Ⅱ-担当者-
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DATE FILE No.00000haweg325152257JPN
出身国:日本-JAPAN-
出身地:■■県■■市■■■町●●●●番地●
氏名:遠山 零<17歳> 血液型:A---
経歴:
●●03年●月 ■■■■幼稚園卒園
●●09年●月 ■■■■■■小学校卒業
●●12年●月 ■■■■■中学校卒業
●●14年現在 ■■■■■■高校在中
家族構成:
父 ■■ ■■ <●●歳>詳細
母 ■■ ■■■ <●●歳>詳細
兄 ■■ ■■ <●●歳>詳細
姉 ■■ ■■ <●●歳>詳細
妹 ■■ ■■■ <●●歳>詳細
…データ取得中_
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私立 光輪高等学校 体育教師――畠山 真弓が教師免許を使い、国のデータバンクにアクセスをしていた。
現在この国、つまり日本国では法律関係者・警察関係者・教師等が己の持つ特殊免許を使い、国に保存してある膨大な国民のデータを閲覧する権利を持つことが出来る。
ただしその職種ごとに閲覧できる範囲は限られており、法律関係者・警察関連者等は一部例外を除き、全国民のデータを閲覧することが可能である。
しかし教師等の職種は、本人が担当する学校内の人物のデータバンクしか閲覧できない。
また、その他の一般職である製造業・自営業等の職種に就くものは、自分の親族のデータバンクしか閲覧できない。
この場合において、その企業の幹部クラスの位につけば、その企業に所属している社員のデータバンクの閲覧が可能である。
これは法律関係者・警察関係者・教師等においても同じで、例えば交番勤務の警官は担当地域の狭い範囲内での最低ランクのデータしか閲覧できない。
が、やはり他の職種よりは閲覧できる範囲が広いことに変わりはない。
この制度に、当時(西暦2163年)ほとんどの国民は反対であったが、その時就任していた首相、また各国の大統領の後押しもあり、何とか国民を納得させ可決するまでに至った。
その際心配されていた、個人情報の漏洩、プライバシーの問題など多々懸念事項が想定されていたが、今日までそういった問題は起こってはいない。
奇妙な事実であるが、これに全国民は疑問を感じていなかった。
この異常な事態に――
もちろん日本国以外の国でも同様なルールでデータバンクが用意されてある。
しかし、この制度を最初に提唱したのはあの”世界保護機関”であった。
最新型モデルのノートパソコンの画面に表示されているデータ取得中の文字が消えたかと思うと、画面にIDとパスワード入力を促すページが表示される。
「……?」
畠山は不審がりつつも、自分のIDとパスワードを入力し、次へをクリックする。
しかし画面に現れるのはこの言葉のみ。
《貴方の権限ではこのデータバンクにはアクセスできません。或いはIDかパスワードが間違っています。》
何度入力しても画面にはこの文字の羅列が表示されるのみ。
「なんなのこれ!? 零君の経歴も家族構成も不明。その上高度で厳重なセキュリティーまで掛けてある。何かおかしいわ……」
親指の爪を噛みながら画面をジッと睨む。
眼鏡を外し、椅子の背もたれに身を任せてため息をひとつ。
「それにあの時、私を端末も無しに強制的に”アッチ側”に送った……一体どういうカラクリなの?」
***
同時刻、同学校内、2年6組教室にて――
仲の良い者同士、机をくっつけ昼食をとる生徒達。
パンやおにぎり、コンビニ弁当、親の作ったお弁当、はたまた手作り弁当。
生徒達の昼食は様々だった。
そんな教室で浮いている生徒が一人。
教室の窓側に座席が位置しており、内庭を見下ろしつつコンビニで買ったパンを1人寂しく頬張る。
更に他人と己を遮断するべくしてか、高価なヘッドホンを耳に当て、適当にインターネットから違法ダウンロードしてきた楽曲を聴き流す。
ただ、ヘッドホンをしているときに眼鏡の柄の部分が邪魔らしく、机の端っこにそれが丁寧に置かれていた。
昼食を食べ終えると、紙パックに入ったリンゴジュースをストローで吸出し、ゴミをレジ袋にまとめて目の前にあるゴミ箱に投げ入れた。
オーディオの曲を変更し、制服のズボンのポケットから携帯を取り出す。
数分間操作し続け、携帯をしまうとヘッドホンを耳からはずした。
「ねみ~~!」
大きな欠伸をしつつ後ろ髪を掻きながら教室を後にした。
