ⅩⅨ-速度を上げて-
シャンデリアの頭蓋にめり込んだ右手を抜く。
そこにポカンと空いた穴がブルブルと振動をはじめ、それが体全体に伝わり、天上とつながっていた鎖はパキパキとメッキを剥がしながら崩れ去っていく。
空いた穴から赤黒い斑点を噴出し、部屋を縦横無尽に駆け巡り終えると暖炉の火に焼かれて最後には焼死した。
「ボスは倒した……そろそろ次の道が現れてもいいんじゃないか?」
零の問いかけに答えるが如く、部屋がミシミシとうなり声を上げ傾いていく。
「まさかこの部屋も崩壊すんのか――!?」
傾きは止まらず先程まで壁だった場所が地面となる。
明らかにおかしい傾きの仕方だ……
さらに部屋は傾き、天上であった場所が続いて地面となる。
テーブルや食器類が散乱した元天上。
その天上に大きな亀裂が広がっていく。
天上全体に亀裂が広がると息を呑む暇なく床の見えない奈落の底へと落された。
円筒状の空間で壁には大小様々な歯車が稼動している。
それを横目に落下しつつ次の一手を考える。
「落下中に次の扉通り過ぎたら最悪じゃん……マジで」
落下の風を感じつつ恐れる姿を見せない。
「まさかここまで進んでくるとは思って無かったよ、トイ」
城主が現れた。
「だがもう時間が足りない、君はここで無限の落下を味わいつつ死ぬんだ」
笑って返事を返す。
「なんだよ、もうラスボスか? なら一緒に味わおうぜ、その無限の落下って奴を」
おかしいな……クリア条件は城主を見つければ全て終わるはず……騙されたのか?
零は魔方陣を出現させ城主と自身の存在を今いる空間に固定させる。
「座標固定…… とりあえず楽しくやろうぜ!?」
「死期を早めるか…… 愚かだ、トイ」
城主も両足に赤い魔方陣を出現させる。
「小手調べと行くか――」
壁のほうへと向かって空中を駆ける城主。
歯車に足をかけ、引き剥がしたかと思うと零に向かって蹴り上げた。
「当たらなきゃ意味ねぇーよ」
すかさず零は自分の座標固定を解き落下を進める。
それを追うかのように城主が蹴り上げた歯車が他の歯車と嚙み合った状態で零を追跡する。
すかさず加速を増し、歯車の進行上から抜け出すと、追跡していた歯車は壁の歯車と嚙み合い新たな動きの流れが出来る。
「いいね! を押してあげたいけど、まだまだだな……」
城主はさらに別々に連なった歯車を4連、零に向け蹴り上げる。
四方から完全に零を中心に捉え、一斉に攻撃を仕掛けるが次は速度を落とし軽がると攻撃をよける。
四つの連なった歯車はその場で動きを止め、隙間から抜け出した零はさらにスピードを加速させる。
「だからまだまだなんだよ、トイ」
動きを止めていた歯車は徐々に回転が始まり全体がものすごい勢いで回転数を上げていく。
そして壁に激突しながらも無作為に下へ下へと暴走して進んでいく。
「結局やることは一緒じゃないか、単細胞が」
限界まで速度を上げる。
「トイ……君だって同じだ」
城主は壁に掴まり、行く末を見守るはずだった。
「……餓鬼は餓鬼で遊んでろ! ……お前の居場所はここにねーんだよ、遠山 零!!」
城主の表情は一変する。
零の落下先に突然ゴム製の膜が出現する。
膜に勢いよく突っ込むが破ける気配もなく向かってくる歯車に向かって押し戻される。
「死ね!! 死ね!! 死ね!!」
「ごちゃごちゃごちゃごちゃ――」
第三者の声が広い空間に響く。
「死ぬのはお前だ――」
歯車が動きを止め、城主が歯車の方へ引き寄せられる。
「っは? あぁ?!」
歯車の上に乗っかり身動きが取れない城主。
「どういうことだ!! シク!!」
「そういうことだ」
七田 号哭は力を解放し歯車は再び勢いよく回転しだした。
城主が動く暇もなく、歯車同士の回転に巻き込まれ、歯車は赤い血で染まっていった。
「勝手な真似をする悪餓鬼には痛い目を見てもらわねぇとな……」
「確かに見させてもらったよ……」
号哭の後には城主が。
「神速……俺の技の一つだ、シク……知らないわけないよな?」
「知ってるさ、だから手加減してやったろ?」
号哭は手を差し伸べる。
「だが、手入れはちゃんとしろよ? 歯車からオイルが漏れちゃってんじゃんよ?」
「そうだぜ? 手入れはちゃんとするべきだったな?」
下のほうから聞こえてくる声。
号哭と城主は同時に見下ろし気づく。
燃え盛る炎がオイルの力を借りて2人に向かって駆け上がっていく。
「――トイィ!!」
全ての歯車が壁から剥がれ落ち、零にむかって歯車の雪崩が起きる。
城主たちは歯車から遠ざかった為炎に触れることはなくなったが、代わりに零が炎と歯車に巻き込まれていく。
「俺を舐めてんのかよ? 時間は充分にあった……」
零の魔方陣が煙を上げて歯車全部をロックオンする。
「管理者権限ぐらい手に入るんだよぉ!!」
歯車は宙で止まった。
「コレでクリアだ……」
尋常じゃないほどの回転数で歯車がその場で回転しだしたかと思うと、城主と号哭の元へ歯車が突進してくる。
「シク……」
「あぁ……」
号哭は右手を歯車に向けて、城主に向けて力を放つ。
神の光放によって歯車がその場で再び踏みとどまる。
回転数をさらに上げながら。
そこを城主が号国の技で加速し、さらに神速を使い目にもとまらぬ速さで零の横を通り過ぎていった。
「――――!?」
零の眼鏡にひびが入り、体から大量の出血。
そして消え去った右手。
零の放った歯車と号哭の神の光放によって身動きを封じられた歯車はその場で力に押しつぶされ粉々に散っていった。
空間自体も原形を保てなくなり、世界がゆがみ始める。
朦朧とする意識の中、零は笑った。
「代償が右手なのは痛いけど、見つけたぜ……お前がこの城の主だ!」
零の見据える先には粉々に砕け散った歯車の中に潜んでいた女子高生。
すべては勘違いだった。いや、この城が見せる幻覚だったのかもしれない。
先程まで戦った奴は城主ではない。
歯車の中にずっとひそんでいたコイツこそが城主であり、ラスボスなのだ。
だからこそ、先程までの城主と思われていた人物を目視してもクリア判定にはならなかった。
「おめでとう……そして、さようなら……」
女子高生は足を大きく振り上げ、空を蹴る。
鎌のような形の風が空間に切れ目を作り、零そして女子高生、号哭の順番で落ちていく。
そこには見慣れぬ教室。
見慣れぬ人間。
「左目に天陣を宿す神ノ子であり、その左目で管理者権限を自由に操ることができる……ようこそ、遠山 零」
ゲームは終わり、そして、新たなゲームが始まる。