ⅩⅩ-光に照らされた者達-
今までのあらすじ
近いようで遠い未来――西暦2300年。
次々と零に襲い掛かる逸脱した事象・人物・力。
その最中、七田 号哭と出会い新たな運命に導かれ始める。
だが目の前に立ちはだかるのは強者ばかり。
続けざまに孤独な戦いを強いられていたが、謎の城を攻略した今、謎の組織に迎えられることになる。
「左目に天陣を宿す神の子であり、その左目で管理者権限を自由に操ることができる……ようこそ、遠山 零」
見知らぬ男が手を差し伸べる。
黒い髪がツンツンととがっており、だらしなく制服を着こなしている。
差し伸べた方とは逆の手でネクタイをだるそうに緩めると、差し伸べていた手を戻した。
「俺の名前は芝桜 千。まぁ仲良くやろうや、っな!」
どうやらこの男がここにいる者達のリーダー格であるようだ。
「散々な目にあわせといて仲良くだぁ? 難しい要求だな……?」
「適性試験だったんだ……けど、試験管が独断で難易度を上げたのは謝罪しないといけないな……だろ? 憐憫」
教室の片隅に隠れるように立っていた憐憫と呼ばれる歯車の中から現れていた女。
眠たそうな表情をしており、腕組みをして号哭を睨みつける。
「シクさえ邪魔しなければ……」
その言葉に号哭が反応する。
「なぁ? 俺はゲームのバランスを元に戻そうとしただけだぜ? 後、そろそろその名前の略し方やめねぇーか?」
憐憫はそっぽを向く。
「お前こそキャラ確立しとけよ……」
「憐憫!」
芝桜が怒鳴ると、憐憫はしぶしぶ零の元まで歩み寄る。
「普通に歩くぶんにゃ足跡も、草木も、城も何もでてきやしないんだな?」
「俺には出来ないことないんだよ!」
「女の癖に自分の事俺って呼ぶのかよ……笑える」
挑発に挑発を重ねていく。
「それに最後にさようならとか言ってたけど、こうも早く会えるとはなぁ?」
「俺はお前に言ってないんだよ。俺の操ってた人形に言ってたんだよ。 アホなの? 勘違い野郎なの?」
人形……?
あぁ、城主の振りして出てきた奴か……
人間じゃなかったのか……
「憐憫……? いつまで俺に恥をかかせる」
芝桜は手の脈の部分を触りながら憐憫を睨みつける。
「――――ッ!! 分かったよ、すまない……トイ」
トイ?
あぁさっきの号哭の言ってた変な略し方ってコレか……
名前の最初と最後の一文字ずつ取って人の名前を呼んでいるのか。
だから七田 号哭をシク。
俺、遠山 零をトイと呼ぶのか……メンドクセェ……
「それじゃあ改めて仲間を紹介しよう」
芝桜は教室にいた者たちの紹介を始める。
常に眠たそうな表情を浮かべ、一人称は俺。
口調は悪く、喧嘩っ早い。
ツインテールで足にはロングブーツ。
口元は大きなマフラーで隠しており、表情が読みにくい。
3歩で城を建造する力を持ち、俺を殺しかけた女。
星和公立高等学校1年。
憐憫 参。
激しき紅に染まる髪。
胸に光り輝く鳳凰の紋章。
腰にぶら下がる装飾品の数々。
”神の光放”の右手と、”悪魔の地獄への誘い”の左手を持つ男。
朱雀学院高等学校3年。
七田 号哭。
アフリカの学校から俺達の学校に留学してきている黒人。
日本文化が好きで日本語も流暢に話す。
光輪高等学校1年・留学生。
ムゥ。
茶髪の髪にネイルした長い爪。
目にはカラコンを入れているが、それほどギャルっぽくしているわけではない。
化粧はナチュラルな程度で、このチームのお姉さん的存在に見える。
海王芸術大学2年。
美螺 那美。
ボロボロの服に、口にはタバコと見せかけてチュッパチャップスを咥えている。
無精髭を生やし、髪もボサボサ。
浮浪者。
クゥエイ・バク。
そしてリーダーの帝都学院3年。
芝桜 千。
「後二人メンバーがいたがそいつらは殉職した。もう少し俺が早くいけてれば……」
号哭は今にも泣き出しそうだった。
「そして新たに俺達のメンバーとなる零には一つのミッションをこなしてもらいたい」
「まだ俺はお前らの仲間になるなんて――!?」
全てのメンバーが戦闘態勢に入った。
何が何でも俺を仲間にしようってのかよ。
「新東京都小学校5年生の榛 荊榛の身柄の安全と確保をしてくれるだけでいい」
子供の安全を守るのは分かるが、確保?
何かあるのか……?
まぁいい、とりあえず今はなるようになるしかないか――
「分かった、今だけは仲間になってやるしその命令も聞く。ただし、条件がある」
芝桜は笑顔を保ったまま条件を言えと無言の圧力で伝えてくる。
「俺をもっと強くしてくれ……あの号哭以上に、あんた以上に」
そんなことかといわんばかりの表情をすると零の要求にこたえる芝桜。
「それはもちろんだ。強くなってもらわなきゃ困る。来るべき戦いに備えてな……」
「来るべき……戦い?」
教室全体に大きな揺れが生じる。
「まぁ、もうその戦いは始まってんだけどな」
笑いながら答える芝桜の後の窓ガラスが粉々に割れ散る。
『哀レナ人間共……万死二値ス!!』
無音の部屋で倒したはずのシャンデリアが教室の外で鋭い眼光を皆に向けていた。
「檻から出ちゃってんじゃん……憐憫、ちゃんと世話してる?」
号哭が憐憫に問いかける。
「あんだけ城で暴れられたら把握できないっての、それにまた捕まえればいいだけの話!」
一体何がどうなってる!?
「あいつは俺が倒したはずだろ!!」
呆れた顔で零の訴えに憐憫が答える。
「はいはい」
背後から誰かに肩を掴まれる。
「君が倒したのはただのデータだ。本体を倒したわけじゃない。子供の遊びに本物は勿体無いだろう?」
クゥエイ・バクはそう零に言い聞かせ、無理やりチュッパチャップスを零の口に入れ込む。
「飴でも舐めて君は見てればいい」
世界にはまだ未知なことで溢れている。
でも未知なことを未知という理由だけで知らないでいていいという理由にはならない。
号哭がシャンデリアの動きを右手と左手を使い動きを封じ、芝桜が地面に手を叩きつけ、地面から白い鋭利なものが伸びたかと思うとシャンデリアを突き上げて突き刺す。
そこに憐憫が3歩で城を建造し、その中にシャンデリアを封じ込めた。
レベルが、次元が違いすぎる。
「改めてようこそ、遠山 零……俺達、”イルミナティ”へ」
戦い終えた芝桜は零に微笑み、出会ったときと同じように再び手を差し伸べた。
今度は迷うことなくその手を掴む。
「後悔するなよ?」
人との接触を拒んできた零。
上下関係で上の立場しか臨んで無かった零。
その零に確実に変化が起こっていた。
しかし勝利の余韻もそう長くは続かず、けたたましいサイレン音が教室に響いた。
20―Illuminati― 終