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第百六十七話 新ムータン入り初日


「ムータンの者達に、自国の狩場を試させてみれば?」

今は朝のお茶の時間。

ドーラが唐突に言った。


「あ、そうだな、、今のうちに慣れとけば、後の者達が来た時楽だよな」

ガンダは何気に答える。でもその重要性はわかっていた。全体的な脅威具合が判っている狩場と判っていないそれでは全く違うのだ。


また、その狩場は自分達の街の近くにある。街への脅威具合を確認されているのといないのでは、これまた安心度は全く違う。


更に言えば、ドーラとユータが「大丈夫ですよ」と言うのと、近衛部隊が「安全度の確認終了」と言うのでは全く違うだろう。彼等はドーラとユータの物差しを知らない。しかし近衛の物差しは自分達の物差しと似たようなものなのだから。


その席で、そろそろムータンの者達には自国内をどんどん知っていって貰う方向性で行こう。と話し合って決めた。

勿論その席にはムータンの者達も何人もいた。当人たちも早く入りたがっていたようだった。言わないとわからんよ、、


生活拠点も向こうの王宮側にある軍拠点の兵舎にして、こっちの厨房班の子たち何人かを応援に行ってもらって、こちらとの行き来は転移扉を使う。


ムータン冒険者各班のリーダーをやってくれているベテラン冒険者は、引き続きそのままムータンの狩場の調査を終えるまでは居てもらう。


土壌の確認のため、ムータン王都の畑からはじまり、いくつかの街の畑地で試験栽培をしてみる。その街と王都との間に扉をつける。

養殖も試験的にやってみる。

この2つは、各班で実習したムータンの者達が行ってみて、必要に応じてドラゴニアの畑班や養殖班などに援助を求めたりする。


あとは、気づいた時点で始めて行くなり相談するなりしていこう。と決まった。

早速その日から徐々に始める。


でも、

ドーラとユータの出番は今の所無い。

基本は、各リーダーやムータンの当人達が進めていく。

各リーダーもわかっていて、できるだけ当人であるムータン人達に自主的に進めさせる。なにせ”自分達の国をう作っていく”ことなのだから。

自分の国を作っていくのは自分達なのだ。そこが重要。子どもたちはその気持ちの重要さをよくわかっている。


ーー


流石軍隊である。

部隊指揮官が部隊を各班にわける。

建築班、厨房班、調達班、調査班、本部、に。


建築班はドーラとユータが街を作った時に出た材木の余りを使い、ドーラとユータが作っておいた兵舎で使う小物などを作ったりする。魔法も使うので良い訓練になる。


厨房班はドラゴニアでの実習をそのまま活かすだけで、場所が新しい厨房なだけだ。ただここでも小物が無いのでまず最初にそれを揃えている。同じく魔法を使って作り出すので良い訓練だ。

風呂もこの班の仕事だ。街なかにある銭湯の稼働を始める。


調達班はまずは食材調達。当日食べるものだけでもすぐに狩って来なければならない。まだ人が入ったことのない森、狩場。しかし、自分達の国の狩場にはじめて入る人間だ。皆やはりワクワクは抑えきれないようだった。


ドーラもユータも何も感じなかったので、さほど強い魔獣等いないはずではあるが。居ても変異種程度だ。リーダーの冒険者がいるので安心。


調査班は、新ムータン全土の調査をする。地図はドーラに貰っているが、実際に行ってみる。その行程も調査をする。あとあと、どこをどう開発したいとか、道を通したいとか、水路作りたいとか、そういう時に役立てる情報を集める。森なのか原野なのか荒地なのか湿地なのか、どの程度の生き物はいるのか、もしくは居そうなのか、森でも古い森(太い高い木がある等)なのか、新しい森なのか、でも違う。そういうことを、気づいたことを記録していく。

なので、転移ができる者を中心にしている。今のところ、転移出来る者が少ないので小規模班だ。


本部は少人数。念話によって入ってくる情報をまとめる。また、いざというときには現場に駆けつける。また、必要に応じて最低限の指揮を取る。基本的には現場に任せている。医療も本部の担当になる。


