ⅩⅩⅦー神の力ー
「……暗い……CRY……喰らい……昏い……」
アイアン・メイデンの中で身動きすることすらできず、唯一動かせる口を動かし気を紛らわせる邂逅 炉南。
「これで終わり……?」
大きく目を見開き笑みを零す。
「まだ……足りないよ……このくらいじゃすぐに飽きちゃう……」
恍惚とした表情で涎を垂らし、永遠に出ることができない牢獄の中で拷問を受け続けている。
「イルミナティ……か」
その声を聴く者はいない。
アイアン・メイデンは憐憫が作り出した開かずの扉の一室に厳重に安置されているのだから。
一方、荊榛を仲間にした千達はゲームをクリアし、現実世界へと帰還していた。
「皆に紹介しよう、新たなイルミナティのメンバー榛 荊榛だ」
イルミナティの面々が集まる中、千に背中を押された荊榛は物怖じせず自己紹介をした。
「そうだな、新メンバーが2人いることだし、今一度このチームの目的や身の回りのことを説明をしよう」
千は黒板にチョークで文字を書きだした。
「まず俺たちが手にしているこの力、これを総称して”神ノ子”と言う」
荊榛がすかさず手を上げて質問をする。
「はいはい! 誰が名付けたんですか?」
バクが口からチュッパチャップスを取り出し回答する。
「昔からそう言われてて力を授かることを神ノ子を宿したと言っていたらしいよ」
「そう、そして神ノ子は天陣と地陣の2つに分けられる」
千の言葉に零は言葉を吐き捨てる。
「そんなことを知って何の意味がある?」
千はやれやれというように肩を落とした。
「自分の力を知らないことは罪だぞ? その力を管理するのは誰でもない自分自身なんだからそれを制御できないと世界を破滅させるだけだ」
再び黒板に向かって文字を書きだす千。
「天陣と言われているのは自然と覚醒した者達のことを指しており、地陣はそれとは逆で人工的に覚醒した者たちのことを指す」
補足で号哭が魔方陣を出現させる。
「見分け方は簡単、魔方陣の色だ」
「そう、青い魔方陣なら天陣。赤い魔方陣なら地陣だ」
千の発言に疑問を抱いた零は質問する。
「なら号哭はどうなる? 両手とも色が違うじゃねぇか」
「おぉ!? ちゃんと俺のこと見てくれてるんだな!」
号哭は嬉しそうに零の肩に腕をかけたが嫌々と零が突き放した。
それを詰まらなさそうに眺める憐憫。
「シクは神使イ」
「憐憫が言うように号哭は神ノ子よりワンランク上の”神使イ”に分類される」
千は話を続ける。
「神使イには神ノ子なら誰でもなれる。ただ、それには条件がいる……」
「そう、共喰い」
バクがチュッパチャップスを噛み砕き言い放った言葉に荊榛が驚く。
「共喰いって……」
「力ある者同士戦い、相手にとどめを刺したら神使イに昇格さ。まぁ無理にでも引き上げることは出来るが99%失敗する。おススメはしないがな……」
新たなチュッパチャップスを取り出し再び飴を舐め始めるバク。
「そうだな、そして神使イの向こう側を目指しているのが、先ほど戦った邂逅 炉南を含むアンセスターの集団だ」
「つまりそれを止めるための抑止力として俺らがいるわけか?」
零は呆れ顔で頭を抱えた。
「ただの慈善事業じゃねぇか」
「だが、強くはなれる。零が望むモノは手に入るが?」
確かにと納得した零を口を挟むのをやめた。
「そして最近新たな第3の勢力が現れだした、いや潜んでいたのが最近顕著に表に顔を出しだしたといってもいい」
美螺 那美がそこで初めて言葉を発する。
「世界保護期間(WPO)よ」
「生体兵器を人間に使い世界を混沌に導こうとしている。それが件の天倪という代物だ」
ムゥも続いて言葉を発する。
千達の話により現状を把握することができた。
また、この世界にはオーパーツと並ぶ神具と呼ばれるものがあり、覚醒していないものでもその神具に宿る力を引き出し神ノ子らと同じステージに立つ事が出来る。
以前零の学校に現れた越前 三味と進藤 桐もその神具使いだという。
だがその2人は殉職した。
正義が必ず勝って生き残るわけではない。
現実は漫画のように上手くは行かない。
だからこそ足掻くのだ。
1人でダメなら2人で。
2人でダメなら同士を集めて立ち向かうのだ。
巨悪へと。
「けど、世界保護期間は本当に悪なんですか?」
荊榛は純粋な眼を千に向ける。
「洗脳ってのは怖いものだよな。小さな頃から教育されればそれは正義となる。世界保護期間はずっと準備を進めてきていたんだ」
「……」
一堂に沈黙が流れる。
本来世の中に善悪は存在しない。
過去の人間たちが作った計りによって生まれた秩序によって今の法は存在し悪を処罰している。
国が違えばその秩序も変ってくる。
世界や時代によってもそれは様々なのだ。
そしてその中で生まれる異分子はいつだって排除されている。
イルミナティ、アンセスター、そして世界保護期間。
その中でも地位を獲得した世界保護期間は今尚、全世界に支えられ疑問の目を持たれていない。
悪は世界保護期間なのか、それともその中で渦巻く陰謀を計画しているものがいるのか。
真実はいつだって簡単には明らかにならない。
「そうそう、そういえば同じ力を持つ者はこの世には存在しない」
号哭は思い出したかのように話す。
「言わば俺たちの力は神様からの授かりもの。神様の体の一部をその身に宿し力を発現しているに過ぎない。そして、残念なことに天陣、地陣に限らずそれは例外じゃなく例えば千みたいに骨の力があれば他に骨の力を持つ能力者はいないってことだ」
ここでふと零の脳裏に疑問が浮かぶ。
「ならなにとお前は俺と勘違いしたんだ?」
「神の右目の持ち主……帝王の魔眼……これ以上は言わなくても気づいてるだろ?」
号哭は冷めた目で零を見下ろす。
零は歯を食いしばり、なぜか痛くなる胸をギュッと掴んだ。
「さて今回はここまでにしとくか。解散だ」
千にそういわれた後、号哭に携帯を奪われ全員と連絡先を交換させられた。
いついかなる時でも危険は隣りあわせ。
助けがほしいとき、報告事項があるときはグループ投稿か……仲間ごっこをするつもりはない。
強さを追い求めて、零の左目は鋭い眼光で未来を捉えていた。
27-The Power of God- 終