第74話 勇者は戦況を俯瞰する
言い終えながら発砲した。
強烈な銃撃に対し、ガルナディアスが取ったのは防御だ。
魔術の障壁を展開して弾丸を食い止める。
今度は貫くことはできなかった。
ガルナディアスの術はそれだけ強力なのだ。
予め用意されていると突破は困難であった。
(しかし、やれないことはない)
俺はガルナディアスが動く前に突進すると、距離を詰めて斬りかかる。
双剣が障壁を切り裂いて抜けた。
ガルナディアスは飛び退いて回避する。
防御が破られると察知したのだ。
奴は後ろに下がりながら魔術を連射していった。
瘴気を伴う黒い火球が俺を狙って拡散する。
(直撃すると不味いな)
俺は火球の軌道を見極めると、双剣で切り裂きながら前進する。
霧散したエネルギーは上手く操作して吸収した。
(冷静に考えろ。焦ってはいけない)
単純な肉体スペックではガルナディアスが圧勝している。
魔力も瘴気も向こうの方が多い。
トゥワイスのパワーは大したものだが、魔王軍幹部と比較した場合、飛び抜けて強いわけではなかった。
真っ向からの力勝負になると俺が負ける。
先にガス欠になって終わりだ。
だから可能な範囲で正気や魔力を補充しなければならない。
いくら逆行前の知識がある言っても、現在の俺のスペックは序盤の勇者のものだ。
正攻法で相手を討ち取れると考えない方がいい。
意地汚くなってもやり遂げるのだ。
「チッ、小癪な」
ガルナディアスは、俺が瘴気を吸っていることに気付いたらしい。
火球の迎撃を中断すると、壁を粉砕して城外へ逃げた。
そのまま羽を使って上昇しうていく。
狭い室内で戦うのは分が悪いと判断したらしい。
真っ当な流れだ。
魔術師タイプのガルナディアスにとって、双剣が当たる間合いは苦手なのだ。
俺の戦闘スタイルも鑑みて、銃撃だけに絞らせる方がいいと考えたのだろう。
「逃がすかよ」
俺は壁の穴から外を見上げる。
足の裏に魔力を集中させて、蹴り上げるようにして疑似的に飛行した。
それを連続させてガルナディアスを追跡する。
(魔力の消耗がやや激しい。なるべく短期決戦に持ち込みたいところだ)
ガルナディアスは城の尖塔に着地していた。
俺を見下ろしながら高笑いする。
「矮小な人間風情が! 自らの無力さを知るがよいッ!」
ガルナディアスの杖から瘴気の雨が放たれた。
どろどろに液状化したそれは相当な濃度だ。
周囲を淀ませるほどの瘴気が込められている。
吸収しようとすれば肉体が内側から蝕まれるだろう。
かと言って雨のような密度では回避も難しい。
俺のエネルギーになることを嫌った上での行動だった。
「やるじゃないか。さすがは魔族だ」
俺はトゥワイスを構える。
そして、残弾数を意識しながら頭上に向けて発砲した。