先程まで彼のいた机の上には、忘れ去られた瑠璃紺色の眼鏡が、小さくうずくまっていた。
***
彼はスタスタとスリッパを鳴らしながらとある場所に向かっていた。
そう、そこは彼の憩いの場所、第3パソコン室。
この教室には約40台のパソコンが完備されており、授業などでもよく使われている。
昼間は生徒たちに開放されており、誰でも出入りすることが可能である。
室内を見渡すと、後ろの隅に眼鏡を掛けた女子生徒が一人。
それだけ確認し終えると、近くの席に腰を下ろした。
パソコンのスイッチを入れると、左右にある椅子を自分に近づけ、それをベット代わりに横になった。
その様子を見ていた彼女、西島 沙耶は、チラチラと彼のことを気にしていた。
(せっ、先輩……零先輩だぁ~~)
彼女は脳内でスーパーコンピューターに劣らない処理速度で零に関して語りだしていた。
処理落ちすることなく脳内が零色に染まっていく中、並行作業でパソコンの画面内にメモ帳を開き、必死に何かを打ち込んでいる。
その音が五月蝿いのか、零は起き上がり沙耶の元に近づく。
「あのさー、慣れてないなら止めれば?」
沙耶は驚きのあまり声も出せなかった。
零は気にせず、画面のあちこちを指差す。
「ここ、それとここ、ここも駄目! 間違い過ぎ」
沙耶が返事もせず、動こうともしないのにイラついたのか、不意にキーボードの上に指を重ねる。
十字キーをうまく使いこなし、間違い箇所に修正を入れていく。
「後は自分でやれ。それと、C(C言語)を使いこなしたいなら、基本を固めてからにしろ!」
そういって再び自分の寝床に戻っていく零。
その後を目で追う沙耶。
キャパオーバーで処理落ちしていた彼女は胸の鼓動を抑えきれず、あと少しで失神寸前であった。
「……先輩、私のこと好きなのかな?」
あることないことを妄想し、零を苛立たせていたことは言うまでもない。
零は怒りを沈め、どうにか休眠が取れるよう身をよじっていた。
その光景を微笑みながら遠くから眺める沙耶。
しかしその沙耶の後ろで、非現実的な赤黒い斑点が、まるで生き物のように浮遊していた。
***
『認証コード、並びにID、パスワードをお願い致します』
受話器から聞こえる女性の声に彼女は躊躇することなく答える。
「認証コード:x1025-cvy0poz 、ID:gedoasin 、パスワード:308o846791823」
畠山 真弓はデータバンクを管理している世界保護機関に対して問い合わせを行っていた。
それは彼の――零個人のデータ閲覧に不具合が生じているからだった。
『暫らくお待ちください』
1分も経たないうちに、受話器の向こうから再び声が発せられる。
『確認出来ました。畠山 真弓様、今回はどういったご用件でしょうか?』
彼女は軽く経緯を話す。
『そうですか……では一旦こちらで確認を取らせて頂きます。そのファイルのデータナンバーを仰って下さい。』
「えっと、ファイルナンバー……00000……haweg…………32515……2257JPN」
『少々お待ちを――』
彼女は卓上で、指でリズムを刻みながら受話器からの声を待った。
『申し訳ございませんが、畠山様の権限では通常こちらのデータにアクセスはできないようです』
「――!? ちょっと待って! 彼は私が在籍する学校の生徒なのよ? だったら私にこのデータにアクセスする権限はあるはずじゃ――」
受話器の向こう側の女性が彼女の声を遮る。
『申し訳ございませんがこちらで確認する限り、畠山様にはアクセス権限がないとしか言えません。ですのでそちらに担当者を向かわせてもよろしいでしょうか?』
「今この問題を解決する事は出来ないの!?」
『免許更新をされていなかったり、何か誤りがあるという可能性があります。担当の者をすぐに向かわせますので、その時に問題を解決してください』
「分かったわ。っで、いつ来るの?」
受話器の向こうではキーボードを鳴らす音が聞こえてくる。
『ちょうど出張中の者がそちらの近くにいますので、1時間も掛からないかと思います』
「じゃあお願い、急いでね」
そういい終えると受話器をゆっくりと下ろした。
ため息を小さく吐きながら額を撫でる。
「一体、どうなっているの――?」
***
コーヒーをカップに注ぎ、椅子に座りつつ香りを堪能している最中、畠山のディスクにある電話が鳴った。
『畠山先生、お客様がお見えになっています』
内線で学校の受付から連絡が入った。
「はいどうぞ、中に入れてあげて」
