


「母様が心配」


 ハティは母の身を案じているようだ。


「ワシは、状況が分かるまで動かないのもアリかと思うが、お主の判断に従おう」


「私は、新参者ネ。リーダーの決定に従うヨ」


 トバルカイン、コウケイのゴブリン組も従ってくれそうだ。確かにカインの言うことも一理ある。こういう自然災害のときは一旦は動かないという選択肢はありだ。


 でも、災害じゃなく人為的もしくは作為的なものであったら?その場合、留まることは悪手だ。


 孤児院の人攫い事件のときは、動き回っていたから生き残れた。あの後、みんながどうなかったかは分からないけど、あの用意周到な人攫い集団のことだ、無事ではすまないだろう。


 今回もなんだか嫌な予感がする。マーナも同じようなことを言っていた。


「各自準備して出発しよう。ポーションはありったけ持っていくよ。コウケイの作ったポーションも全部だ。 カインは武器防具ね。手持ちが壊れてもいいように使えそうなのを洗い出して」


「分かったアルよ。早速、長年の成果をお披露目する時が来たネ!」


「分かった。研ぎしか出来ないのはもどかしいのう。炉があれば、ワシだって…すまん何でもない! ありったけを持ってくぞ」


 こうして、マーナ捜索隊は結成された。スコルはカインを、ハティはコウケイを背に乗せる。スコルは嫌がったけど、リーダー命令で納得してもらった。ゴブリンコンビは大荷物を持ってきたから、まともに歩けない。移動速度重視で行く。



「さぁ。しまっていこう」


 数年過ごした寝床を後にした。結局、この階層の安全地帯(セーフティポイント)に行ったことなかったな。

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