ⅩⅩⅠ-獰猛な獣たち-
サイレン音が教室を包み込む。
「さぁ行くか」
零は芝桜の言い放った言葉に首を傾け、失笑交じりに問いかける。
「まさか、ゲームに参加するつもりなのか?」
「当然だろ、全国民の義務なんだから」
芝桜は目で合図を送ると、憐憫は頷き地面を蹴りつけた。
それが、力の解放となり教室がガタガタと揺れ出す。
「法を遵守しないと、痛い目みるぜ?」
号哭が零の肩に腕をのせ、スナック菓子を頬張る。
それが気に入らなかったのか、零は号哭の腕を払いのけた。
「俺はパスだ。 あんなゲームに参加したところで意味がない」
すかさずクゥエイ・バクは零に言い聞かせる。
「だが、参加しないことにデメリットはある」
チュッパチャップスをポケットから取り出し口に咥える。
「デメリット……一体なんの……?」
「話は後でだ」
零の言葉を遮り指の骨をパキパキと鳴らし戦闘態勢を整える。
「さぁ、おやつの時間だ……!」
教室全体の空間が歪み圧縮され消滅した。
***
荒野が広がる異国の地。
腹を空かせた獰猛な獣達が闊歩し、人々に恐怖を与える。
チュッパチャップスを噛み砕き飴に刺さっていた棒を吐き捨てるバク。
「今回は一段と減らす積もりだな……」
鼻を塞ぎ嫌悪するムゥ。
「この異常な死臭漂う世界を受け入れる一般市民の方々には頭が上がらないよ」
パンパンと拍手をし、みんなの注目を集める芝桜。
「運よくターゲットの近くに皆で飛べたみたいだ」
芝桜が皆から憐憫に視線を移し、それを確認した彼女はどこかへ走り去ってしまった。
「奴らより先に確保するぞ……!」
芝桜の言う奴らが誰か、それを聞く暇なく近くにいたライオンが襲い掛かってきた。
零はすかさず左目の魔方陣を発動させる。
が、力を発動させる前にライオンの動きが止まった。
脳天を何か鋭利な棒状な物で貫かれている。
「もう躾がなっていない子にはちゃんとお仕置きが必要ね」
那美の指の爪に魔方陣が浮かびあがっており、その爪がライオンの脳天へと伸びていた。
「赤いマニキュアは趣味じゃないんだけどなぁ……」
そういって血だらけの爪を元の長さに戻した。
「遊んでないでそろそろ行くぞ」
芝桜の指示で単独で動いた憐憫を除き、チームに分かれて行動することになった。
芝桜とムゥのコンビ。
そして那美と号哭のコンビ。
零は芝桜にため息混じりに言葉を発する。
「俺も憐憫と同じで単独行動する」
「そうはいかない。零は俺とバクと一緒に来てもらう」
零の腕を無理やり掴み、顔を近づける芝桜。
「強くなりたいんだろ? なら従うんだ」
脅迫めいた言葉に納得は出来ないが、仕方なく付いていくことにした。
***
歩き出して2時間は経っただろうか。
道中サイやクロコダイルに襲われるアクシデントに見舞われはしたが、無傷のまま健在である。
だが3人の内、誰一人として力を発動してはいない。
「……臭うな……」
芝桜は腕で鼻を隠し周囲を見渡した。
「そこに転がってる動物の死体じゃないのか?」
「だといいんだがな……」
用心に越したことはないと芝桜はバクに命令する。
「バク、探ってみてくれ」
芝桜の指示のもとバクは口を大きく開いた。
「零よ、あれがバクの天陣……シンコウだ」
大きく開いた口に魔法陣が浮かび上がる。
魔法陣が周囲に広がりエコーのように広がっていく。
突然バクが勢いよく口を閉じた。
「――千!!」
動物の死体が芝桜に飛びかかってきた。
「やはり――!!」
とっさの判断で蹴り払ったが全てを退けることはできない。
死体のライオンが口を大きく開け芝桜を飲み込もうとしたところで横に吹き飛んだ。
「助かった!バク」
倒された死体たちは再び起き上がり、獲物の周囲を回り始める。
「思いがけない……出会い……」
ぼそぼそとどこからか声が聞こえる。
「あなたたちは……私を知らない……でも……私は知ってる……!」
どこからともなく死体のチーターに乗った長い髪をぼさぼささせた少女が現れた。
「だから……名乗ろう……」
髪と髪の間から不敵な笑みが浮かび上がる。
「私は……邂逅……炉南……」
頬を赤らめ芝桜たちを見下す。
「イルミナティ……潰す……♪」
21-Ferocious beasts- 終