第84話 勇者は遂行する
曇り空に黒い粒が見える。
目を凝らせば、それらが魔族の軍隊であるのが分かった。
彼らは一斉に魔術を投射する。
豪雨のように振り散らされた術は、俺だけを狙って襲いかかってくる。
数秒後には、辺り一帯が更地になるだろう。
万単位の命すら容易に消し飛ばす広域魔術の雨だ。
絶望的な光景を前に、俺は相棒の二丁拳銃を構える。
引き金に指をかけて語りかけた。
「やれるか?」
「Off course!!」
二丁拳銃トゥワイスが叫ぶ。
次の瞬間、左右の銃口から魔弾が放たれた。
凄まじい振動で高速で発射していく。
魔弾は空中を突き抜けながら分裂すると、圧倒的な密度を以て魔族の爆撃に衝突した。
一瞬の拮抗を経て、そのまま喰い破る。
さらには射線上の魔族を粉微塵にしていった。
「よくやった!」
俺は大地を蹴り、身体強化で空中を蹴りながら突き進む。
トゥワイスから展開された双剣で残る魔族を切り裂いていった。
そのまま駆け抜けて、軍隊を指揮していた魔王軍幹部との一騎打ちに持ち込む。
「勇者ァッ! 貴様だけは! 絶対に許さぬぞォッ!」
絶叫を聞きながら俺は双剣を振るう。
叩き込んだ斬撃が相手の防御を穿ち、心臓を両断した。
俺は流れるようにして銃口を持ち上げると、幹部の頭部を射撃する。
魔術を構築していた脳を粉砕した。
俺が撃ち抜き斬り倒した魔族の死体は次々と落下していく。
大地に激突した後、復活してくる者はいない。
残らず急所を突いているので、再生は困難だろう。
彼らの死骸の発する瘴気と魔力がオーロラのような色合いを見せて上空に発散される。
一部始終を眺める俺は深く息を吐いた。
「……ようやく終わったな」
重い疲労があった。
七日間もぶっ通しで戦い続けているのだ。
しかも気が抜けない場面が連続しており、死なずに済んだのが奇跡に近かった。
しかし、それだけの無理をした甲斐はあった。
今日は世界にとって大いなる瞬間として記録されるだろう。
俺は空中を蹴りながらゆっくりと落下する。
荒れ果てた森の少し先に、リリーとモアナがいた。
彼女達の周りには魔族の死骸が散乱する。
なかなかの激闘が窺えるが、二人とも生き残ったようだ。
正直、彼女達を守る余裕がなかった。
どうなるかと心配だったが、杞憂だったらしい。
(皆が成長しているんだ)
魔将軍ガルナディアスとの戦いから四年。
俺達の旅は終わりを迎えようとしていた。




