ⅩⅩⅤ-初陣-
歩き続ける。
どこまでもどこまでも。
一向に景色の変わらないこの広大な世界を。
「荊榛……見えるか?」
少年は荊榛に聞くが首を横に振るのみ。
本来ならばセーフティーゾーンにあたる場所は地面が青白く円形状に光っている。
その範囲は様々でその円内に入れば安全は必ず確保される。
そのセーフティーゾーンが行けども行けども一向に見つからないのだ。
喉が渇く少年少女。
すると偶然にも歩いている方向に湖が見えた。
「2人とも!」
荊榛はうなだれて歩く二人に前方の湖を指さす。
「わぁ!」
「助かった!!」
3人で湖にかけよった。
大きな湖ではないが、周囲に青白い光も見える。
「セーフティーゾーンだ!!」
セーフティーゾーンであり、尚且つ水分補給ができる。
このゲームをクリアするのに申し分ない環境が整っていた。
そう、たどり着ければの話だが。
「待って!」
荊榛が異変に気付く。
「あそこ……何か……いる?」
セーフティーゾーンには人間を殺めるモノは侵入することはできない。
だから安全圏として誰もが目指す場所でもある。
そのセーフィティーゾーンに何があろうと気にせず安心して足を踏み入れていいのだ。
その為のセーフティーゾーン。
人が集まりやすい、セーフティーゾーン。
餌が向こうから集まってくる狩猟場。
「逃げろ……!」
少年は方向を180度切り替え走り出した。
それに合わせて前方に見えるものに気付いた2人も同じ方向に走り出す。
セーフティーゾーンの周囲に潜んでいた生き物は狙いを定め進む。
「ヤバイヤバイって!!」
舌をチョロチョロとだしくねくねと距離を縮める。
「あんな大蛇ひとたまりもないって!!」
少年は半泣き状態で無我夢中で逃げ続ける。
その後を追い荊榛、少女と続くが、やはり人それぞれ体力の限界が来るというものだ。
「もぅ、駄目だよ……」
少女は半泣き状態でありながらも無理に笑顔を作って2人の背中を見守った。
「2人とも、頑――――」
荊榛が気づいたときにはもう少女が大蛇に丸のみにされた後であった。
食事の為動きを止めた大蛇を後に、2人の少年は助かることに成功した。
「セーフティーゾーン付近で狙ってくるとか販促だろ……」
息を切らしながら愚痴をこぼす少年。
先ほど犠牲になった少女への言葉などない。
荊榛は助けられたであろう少女のことを思い唇をぎゅっと嚙み締めた。
息を整えた二人は再び歩み始める。
するとすぐさま次の湖を発見することに成功した。
もう今はただ干からびたこの体に水分を巡らせたい。
その一心で湖につくと浴びるように水で喉を身体を潤していった。
「さっきは残念だったよな……」
少年は顔を洗いながら荊榛に語る。
「仕方ないよ、こうなる運命だったんだから……」
荊榛も顔を洗い一度サッパリしようとしていた。
何度も何度も顔を洗い、流れ落ちている涙を隠すために。
「――!!」
少年は顔を洗い終え荊榛の後ろに回り込んだ。
「なぁ荊榛……ごめんな」
顔を洗っていた荊榛はよく聞き取れず後ろにいる少年の方へ振り返って再度聞き返そうとした時だ。
少年は荊榛を押し、湖の中に突き落とした。
何が起こったかわからない荊榛はもがき陸に上がろうとする。
だが湖の中に一気に引きこまれた。
呼吸をしようと水面に顔を出そうとするが、ものすごい力でどんどん湖の中へと引き込まれていく。
胸部を掴むモノの正体を見たとき唖然とした。
巨大なクロコダイルだったのだ。
その顎の力は人を簡単に殺してしまうほどの威力。
もがいても抜け出せるはずなどない。
湖の中から少年が走って行く後姿が見えた。
ただ、先ほど追いかけてきた大蛇が追いつき、今度は少年を丸のみすることは2人とも予想だにしていなかったであろう。
荊榛はもうここで死んでもいいかなと思い始めていた。
「――やっと見つけたぁ……」
水中に衝撃が走る。
何かが湖の中に飛び込んできたようだが、酸素を取り込めないで意識を朦朧とさせている中、その姿を確認することはできない。
「力使えばいいのによぉ」
声の主は一撃でクロコダイルを気絶させ、荊榛を拾い上げた。
「ハン、よろしくってな」
舞い上がる水しぶきのせいで荊榛を拾い上げた声の主の制服はずぶ濡れていた。
「俺は憐憫だ」
少女はニンマリとした笑みを浮かべ、荊榛を陸に投げつけた。
どれだけの時間がたったのかわからない。
目を覚ますとセーフティーゾーン内で横たわっていた。
「やっと目覚めたか」
憐憫の制服はすでに乾いていた。
それだけの時間は少なからず眠っていたようだ。
「どうやって、助けたの?」
荊榛は警戒していた。
歳は自分より上だからと言って、華奢な女性にあのクロコダイルを倒せるはずがないからだ。
「お前も持ってんだろ、力を」
「――!?」
「神に愛され、神の加護により守られしその体を見ればわかる」
荊榛はクロコダイルに嚙まれていたのは事実。
だがその身に血の一滴も流れてはいなかった。
「お姉ちゃんも――」
初めて自分と同類を見つけた荊榛。
憐憫から話を聞き、自分の居場所はイルミナティにあると確信した。
「僕も連れて行って」
「その為に迎えに来たんだよ、バーカ」
憐憫は腰を上げ、スカートについたゴミを払った。
「さぁ行くぞ、そろそろ千達が接触してるころだ」
憐憫が頬を赤らめ手を差し出す。
「走るぞ」
荊榛は頷き憐憫の手を取った。
「唸り上げろ――韋駄天」
足元に魔法陣を出現させブーツの形状を変化させる。
「速度を超えろ――神速」
言葉を発したと同時に目にもとまらぬ速さでその場を後にした。
千達を見つけるのは造作もないことだった。
だが一刻の猶予もないのも目に見えている。
憐憫は急ブレーキをかけ、片足を後ろにそらした。
「荊榛、初仕事だ」
「えっ、えっ??」
憐憫は千達目がけ荊榛を蹴り上げた。
「むちゃくちゃすぎ……!」
風圧で押し戻されそうになるが、耐え忍び千達の眼前に飛び出そうになる。
「やめろー!」
足が地面に食い込み、散布されていた血の雨を全身に受けた。
千達に降り注ごうとした血の雨を全て。
「どんな攻撃だろうと意味ないよ……この、神皮の鎧ならね!!」
25-First battle- 終