ーー


ムータン人達の新ムータン王国入り初日。夕方。


初日だから各班の多くはそれほど進まなかった。徐々にでいいのだ。今焦る必要は無い。


新ムータン王都の兵舎近くの銭湯。

でかい風呂がおっさんやあんちゃんで満員だ。


「だー!!ぶっふぁーー!!あーー、、、、、、、初日から風呂に入れるとは思わなかったわ」

「おう、俺も覚悟していたんだがな。」

「ああ、こっちに来てから湯船に浸かるって覚えてから、風呂に入れないと、なんかな」

「ああ、疲れが抜けないつーか、」

「一日が終わった感じがしないとか、な」

「ああ、それそれ」


「森に入ると何日かそのまんまだしなぁ、、」

「まぁ、、狩りのときはしかたねーけどな」

「まぁなー」


「しっかし、、こっちはこっちでおもしれぇなぁ、、」

「ああ、最初はなんていなかなんだ、って思ったけどな」

「いなか、つーより、昔?」

「見た目は、文明化がされてないからなー」

「でも、魔法が便利だわ、、」

「それなー」


「魔法ありゃ、文明化とか意味無ぇよな」

「いらんよ、、そういう余計なのは」

「あっはっは、ちげーねー、面倒くさいだけだわ、余計なもんは」


電気など使わない。壊れやすい機械類など無い。

例えばクルマ、トラック。必要ないのだ。他国ならいざしらず、ドラゴニアでは皆ストレージ持っているし飛行くらいできる。身体強化で自動車以上に早く走リ続けることも容易だ。クルマや飛行機の必要性が無い。念話があるので電話も無線も必要ない。


船だって力を使わずに水の上にいることができるから使うだけで、動力は念動力で十分だ。舳先あたりの水の抵抗をなくして船の後ろから少し押すだけでどんどん進む。

船は漁の道具を置いておく場所にもなる。パッと見ですぐ道具を使えるから出しっぱなしは便利だ。

船がなければいちいちストレージに出し入れしなければならない。もしくはそこらに浮かせておくか。それも幾つもになると面倒。なので船は便利なのだ。

でも自動車や飛行機は必要ない。




風呂を上がれば食事になる。


兵舎に食堂はある。でも千人程度用なのでそれほど大きくはない。

初日なので皆一緒に食べる予定になっているので、兵舎の前の広場にテーブルとイスを並べて、そこで全員一緒に食べることにしている。


広場いっぱいまでとは言わないが、大半をテーブルが埋め尽くし、料理がその上に乗っている。勿論飲み物も。

全て余裕があるほどに。勿論ドラゴニアから持ってきたものも多い。初日から全てできるわけない、それは皆判っていること。


全員が風呂から戻り席に付いたので、ムータンの派遣先遣隊司令官が設置されている縁台に昇る。

声は魔力で広場に行き渡る。


「諸君。我らが王に代わって挨拶をさせてもらう。我らが王は、この新ムータンにムータン先遣隊が入ったことを祝われた!」

おーーーーっつ!!!(全員)

「先遣隊に重責を負わせ、苦労を掛けるが、君たちならできると信じた。その結果を出してくれている。ありがとう。と、我らが王はおっしゃられた!」

おーーーーっつ!!!(全員)

「我々の本番は、今日からだ!!これから更に力を合わせ、我らの国を作り上げていこう!!。」

おーーーーーっつ!!!!(全員)

「今日までご苦労だった!明日から、また、いくぞー!!!」

おーーーーーーーーっつ!!!!!(全員)


司令官がドーラを縁台に招く。


「あー、司令官、先に乾杯して皆に飲み食いさせながら俺の話を聞いてもらおう」ドーラ


「お言葉に甘え、先に乾杯だ! 我が国ムータンと、我らが親愛なる国ドラゴニアのために、乾杯っ!!