思ったより早く担当者が来たので、一応担当者のために急いで新しいコーヒーを用意する畠山。
扉をコンコンと叩く音が部屋に転がりこんでくる。
部屋には畠山のみで、他の教師は授業のため部屋を出ていた。
「どうぞ」
彼女がそういうと扉はゆっくりと開いた。
そこには黒いスーツの男。
見た目は二十代後半、顔は二枚目で爽やかな笑顔を浮かべていた。
「どうもDB問題処理担当課の技術スタッフ、瀬川です」
名刺を渡すのと同時に名を名乗ってくれたが、彼女は男に興味がないらしく椅子に座るよう促した。
「畠山……真弓さんでいらっしゃいますね? 今回はどのようなご用件で?」
男性が畠山の方を見て話しかけるが、彼女はパソコンの画面に見入っている。
「ココ、このデータがどうしても見れないの。どう思います?」
「すみません、拝見させてもらってもよろしいでしょうか? 後、免許証の提示もお願いします」
男性はキーボードに手をそっとのせ、慣れた手つきでキーを叩く。
「今調べてみますから大丈夫ですよ。免許書はそちらにお願いします」
男性は背中越しに免許証を持ってきた畠山にそう言うと、画面には黒いフォルダが表示された。
男性の作業は事務的に進んでいく。
「それにしても、何故零君の周りでは不思議なことばかり起こるのかしら……?」
畠山は何気なく言ったつもりだったが、その言葉を男性は聞き漏らさなかった。
「今、なんと仰いましたか?」
畠山は独り言が聞かれたのが恥ずかしかったのか、顔を赤らめて何でもないと話をうやむやにしようとした。
しかし、瀬川は話を終わらせようとはしない。
「その……零君、ですか? 零君の周りで一体どんな不思議な事が起こったんです?」
しょうがなさそうに話し出す畠山。
「う~ん不思議な事と言えば、この個人情報ぐらいだけなんだけど……」
視線を落とし、口をもごもごとさせる。
「何だけど……?」
「笑わないでくださいね? 不思議な事と同時に、彼は私達が考えられない特別な力を持っているようなんです。そう、それはまるで魔法のような――」
彼女はこの前起こった出来事を瀬川に語った。
瀬川は既に話を聞くのに夢中で、パソコンの事などお構いなしの様子だった。
「――そろそろ原因は追究できましたか?」
畠山は我に返り、瀬川に尋ねた。
「いいえ、しかしその必要もなくなりましたよ」
「どういう意味です?」
瀬川は自前のバックをアサリながら彼女の質問に答える。
「原因が判明したと言う事ですよ?」
何故そんな簡単な質問をするんでしょうと言わんばかりに視線をこちらに向けバックをアサリ続ける。
「何なんです?」
その態度に畠山は苛つきながらも原因を問うが、尚も瀬川は笑顔を振りまくのみ。
そして口を開くと、理解しがたいことを言い放った。
「貴方が知るようなことは何もない」
「……?」
畠山の顔に困惑の表情が浮かぶ。
「まだ分からないんですか? この世界には破ってはならないルールがある」
「突然何を言ってるんですか?」
「さぁ、何を言いたいんでしょうかね――」
バックから黒い拳銃を取り出し、畠山の胸に向かって5発、的確に連射で撃ち込む。
彼女は勢いよく床に倒れこむと、息をするのも辛そうに天井を見つめた。
「貴方にはこれから新しい役目がある」
瀬川はそう言い残すと、畠山の撃たれた傷口に、ビンに入っている赤黒い血の様な何かを流しこんだ。
用が済むと何事もなかったかのように部屋を後にする瀬川。
後ろを振り返ることもせず、学校を後にした。
「There must be lost something in doing something.(何かを得るためには何かを犠牲にしなければならない) つまりその代償がそれだけだったこと……」
革靴の乾いた足音がむなしく、朦朧とする意識の畠山の耳に残った。
2-Person in charge- 終
キャラ紹介[〜第2話]
遠山 零(17)-高校生-
ニックネーム:レイ
6人家族の次男。
他人との接触を嫌い、魔法(?)の様なものを使うと畠山が語っていた。
西島 沙耶(16)-高校生-
ニックネーム:サヤ・サシャ
零のことを気にかけるピュアな乙女。
休みの時間などを使い、C言語で何かを作成中。
畠山 真弓(31)-体育教師-
ニックネーム:畠山先生
零たちの通う高校の女教師。
心配性であまり気も強くないが、時折生徒には厳しく接している。
瀬川 一(27)-技術スタッフ-
ニックネーム:瀬川
世界保護機関、DB問題処理担当課の技術スタッフ。
目的は不明であり、何かを企んでいる事は確か。