ⅩⅩⅢ-反逆の雨-
零の操る岩石がバクに狙いを定め貫く。
しかしバクはすかさず芝桜の元へとスライディング気味に移動し攻撃を回避した。
「どうする……千?」
バクに尋ねられそれに答える芝桜。
「仕方ないよなぁ……ここからは俺がやろう……」
手の関節をボキボキと鳴らしながらバクの前へと出る。
零の左目の魔法陣が煙を上げながら回転する。
絶望の歯車を回して。
「敵を一人処理したぐらいで粋がるなよ……?」
零の操る岩石が芝桜を中心に四方の地面から飛び出たかと思うとターゲットに見事命中した。
零は瞬きをすることなくすぐさま次の標的に再び狙いを定める。
そして攻撃を開始しようとしたその刹那。
首に違和感を感じる。
「おいおい、俺の相手はまだ終わってないだろ?」
零の首を絞める芝桜。
だが自分の周囲の管理者権限を取得した零は首と芝桜の腕の間に空気の壁を作り、完全に零の首を絞めるまでには至っていなかった。
ダメージを与えられないことに気付いた芝桜はすぐさま零から離れ一定の距離を取る。
「以前の幼い戦いよりずいぶん力を使いこなせてるようだな……?」
芝桜の問いかけに依然として答えない零。
「まだ、だんまりか……?」
ため息をつくと芝桜の表情は一変した。
「なら少し本気を出させてもらう……!」
まず最初に芝桜の右手の掌に異変が起こる。
腕の骨が突き出していたのだ。
それを左手で掴み抜き取ると支えのなくなった右腕は垂れ下がった。
「逃げんじゃねぇぞ……どちらかが死ぬまで……!!」
垂れ下がっていた右腕が再び動き出し、両手で抜き取った骨を地面に突き刺した。
「骨化逝症」
地面に波が広がる。
零は周囲の重力を弱め、驚異的なジャンプで未知の攻撃を回避した。
「逃げらんねぇよ」
芝桜の言う通り、零はジャンプの途中で体の自由がなくなり落下を始めた。
「どうだ? 体は痺れ思うように動かせないだろ?」
芝桜は墜落した零を見下し、頭を踏みつけた。
「どうする? もうお前の負けだよ」
零は自分の体を強制的に管理下に置き、痛みも痺れも感じさせないようにした。
その結果、身体は先ほどより自由に動き、目にも捉えられない速さで芝桜の足を握りしめた。
そして管理者権限により彼の体重をゼロに変換し、足を顔からどけたかと思うと、ゼロから数百キロへと重さを変換させ、芝桜の動きをその場に封じ込めた。
「まだまだ……!」
芝桜は両手を地面に叩きつけた。
「仙骨!!」
芝桜の周囲何百メートルに骨の木が急速に生えだし手あたり次第骨の枝を地面に向け突き刺していた。
「滑稽だよなぁ……自分で手を下さずして相手を陥れる……そんなんで、俺をやれるかよ……」
自らの重さに耐えきれない芝桜はその場で膝をつく。
これ見よがしに零は芝桜の残した攻撃を避けつつ飛びかかる。
「こいつの戦い方はそんなんじゃねぇだろ!」
芝桜の背後に巨大な魔法陣が出現する。
「骨格標本――」
魔法陣は芝桜を包み込み、前方へと移動する。
すると不思議なことに跪く芝桜の前には普段と何一つ変わらないもう一人の芝桜が。
「すまんな――俺」
そう言い残し跪くもう一人の自分の背骨を掴み抜き取った。
「安心してくれ、お前の権限はまだ残ってるよ……この骨に刻まれてな……」
芝桜は背骨の大剣を手に、零に向かって槍投げの要領で放つ。
顔面目がけ飛んできた大剣に対し零は無駄のない最小限の動きで芝桜の攻撃を避けた。
そう、避けられる単調な攻撃。
そのはずだったのだ。
「骨を甘く見るんじゃねぇよ」
大剣の収束していた柄部分の肋骨が大きく花開き、零もろとも地面へと拘束する。
「バク、零の血をすべて吸い出せ、それしかこいつは止めらなさそうだ」
バクは芝桜のいう通り一息で零の傷口から血を吸い取った。
「イルミナティ……仲間を簡単に切り捨てる……野蛮……」
聞き覚えのある声。
「野蛮はどっちなんだよ……アンセスターの炉南ちゃんよぉ!!」
「アンセスターこそ……最も神に近い……至高の組織……♪」
恍惚とした笑みがこぼれる。
「お前、体液を自由に操れるな? 体液がかかった相手も同じく」
「うふふ……だったらどうするの……私を……血を流させず倒せるの……?」
不死身。
彼女を倒すには血を流させることが必要不可欠。
しかしながら流させると同時に返り血により操られる可能性もあり、先ほどまでの戦闘同様何度でも蘇ってくる。
それを攻略できなければ零と同じ運命を辿る。
「倒せないよね……でもちょっともう我慢……できないの……」
そういうと足元に魔法陣を出現させる炉南。
そのまま上空へと魔法陣を移動させ高速で回転させる。
「回避……できるかな……?」
魔法陣から大量に赤い液体が迸る。
絶望の赤い雨が。
23-Rain of the treason- 終