第72話 勇者は正体を暴く
ガディアスの変容が加速した。
大きくなった体躯に加えて、肌が紫色になっていく。
さらに細かく隆起しながら硬質化した。
鷲鼻が膨らんで曲がり、瞼がめくれて眼球が前にせり出す。
虹彩は濁った黄色となって、瞳は縦に割れて俺を見下ろしてきた。
サイズが合わなくなったローブが引き裂けるも、残片が身体の各所に張り付いている。
それが草のように伸びて巨大な体躯を包んでいった。
闇の色も混ざって禍々しい外套の形を取る。
変貌が終わった時、そこに立っていたのは一体の魔族だった。
背中の羽が大きく上下する。
感じられる魔力と瘴気の量が半端でない。
常人ならば対峙するだけで気絶するほどの濃度だ。
俺でも気を抜けば悪影響を及ぼされかねない。
猫背気味の曲がった腰で執務室の机を蹴散らし、忌々しそうに俺を睨み付けてきた。
「どこで正体を知ったかしらぬが、貴様はもう終わりだ。少々強い程度で自惚れおって……」
「自惚れていない。客観的に実力を見て、それに相応しい行動を取っているさ」
「我が何者かも分かっていない癖に、よくも大口を叩けるものだ。大方、ただの上級魔族とでも思っているのだろうが――」
「魔王軍幹部の魔将軍ガルナディアス。呪術の第一人者で、王国の宰相として長年に渡って潜伏してきた。魔王復活までに怪物化の種を蔓延させて、人質を取ると同時に疑心暗鬼を生み出すのが目的。異界から召喚した勇者の魂を集めて、復活した魔王の強化に使おうとしている……これで十分か? 必要ならもっと情報を出すが
俺は逆行前の記憶を披露した。
こいつのことはよく知っている。
王国内部の陰謀で何度も妨害を受けたからだ。
多大な犠牲を強いられたし、敗北した回数で言えばこいつがトップだろう。
ある意味では因縁の相手である。
俺の暴露を聞いた宰相ガディアス――否、魔将軍ガルナディアスは狼狽する。
驚愕を隠せずに詰め寄ってきた。
「き、貴様……本当に何なのだ!? どこまで知っているッ! 我が誰にも話していないことも含まれておるではないか!」
「企業秘密だ」
俺はガルナディアスの言葉を一蹴すると、トゥワイスの照準を奴の顔面に向けた。
そして魔力を流しながら呼びかける。
「トゥワイス、全力全開だ。容赦なく撃ち殺すぞ」
「Oh yes……That's a good idea!」
二丁拳銃の相棒は、威勢よく答えるのであった。




