Ⅸ-2人目の被害者-
供華 秦菜が目を覚まさず、2日が経った。
本来ならば今日、零たちのクラスはカラクリ仕掛けのカメ吉を文化祭にて展示するはずだったのだが、カメ吉と委員長がいない状態では誰も盛り上がらず、重たい空気が教室にはこもっていた。
それとは相反して、他のクラスは賑やかに文化祭を楽しんでいる。
ゲームで西島 沙耶に殺された男子生徒に関しては、誰も何も感じてなどいない。
ゲームで死んだら帰ってこない、それが当たり前だと小さな頃から思い知らされてきたからだ。
これが彼等の日常、死とは尊いものではない当たり前のもの。
また西島 沙耶に関しても同じ……
噂では西島 沙耶の両親はどこか遠くへ引っ越したらしい。
だが世界保護機関に消されたと言う黒い噂も流れていた。
「……俺はまだ弱い……だから、アイツより1歩先に進めない……」
誰もいない教室の窓際で、零は遠い空を見つめていた。
***
「ねぇやめなって、子供じゃないんだからさぁ」
「いいからいいから」
二十歳前半の恋人同士が光輪高等学校の校門前でもめていた。
「ここの文化祭レベル高いんだって!」
彼は天海 真、光輪高等学校の文化祭でサプライズ、いや革命を起こそうとしていた。
「だからそこで俺が目立ったら有名になるじゃん? 第一歩を歩むんだって!」
「その考え、おかしいと思うよ?」
彼女は沢渡 水、真の彼女であり、不治の病を抱えている。
その余命残り18日――――
彼女の病気は30億分の1の確立で発症する最近発見された病。
最初の症状としては全身の皮膚の皮が剥がれ落ちる。
それが完治したと同時に痴呆が始まり、夜な夜な悪夢にうなされだす。
痴呆自体はそこまで酷いものではないのだが、悪夢により精神的、肉体的に弱まり、最終的には脳が萎縮し死亡する。
色々な症状が重なり、この病自体を発見するのが難しいのだが、世界的に科学の技術力が上がると同時に医療技術も進んでいたため、この病を発見することが出来た。
但し進んだ医療技術でも、いまだに彼女の病を治すことが出来ない。
或いは治す気がないのか……
「傘忘れんなよ?」
晴れきった空の下、彼等は光輪高等学校文化祭、”白夜祭”に参加した。
***
畠山は赤黒い何かが入ったビンを手にしていた。
「現段階でどれ程強化されたか――――これ程の実験日和は無い……」
学校の屋上から多くの人間を見下ろす彼女。
キュッ、キュッという耳を塞ぎたくなる様な嫌な音を出しつつ、蓋を開けた。
蓋が開けられたと同時に、ビンの中に入っていた赤黒い何かが生命を宿したかのように外に出てこようと暴れる。
「天倪――」
畠山は瓶を屋上から地上へ向けて投げ捨てた。
瓶はゆっくりと降下し、人々が行き交う中庭へと落下してゆく。
「休息をとる暇など無い……世界が存在する限り……」
ガラス製の瓶が勢いよく割れる音と共に、辺りにいた人間の悲鳴があがった。
皆が飛んできたと思われる屋上を見つめるが、そこに人影は無い。
空を仰ぐ人々の脇を目にも止まらぬ速さで何かが駆け抜けていった。
***
真と水は真っ暗な体育館の中に足を踏み入れた。
中では白夜祭の恒例イベント、演劇部によるオリジナル作品が公演されていた。
時同じく、外の方では参加自由のライブが始まっていた。
何をするでも自由、お笑い、ダンス、バンド、アカペラ等、各々の表現で皆を楽しませれば何でも良い。
白夜祭に参加する人々はライブか演劇部をみるか、毎年どちらにするか悩みどころだった。
だが今年は演劇部が全国大会で準優勝まで昇り詰めた作品を公演するとの事で、圧倒的にこちらに人が動いていた。
真達の後で再び体育館の扉が開かれる、しかしそこには誰も立っていない。
開け放たれたままの扉に気づいた教職員の畠山が扉を閉めた。
「鐘の音はならない――逃げ道はもぉ、断たれた……」
静かに体育館内の全ての窓、そしてドアの鍵がまるで魔法に掛かったかのように閉まる。
真と水はパイプ椅子に腰掛けていた。
「そろそろ行くか?」
「行かない方が良いって!」
真は傘を握り立ち上がった。
「じゃあ待ってろよ、水はここで俺がピッグになる所を見てな」
(それじゃあ豚になっちゃうよ? そんな人生で本当にいいの?)
