ⅩⅩⅣ-サバイバル-
「晴れ……時々血の雨……楽しいね♪」
上空の魔法陣からスプリンクラーのように血の雨が散布されていく。
「ネタが割れてんだから回避ぐら任せなさいって」
バクは口で零と炉南の血を分離させ、零の血のみ元に戻し、残りは炉南目がけ吐き飛ばした。
「挑発……上等……でももう遅い……」
血の雨は3人目がけ落ちていた。
逃げ場はもうない。
だが倒れ意識のない零を除き、二人の目は光を消していなかった。
「――やめろ!」
聞き覚えのない声。
「どうやら負けることはなくなったようだ」
千が笑みをこぼした。
数時間前――
憐憫は一人腹を空かせた獣たちを尻目に歩いていた。
「なんで俺が子供のお守りしなきゃなんないんだよ……」
迷う様子はなく憐憫はただひたすらに一直線に向かっていた。
「韋駄天使うか……?」
憐憫はブーツで地面をたたき出したが、ふと我に返って再び歩き出した。
「でも目立つからなぁ……やめとこ」
ふと上着のポケットに手を突っ込むと何かが入っていた。
「……?」
取り出してみると何気ないものだった。
「あぁ、バクからもらった奴か……」
手にはチュッパチャプス。
「なんかこういうのって、バクが死ぬ前の伏線だったりしてな……」
包装を外し飴を口の中に突っ込む。
「苺ミルク味……俺の好きな味じゃん……」
憐憫は歩いた疲れを癒し、再び歩き始めた。
同時刻――
榛 荊榛は新東京都小学校でのゲーム開始時の集会に参加していた。
「なぁ荊榛……今回はちょっとやばくない?」
「う、うん……」
荊榛は人に言えない秘密がある。
それは己と他者の決定的な違い。
その力のせいで友は死に、自分だけが生きながらえることが多々あった。
だからこそ、他人に嫉まれないよう畏怖されないよう、自分の力を隠し続けていた。
「今日は俺と荊榛での班行動だから頑張ろうな!」
少年は輝かしい笑顔を見せながら荊榛の肩を掴んだ。
純粋すぎるゆえに、眩しすぎるゆえに、この子らの最期は残酷すぎる。
だが、それすらも平然と起こりえるこの世界。
この終わりなきゲーム。
荊榛は残酷で不平等で弱肉強食のこの世界で、国に飼われながら生きていくしかなかった。
「ちょっと私も忘れないでよ!」
少年少女の3人組は3時間耐久のサバイバルへと歩みを進めた。
3人グループの意味も知らず。
生きることのみを考えて。
だが今回のこのゲーム3時間生き残るだけでいい。
獰猛な獣たちの嗅覚から逃げ切って。
3人はまず現在のポイントから動くかどうかを話し合っていた。
毎回そうであるが、端末から入るとその端末が登録してあるポイントからゲームがスタートされる。
そしてスタートからどんなに遠くへ進もうと終了後には入ってきた端末から再び出ることができる。
それは昔から変わらず、他の端末のスタート地点付近に行ったとしても、帰りは元の場所へしか戻れないのだ。
だから今回、この場所にとどまってやり過ごすか、他の場所に移動してセーフティーゾーンを探すか3人は話し合っていた。
低年齢層が多い公共施設程こういうゲームの場合セーフティーゾーンが近場にあることが多い。
それはやはり、大人と違って身体的機能が劣る未来ある子供たちの為を思っての対応だ。
だからこそ、近場にセーフティーゾーンがあるならば、この場所にとどまるより動いた方が賢明なのだ。
「動こう、その方が安全だよ」
荊榛は2人と相談の末、セーフティーゾーンを探しに行くことにした。
他のグループも同様で四方に散らばっていく。
障害を抱えたグループは正義感溢れる他のグループが引率して旅立った。
だが結局このゲームは生易しいものではない。
障害を持ったグループに一匹のハイエナが近づいていた。
グループは気づいていなかったが、その光景を荊榛は目に捉えた。
彼らに大声で伝えれば逃げることに成功するかもしれない。
だが、それと同じくしてハイエナがこちらに向かってくる可能性も考えられる。
荊榛は自分の中の正義と保身どちらを選ぶかで葛藤していた。
だが、その葛藤など無意味なのだ。
勇気を出して、声を振り絞ろうとした。
様子のおかしい荊榛に同じグループの少年少女も気づいた。
そして声を張り上げようとしたその時、障害を持った子等を引率していたグループが障害を持った子等を突き飛ばしたのだ。
目を疑った。
先ほどまで笑顔で和気藹々としていたグループで残酷な行為が行われたのだ。
ただ、彼らを責めることはできない。
そうでもしないとこの世界では生き残っていくことができないからだ。
だから彼らは身代わりとして障害を持った子等を引率していたのだ。
荊榛が声をあげたところでこの結末は変わることはなかっただろう。
再度絶望的な世界を目の当たりにした荊榛は何事もなかったかのような表情をする友に腕をひかれ、その場を後にするしかなかった。
24-survival- 終