カンパーイ!!!(全員)


「・・・・・飲み食いしながら聞いてくれ。 皆、今日までよく頑張った。君たちは向こうの世界からはじめて集団で移住してきた者達だ。ちなみに、君たちの先輩が彼、ユータだ。彼は一人でこの世界に来た。」

広場全体が一瞬静かになった。

(一人で?)

(たった一人で???)

・・・・・

そう、彼等ムータンの者達は仲間とやって来たから不安も少なかった。くじけなかった。


「彼がこちらに来た時、それは中学生のときだった」

・・・・・・・・・・

また静寂。


「まぁ、その今のドラゴニア王宮の者達と知り合い、後色々あって俺とも出会い、今はここでこうしている。

なので、君たちは心配しないでよい。君たちの先輩が、俺と一緒にドラゴニアを立ち上げたのだから。というか、ユータが発案だったかな?」

「えー?そうだったっけ?」

「そうだよ、あの山のほうに、とかいい出してだな、、」

「あーそーだったっけ?」


「まぁ、そんな軽いノリではじまったのが、今のドラゴニアだ。そんなもんなんで、、、考えすぎないでもいいかも?とも思うぞ。こっちの世界は、自分が責任を持って生きている、それに尽きる。だからウチの国には未だに法律もない」

ざわざわざわざわざわ・・・


「法律?」

と、側にいた若い畑班のリーダー、ヨージ。


「ああ、このヨージは幼児の頃にドラゴニアに入った。なので他国を知らない。」と皆に向かって説明するドーラ。

「ヨージ、法律ってのは、あれやちゃだめ、これやっちゃだめ、って決められていることだ」

「????なぜわざわざ決めるの?」


「決まり事を決め、それを破った者を罰するためだ」

「んじゃ、決まり事がわるいんじゃないの?」

「なぜ?」

「やらなければいけないこと、や、やったらだめなこと、くらい、誰でも判ることだよね?なのに決まりを破るのは、その必要があったからでしょう?」

広場全体がざわめく・・


「司令官、どうだ?」ドーラは司令官に問う


「・・・・・・どう言ったら、、、何をどうすれば、そこまでに成れるのか、、、、大人でさえ、、」

「??よくわからないけど、小さいときから皆に言われるし、なんかあったら皆で話し合って必ず解決するし、、」とヨージ。


「わかるか?」

「はい、、」司令官


「話し合うこと。お互いに理解しあうまで話し合う。意見が違ってもいい。でも相手がどのような違う意見を持っていのか?ということを理解しておかねばならない。

ピーマンを嫌いな者に無理やり食べさせるより、ピーマンが嫌いだと言うことを理解して、んじゃほうれん草のおひたしはどう?と勧めてみればいい。


理解が足りない。理解しあわない。理解させるのを面倒臭がるから法律やルールを作って強制する。もしくは、あまりにもわがまま勝手な言い分なので理解させられないから法や社会のルールを作って強制する。

