第77話 勇者は信念を通す
ガルナディアスが城から墜落した。
回転しながら中庭に激突する。
たまたまそこにいた兵士達は騒然としていた。
彼らは身構えて警戒する。
「……不味いな」
警告しようとした矢先、ガルナディアスの腕が伸びて、兵士達を瞬殺した。
そして、彼らの血肉を吸収していく。
ガルナディアスの皮膚がぼこぼこと脈動した。
悲鳴を上げる兵士を完全に取り込んで傷を癒す。
「やりやがったな」
魔族は生物を取り込んで回復できる。
一時的に力も跳ね上がるが、代償として肉体が不安定になって理性も飛ぶ。
早い話、本当に怪物のようになってしまうのだ。
だから魔族達からすると最終手段に近い技であった。
追い詰められたガルナディアスは発動を決意したらしい。
そこまでしなければ敵わないと悟ったのだ。
俺は頭上から銃撃を加える。
ガルナディアスは片手を掲げてガードした。
弾丸は不自然に膨れ上がった腕にめり込み、血肉を破裂させるも貫通には至らない。
銃創は煙を噴き上げながら高速で再生した。
その間もガルナディアスは残る兵士の捕食に勤しむ。
リリーやモアナが救出に行く素振りを見せるも、俺はそれを止めた。
あれは怪物化の種が発芽した時と似た状態だ。
下手に触れると大爆発するし、そうでなくとも近付けば捕食される恐れがある。
やはり安定するまで待った方がいい。
そうして中庭の兵士が全滅した頃、ガルナディアスの体躯は数倍にまで巨大化していた。
明らかに取り込んだ兵士の量より膨らんでいる。
魔力と瘴気の濃度も高く、無策で接近すればそれだけで悪影響を受けかねない。
「グゥルォオオオアアアアァ……」
ガルナディアスは低い唸り声を発する。
やはり理性が飛んでいる。
体表がどろどろに融解しているのは、自らの発する熱に耐えられないからだ。
再生能力が働いているのでそのまま自滅することはないが、相当な苦しみに違いない。
それがまた理性の破壊に繋がっているのだった。
肉体の再生と破壊の繰り返し、精神に異常を来たす。
逆行前の旅でも、そういった存在を何度か見てきた。
(面倒だが……まあ予想の範疇だ)
俺は異形と化したガルナディアスを冷徹に観察する。
あの状態になった時点で奴の破滅は確定した。
やがて肉体が自壊を開始するためだ。
ただし、それまで王都の被害が広がってしまう。
なるべく早く倒すに越したことはない。
これまでとやることは同じだった。
仲間達と連携しながらガルナディアスに攻撃を繰り返す。
強烈なダメージほど自壊を促せる。
(そういえば逆行後に魔族を倒すのは初めてだったな)
今後にも繋がる大事な局面だ。
しっかりと決めなくては。




