第83話 勇者は旅立つ
二週間後。
俺達は王都の端にある路地裏にいた。
今からこの地を出発するのだ。
わざわざ目立たない場所を選んだのは、三人の勇者が見送りに来ているからだった。
王国との関係が微妙な俺と親しい姿を見られるべきではないという配慮だ。
ナズナは少し寂しそうに言う。
「もう出発されるのですね」
「どこかで魔族が暗躍しているだろうからな。俺は一つでも多くの陰謀を阻止しなければならない」
本当はもっと早い段階で出発したかったが、あれだけの騒動の直後に発つのもどうかと思ったのだ。
それに王都のパニックはすぐに治まったものの、ガルナディアスの死を受けて、他の魔族が襲来する可能性もあった。
奴らは神出鬼没である。
念のために滞在して動向を窺っていたが、特にトラブルが起きることもなかった。
此度の一件を察知した魔族が多い。
ただ、俺達を警戒して、無闇に報復を狙うべきではないと考えたのだろう。
ガルナディアスとはそれだけの強さだったのだ。
もっとも、逆行前の記憶があるので知っている。
厄介な魔族はまだまだ多い。
王都の危機を救ったくらいで気を抜いている場合ではなかった。
(魔王の封印場所も突き止めないといけないしな)
むしろここからが本番と言えよう。
いつまでも勝利に浸って浮かれていられないのだ。
勇者達も間もなく王都を出発するとのことだった。
彼らはそれぞれが国内で修行して、力を付けながら魔族の襲来に備えるそうだ。
王国の要請を受けつつも、独自で行動するつもりらしい。
「もし何か問題があれば呼んでほしい。可能な範囲で助太刀させてもらう」
「ありがとうございます! とても助かります」
勇者達が頭を下げてくる。
どこか初々しい姿だ。
時系列的に考えると俺と同じ立場だが、経験値的には数十倍以上の差がある。
逆行については話していないものの、自然と先輩と後輩のような関係となっていた。
(懐かしいな。俺にもこんな時期があったのだろう)
そんなことを考えながら俺とリリーとモアナは出発する。
兵士に見つからないように王都を出た。
国外を目指して移動していく。
「皆で手分けして世界を救うんだね」
「固まっていると、目立って狙われるからな。別行動で魔王討伐を目指す方がいいんだ」
「彼らは大丈夫でしょうか……」
「それぞれが上手くやれるだろう。今は未熟でも勇者として選ばれるほどの人物なんだ」
モアナとリリーはそれぞれ勇者達のことを考えている。
もはや他人事でもない立場なので、思う所があるのだろう。
(彼らには強くなる方法は伝えてある。俺がいなくとも問題ない)
あとは本人次第だ。
本気でやらねば道半ばで死ぬ。
ただそれだけなのだから。
「他人の心配をしている暇はない。俺達も頑張るぞ」
俺が言うと、二人は元気よく反応するのであった。




