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LOST EARTH  作者: 古屋 零
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Ⅰ-The worlds of us wonderful-

西暦2300年――

地球の世界人口は100億を超え、今尚その数を増やしつつある。

それに危機感を抱いた人類へ、西暦2152年に設立された”世界保護機関(WPO)”が、とある政策を提案する。

各国家はその政策案を当初は当然の如く反対していたが、急遽可決し、満場一致で各国共通の”とある法律”と、”とある政策”が行われる事になった。

***



蒸し暑く蝉の鳴きじゃくる季節。

蝉の命は一週間だというのに、夏は何故こうも休まる日がないくらいに五月蝿いのだろうか。

そんな今日、とある公立高校の体育館に一人、体操着姿の女子が。

昔とは違いブルマではないが、彼女はこの学校でも容姿レベルの高い女子の一人に数えられるのは間違いない。

それゆえ、ブルマでなくてもそこらの男は悩殺だろう。

先程まで体育の授業が行われていたらしく、一人用具の片づけをしている彼女。

バスケットボールの入った籠を転がし、用具室に入っていく。


それと同時に、体育館の入り口に一つのシルエット。

瑠璃紺色の眼鏡を掛け、この高校の制服を着た男子生徒が一人。

後ろ髪をめんどくさそうに触りながら体育館内を見渡す。

不敵な笑みを浮かべ、鋭い眼光が開け放たれている用具室を捉えた。

しかし、その青年を追う別の視線。

男子生徒を不審に思った一人の女性体育教師が物陰に隠れながら後を追う。

彼は用具室のみを見つめていたにも関わらず、後ろの女性体育教師の気配に気づいていた。

足音で感づいた訳ではない。

女性体育教師から発せられる、人間が気づくはずのない微量な何かで。

「――テリトリーに易々と入り込みやがって……」

ぼそぼそと呟くが、彼の笑みは止まらない。

「まぁいいさ――止められるなら……な――!!」


自動で閉まっていた用具室のドアに手を伸ばす。

レイ君、そこで何をしているの?」

不意に声を掛ける女性教師。

零と呼ばれる青年は動きを止め、ドアから手を離した。

「零君……よね? そろそろ時間よ? 捕まって連れて行かれたいの?」

女性教師は時計をチラチラと気にしながら零に話しかける。

「あぁ先生……? 僕のことは気にしないでください」

女性教師の方に振り向き、続けて言う。

「先生こそ急がないと、ほら……?」

零は女性教師の言う事を聞く気など微塵もなく、来た方向へと戻れと言わんばかりに手を出口に向かって差し伸べる。

「どうしていつも反抗するの?」

女性教師は困惑していた。

余程時間がないのか時計を見る間隔が短くなる。

「反抗?」

いつ俺が反抗したとでも言うように女性教師を睨む零。

「それに、生徒が一人でも端末にアクセスしなかったら、私達教師の問題にもなるのよ?」

「大丈夫、必ず後から行きますから」

相反する意見が互いの意見を打ち消しあう。

「時間が来れば端末は強制的にロックされる」

息をする間もなく零を説得する。

「あなたもそれは理解しているでしょ?」

軽く鼻で笑う零。

「当然ですよ先生。だけど先生は自分の命の心配だけしてれば良い」

「だから、そういう訳にもいかないのよ!」

両者とも頑固として各々の意見を変える気はない。

「俺は何とかしますから」

「あなたみたいな子供に何ができるって言うの!?」

聞く耳を持たない零に苛立ちを覚え、思わず怒鳴る女性教師。

「……言うことを聞けば良いものを……」

ため息混じりに発せられた言葉は女性教師の耳元には届かない。

そもそも、届かせる気など彼には毛頭ないが。


零の表情が一変する。

「時間の無駄だ、先生……」

殺意で満ち溢れたかのような子供が見せるはずのない表情で、女性教師を鋭い眼光で睨み付ける。

その表情にひるみ、動けなくなった女性教師の右肩を強く握り締め、右手で壁を伝う見えない何かを掴んだ。

「Good-bye.」

「何を――!!」

彼女の視界には何も映らなくなった。

零も、周囲の風景さえも。

「やめて――! 一体何をする気な――!?」

女性教師が突如、零の目の前から姿を消した。

光の屑となって。

「やっと開放されたよ……」


零は再び用具室のドアに手を掛ける。

すると目の前に体操着姿の女子生徒が片づけを終えたのか、立ち上がってこちらに向かって歩き出した。

零は歯をぐっと食いしばり、拳を握る。

女子生徒は腕時計を確認し、事の重大さに気付き、目の前に現れた零に忠告する。

「急がないと間に合わなくなるよ」

急ぎ足となった彼女が横を通り過ぎようとした瞬間、零は無言で女子生徒の上着を掴み、近くにあるマットへ押し倒した。

「It is the opening of a pleasant game. (さぁ、楽しいゲームの始まりだ)」

零は軽くかじった英語を話すと、怯える女子生徒の上にのしかかる。

「っえ、っえ!? 何……何なの!?」

零は笑いながら彼女の首を軽く絞める。

「英語分からない? ……分かるだろ!?」

手に力がこもる。

「お願い、許して……わっ、私……時間が…………端末……行かなきゃ……!!」

うっすらと目に涙を浮かべる女子生徒。

「It is the game that is more pleasant than boyhood, such a thing.(大丈夫、そんな事より楽しいゲームだ)」

零は大きく目を見開く。

女子生徒の抵抗が収まった。

「何……何で……? 体が……!?」

己の唇を舌で軽く湿らせる零。

「Why? As for it, I have your administrator rights.(何故って? それは君の――――は僕が持ってるからさ)」

零はそう言うと髪を掻き上げる。

「……管理……者……? ……それ、どういう意―――!!」

女子生徒に顔を近づけ、まるでそれが挨拶かのようにキスをする。

「本当は分かってるんだろ……? まぁそれより、少しはこのゲームを楽しもう」

どこからともなく小型ナイフを取り出すと、女子生徒の服を縦に切りつける。

喋る自由しかない女子生徒は、世界にたった2人しかいないこの星で、無意味に悲鳴を上げるしかなかった。

1-我々の素晴らしき世界― 終

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