第80話 勇者は怒涛の勢いで仕掛ける
ガルナディアスが瘴気の炎を周囲に噴射する。
俺は咄嗟に瘴気入りの魔弾を撃ち出して相殺した。
しかし、他の者達は同じようにはいかない。
リリーは氷魔術で壁を作ってガードしたが、モアナは避け切れずに炎を浴びていた。
俺はすぐさま駆け寄って瘴気を吸収する。
高濃度の瘴気が体内を駆け巡り、命が軋むような感覚が突き抜けた。
俺はそれを魔力で抑制する。
瘴気は僅かな痺れを体内の一カ所に隔離した。
モアナは申し訳なさそうに謝る。
「ごめんね……」
「気にしなくていい。助け合っていくぞ」
俺は口端から垂れた血を拭う。
今の力技は何度も使えるものではない。
こちらの身が持たないからだ。
暴走するガルナディアスは体内の瘴気を濃縮させている。
自壊しながらもそれを撒き散らす災厄となっていた。
早く仕留めなければ、王都全体が汚染されそうな勢いである。
「ゴアアアアアァァァッ!」
ガルナディアスが獣のように叫びながら跳びかかってくる。
リリーや他の勇者達の攻撃など無視し、明らかに俺だけを狙っていた。
理性が吹っ飛んだ状態でも、誰が危険か認識しているようだ。
宿敵の存在が本能に刻み込まれてしまったのだろう。
「――上等だ」
俺はモアナを庇いながらトゥワイスに魔力を送る。
殺意を漲らせてガルナディアスを迎え撃った。
ねじ込まれた瘴気塗れの爪を双剣で弾いて打ち上げる。
その動作に合わせて銃撃を見舞った。
計三発の魔弾がガルナディアスの腹に命中する。
血肉が破裂して風穴が開いた。
そこから内臓がこぼれ出す。
ガルナディアスは構わず吼えて、口から瘴気の炎を吐いた。
それを予期していた俺は双剣で炎を絡め取り、回転しながら切り付ける。
黒炎に包まれた刃がガルナディアスを蹂躙した。
切り裂かれた箇所から浸蝕されていく。
魔族ですら耐えられない瘴気によって、強靭な肉体がじわじわと腐っていった。
「まだまだ終わらないぞ」
俺は変幻自在に双剣を振るいながらガルナディアスに連撃を叩き込む。
獰猛だったガルナディアスが怯み、徐々に後ずさり始めた。
ガードに使う腕に裂傷が増えていく。
ガルナディアスは出血すら気にせずに防戦一方となっていた。
限界を超えて自我を失ったはずだが、己の死を予感して攻勢に移れないのだ。
無闇な攻撃が命を落とすことになると理解している。
しかし、守ってばかりでは駄目だ。
どこかで反撃に転じなければ勝利などない。
それを悟ったのか、ガルナディアスは大きく咆哮を轟かせる。
斬撃を浴びながらも豪快に攻撃態勢に切り替わった。
練り上げた魔力と瘴気を右手に集中させて、崩れゆく拳をそのまま俺に叩き込もうとする。
「させねぇよ」
俺は拳に向かって瞬時に銃撃を浴びせた。
一気に瘴気を送り込んで粉砕する。
胴体を掠めていく殴打を抜けて、右の双剣を横薙ぎに振るった。
その一撃がガルナディアスの喉を切り裂いた。
さらに間髪容れずに銃口を胸に突き付ける。
「これで終わりだ」
「Yippee-ki-yay」
トゥワイスの決め台詞を聞きながら引き金を引く。
渾身の銃撃が迸り、ガルナディアスの心臓を消し飛ばした。