それが法とかルールだ。


俺達は、お互いに理解し合うことをする。できなければ付き合わない。敵対してくれば殲滅する。それだけだ。

ただ、理解し合おうという者達にはこちらも理解し合おうと努力し、必ずなんらかしらの理解をしあえるようにする。


だから、そのお互いの努力の結果、信頼しあえるのだ。


法や社会のルールを作る者達は、作る側と強制される側の信頼なんか無いから、法律やルールに依存するしかない。


個人でも国家間でもそれは全く変わらない。そんなものが必要無いのがこっちの世界であり、俺達の同盟だ。


そして、理解しあえる者同士、というのは、お互い自分の生き様に責任を持って生きている。

このヨージは、みたまままだ子供だ。しかし、彼はサブリーダーをしている。

彼の生き様全てに彼は責任を持って生きている。その言動全てに責任を持って、自分と仲間のために毎日を送っている。

わからないこと、困ったこと、があると、周囲の者達に相談する。周囲の者達も全員相談できる信頼できる相手だから。」


広場は完全に静寂だ。


「向こうの世界、君たちの世界を見てきた。何年も過ごした。なので、向こうの世界の者達が一朝一夕にそうなることが難しいのはわかる。

が、君たちはあの王様に仕えるために自発的に今の職に応募したと聞いた。そういう君達ならば可能だろう。君たちもそれを目指してくれたら、われわれも嬉しい。


ちなみに、君たちの王様とうちのダンマスは、そこまでの信頼関係を作り上げている。俺の目から見ても君たちの王様は素晴らしい。

ダンマスは俺の親だ。勿論俺もユータもダンマスもそこまでの信頼関係を築いている。


君たちは素晴らしい王を頂いている。

向こうの世界のなんちゃって王国と違い、こちらの王国は王が全てに責任を持つ完全な王国だ。

あの素晴らしい王のもと、君たちは新ムータン王国の国民にふさわしい素晴らしい人になるために努力してくれると願っている。


こちら側の王は、自国の全てにおいて責任を持っている。国民の安全、幸せな生活を構築、維持するために一族で生涯をかけている。国民が安全で幸せな人生をおくれているのを見るのが、王族の幸せになっている。だから忙しい中でも、先頭に立って表に出ることも少なくない。

アレだ、親が、子供が楽しそうに笑っている顔を見て、自分の幸福を噛みしめるようなものだ。同じなのだ。

そして、その幸福な状態を自分たちで作っている国民を誇る。

王がどれだけ環境を用意してやっても、結局幸せな家庭を作るのは当人達でないと出来ないからな。

善い親を誇る子供、幸せを作っている子供を誇る親。それは、こちらの国民と王との関係と全く同じだ。


そのためにであれば、我がドラゴニア、ひいては俺の同盟全ては、君たちに協力を惜しまない。

君たちの新ムータン国王と、それに仕える全国民達に幸いあれ!」

と、ドーラは盃を掲げた。


かんぱーい!!、と広場から多数の声が上がる。半数ほどはまだ驚愕のままなようだ。



その晩、酒をたらふくのんだにもかかわらず、眠れない者もいたようだ。


その者達は思い出していた。

確かに、最初の研修時から、皆話しかけてきてくれ、話すことを優先していた。作業より話すことを優先するなんてなんてのんびりなんだ、と思っていた。が、いつの間にか自分の中でも話すことを優先するようになっていた。それはなんてことない雑談ではなく、当時の俺らに必要な「話す内容」だったからだ、と今気がつく。


休憩時間には、必要なこともそうだけど、何気ない雑談もしていたが、仕事中はなんらかしらにかかった話だった。自分の考えとか仕事の内容とかなどに。彼等は俺を知ろうとしていたのだ。そして俺の至らない部分の方向性をどうにかマシな方に向けようとしてくれていたんだろう。おかげで今日の話は幾分わかった。


もしこれが、こっちに来た初日に聞いていたら、ほとんどわからずに「何言ってんだ」と、鼻で笑い飛ばす程度でしかなかったことが、今の俺でも判る。

と、そう思ったら、震えが来ていた。


ドーラが言っていた王と国民の関係もそうだ。

ドラゴニアの子達のドーラやガンダ達銀月満月の者達などへの信頼は空気が存在するようにあたりまえの事に見えた。でも言うべきことは言い、疑問は何でもその場で質問していた。その質問へも、必ず、よく考えながら返答していた。


ドーラとユータが、密林からこの国を作ったと聞いていた。それはインフラほぼ全て。

でも、国は箱物ではない。一緒に来た子どもたちが畑を耕しはじめ、養殖を始め、家の中の小物を作り出し、食堂を始め、銭湯の湯を沸かしている。

維持して継続させて向上させているのは子どもたち。


王を含め、皆自分の立場で頑張って、みなのためになっている。

ああ!


ここまで考えて男はわかった。

「早く一人前になるんだ!」

と、子どもたちが言っていた言葉。


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