ピッグとビックを間違えたことに関して水は、真のプライドを傷つけられないと思い言葉にすることはできなかった。
「うっ!……――」
水の心配をよそに真が立ち上がった瞬間、水の体の中に何かが侵入した。
音もなく、気配すら感じさせずに。
それに気づかない真は一歩一歩ステージに近づいていく。
何に使うか未だに不明な傘をしっかりと握り締め、残り数メートルの所だった。
水の体に衝撃が走り出す。
その衝撃が溢れ出し、地を伝い水面の波紋のように辺り一帯に広がる。
「わぁぁああぁあぁ!!」
「きゃぁあああああ!!」
地震のような揺れを真も感じ取った。
「水!!」
体の弱い水の安否を心配し、彼女の元へ向かうために走り出す。
先程までの目的など忘れ。
彼女が座っていた場所、来賓席の出入り口付近。
確かにそこには沢渡 水が座っていたはずだった。
しかし、今そこにいるのは奇妙な仮面をつけた剣のような棒状の鈍器を持つ誰か。
「フゥゥウウ……フゥゥウウ……」
仮面の隙間からは白い吐息が漏れている。
仮面の者は剣と思われる物を構えると、意識を集中しだした。
最初仮面の者に関して演劇部の何かしらの演出かと思っていた真。
しかし明らかに様子が違う。
目立つはずの仮面の者に誰一人として見向きをしていないからだ。
そして先ほどから見えない水の姿。
「水? 水はどこだよ? そこにさっきまで水が居たんだぞ? おい……おいったら……なんか喋れよぉぉぉおおお!!」
周囲の観客が奇声を発する真に対して畏怖の目で視線を送る。
そんなのお構いなしに水のことを心配な真は、深く考えずに手に持っていた傘を振りかぶった。
しかし、傘では剣には敵わない。
ものの見事に切り捨てられた傘。
「あぁあぁあぁ……」
本物の刃物を持っていることが確実になった今、恐怖を感じ動けなくなってしまった真。
そしてこの時、恐怖が一斉に感染する。
先程まで仮面の者は真にしか認識されていなかった。
しかし、傘を切り捨てたと同時に、周囲の人々にも認識され始めた。
認識できてから最初は他の観客たちも演劇部の演出かと思っていたが、傘を切り捨てた際にその斬撃で首を切られた生徒の血潮の生暖かさが狂った現実を感じさせてくれる。
「サァ……創メヨウ……存在無キ者タチヨ……」
悲鳴溢れ狂う混沌の中、再び剣を構え仮面の者の目の光が消えた。
9-The second victim- 終
キャラ紹介[第9話]
天海 真(22)-大学生-
ニックネーム:真
ビックになりたいがゆえ、あらゆる所に繰り出しては有名になるきっかけを作りにいく。
その第一歩として白夜祭にて初舞台を飾ろうとしていた。
水の事になると周りが見えなくなるのが難点。
沢渡 水(21)-大学生-
ニックネーム:水・ミナちん
真の彼女。
真より1学年下で不治の病を持つ。
余命が残り18日で残りの人生を存分に楽しもうと、真と共に一生分楽しもうと頑張っている。
仮面の者(不明)-不明-
ニックネーム:不明
水の居た席に立っていた謎の人物。
手には剣を持ち、条件が揃わないと認識できないらしい。