第79話 勇者は共闘する
前方でガルナディアスの咆哮が轟いた。
受けたダメージを回復して復帰したらしい。
ただ、魔力と瘴気を多量に消耗している模様だ。
あの暴走状態を保つこと自体に負荷がかかる上、戦闘による傷を再生し続けている。
そろそろ限界なのだろう。
とは言え、ここで油断するほど間抜けではない。
俺は素早くトゥワイスに弾を装填すると、背後の勇者達に指示を出す。
「とにかく、ここは援護に回ってくれ。自分の命を最優先するんだ」
「分かりました!」
ここは彼らと共闘しようと思う。
良い経験になるし、どうせ今後も死闘に身を投じていく運命にある。
強い魔族と戦う機会など滅多にない。
今のうちに知っておくのは悪くないだろう。
俺の指示に対し、勇者達はそれぞれの武器を構えた。
そうして三人で連携を確認し始める。
怖気づいた雰囲気は消え去っていた。
(未熟でも勇者というわけだな。適性があるから、異世界に召喚されたのだろう)
召喚される勇者はランダムだが、適性のある人間しか選ばれないという話があった。
実際、逆行前の彼らは英雄になった。
最終決戦までに戦死してしまったが、立派な勇者ばかりである。
俺自身も単独で魔族を虐殺するだけの力量を持っていた。
召喚魔術は、英雄に足る存在を運命的に引き寄せるのかもしれない。
俺はトゥワイスを回転させつつ、瓦礫を蹴散らして現れたガルナディアスを一瞥する。
そして、背後の勇者達を声をかけた。
「よし、行くぞ」
「はい!」
俺は疾走して、一目散にガルナディアスのもとへ向かう。
城の屋根を伝いながらリリーも追走していた。
少し遅れてモアナも動いていた。
二人の火力は侮れない。
加えて俺の戦いに合わせることにも慣れている。
そこに勇者達が加勢するのだ。
選定した武器は進化前でも高性能である。
十分に活躍を期待できるはずだった。
(やれるぞ。このまま押し切ってやる)
俺はガルナディアスに斬りかかる。
瘴気塗れの腕に食い止められるが、刃に魔力を通して強引に切断した。
「カァッ!」
ガルナディアスが俺の頭に噛み付こうとする。
そこにリリーの氷魔術が炸裂し、顎を凍らせて攻撃を阻害した。
さらにモアナが背後からラッシュを叩き込む。
おそらく背骨を粉砕されたガルナディアスは叫びながら膝をついた。
遅れて到着した三人の勇者は、遠距離から魔力の光弾を当てて攻撃する。
それは王城での特訓で習う基本技だった。
威力は低く、上達させても精度は向上しない。
いずれ使わなくなる技である。
しかし、現状においては最適解だった。
彼らは不用意に近付かず、自分達のできる最大限の貢献をしていた。
些細な攻撃でも、ガルナディアスの意識を分散させることができる。
今はそれでいい。
強くなれば己が主体となって戦うことになるのだから。




