第8話 勇者はさらなる力を手に入れる
俺は反動で後方へと転がっていく。
なんとか受け身を取りつつも、身体のあちこちをぶつけながら数十メートルは吹き飛ぶ羽目になった。
ようやく止まったところで立ち上がる。
「痛ぇな……」
腰を押さえながら戦果を確かめる。
ゼロ距離で射撃を受けた熊の魔物は崩れ落ちていた。
頭部全体が砕け散って背中まで爆ぜている。
痙攣しながら血を噴き上げていた。
タフな魔物だが、さすがにあの状態から復活することはない。
俺はその場に座り込んで息を吐く。
さすがに疲労感は否めなかった。
「なんとか勝てたな」
最悪、剣で斬り殺すことも視野に入れていた。
しかし己に課した縛りを破ることになる。
さすがに格好悪いので、しっかり決まってくれてよかった。
双銃の勇者として、また一歩進むことができたと言えよう。
勝利の余韻に浸っていると、熊の死骸から魔力が流れてくる。
「おおっ」
思わず声が出てしまうほどの質と量だった。
これはかなりの強化になりそうだ。
考えれば当然のことである。
熊の内包していた魔力を俺が独占しているのだから。
通常は霧散する分も余さず取り込んでいる。
体感で分かるほどの強化具合だった。
(やはり単独行動をして正解だったな)
仲間がいた場合、倒した生物の魔力は分散される。
勇者が少数精鋭になる理由の一つだ。
故にパーティはだいたい五人か六人が限度と言われていた。
それ以上になると、魔力の分散が大きくなりすぎて効率が悪い。
ソロで戦うのはハイリスクだ。
かと言って仲間が多すぎると魔力による恩恵が薄まってしまう。
その辺りの管理が勇者には求められるのだった。
(この分だと、他のエリアでもやっていけそうだな。下級魔族なら十分に渡り合える)
ボス級の魔物を早い段階で倒せたのは幸運だ。
選定した拳銃もかなりの威力を持っている。
戦い方を工夫することで、同格以上の敵にも通用するだろう。
ほとんど即席の自作武器だが、想定以上の性能であった。
やはり選定の補正が効いている。
(この調子で各地の強力な魔物を討伐していこう)
魔王の封印場所を探りつつ、肉体強化を進めていきたい。
知識は潤沢だ。
強そうな魔物の生息地は知っている。
(しっかりと計画すれば、全盛期を凌駕するのも難しくないはずだ)
今後について考えていると、突如として拳銃が発光し始めた。
光はだんだんと強まって洞窟内を照らし上げていく。
俺は目を細めて拳銃を注視する。
「これは……!」
見覚えのある現象だ。
心当たりは一つしかない
「まさか進化かっ!」
大量の魔力を取り込んだことで、武器が変貌を遂げようとしている。
いつか訪れるものだが、これだけ早いとは。
やがて光が鎮まると、そこには進化した姿があった。
期待して待っていた俺は口を半開きにして固まる。
「は……?」
それはレンコン型の回転式弾倉を備えた銃――つまりリボルバーだった。
全体的なカラーリングも一新されている。
右の拳銃は白と金。
左の拳銃は黒と銀。
それだけなら構わない。
単発の先込め式からグレードアップした。
連発できるようになったということだ。
純粋な進化である。
俺が困惑しているのは、とある箇所の変化だ。
本来なら装填と排莢用の穴に小さな裂け目ができていた。
その奥に歯が覗いている。
真っ赤な舌が蠢くのも見えた。
二つの銃には同じ変化が起きている。
「何だこれ……生き物、なのか?」
俺はその不気味な銃を睨みながら眉を寄せる。
すぐにでも手放したいが、一応は選定した武器だ。
粗末な扱いをするわけにはいかなかった。
「Zzzzzz……」
左右の拳銃の裂け目は、規則正しい呼吸音を立てていた。
心なしか気持ちよさそうだ。
(ひょっとして寝息か)
無言で訝しんでいると、唐突に呼吸が止まった。
裂け目は軽く咳払いをすると、何かに気付いたように口を開く。
「……Oops. Hello,my master. How are you?」
進化した二丁拳銃は、流暢な英語で喋り出したのであった。