第71話 勇者は危険を察知する
ガディアスが大きく震える。
彼はよろめいて机にぶつかりながら俺を指差した。
「用件を済ませたら早く立ち去れ。貴様は疫病神だ。この国をいたずらに揺らす愚者なのだ!」
「言いたい放題だな。こっちの気持ちも考えてくれよ」
俺は7軽く応じつつも観察する。
ガディアスの魔力が急激に上昇していた。
既に人間の領域を超えている。
そこに邪悪な力も混ざり始めていた。
魔視のゴーグルを使えば、さぞ面白い反応が見られるだろうが、もはや確認するまでもない。
(頭に血が上っているな。ヤバそうだ)
ガディアスはいつ暴れ出してもおかしくない。
俺は室内で困惑する文官に忠告する。
「今すぐに避難しろ。巻き添えになるぞ」
文官達は互いに顔を見合わせて、そろそろと部屋の外へ出て行った。
ガディアスの尋常ならざる雰囲気に何かを感じ取ったのだろう。
「モアナ。離れていてくれ」
「……死なないでね」
「ああ、もちろん。魔王を殺すまで一度だって負けないさ」
俺が断言すると、モアナも部屋の外に退避した。
彼女なら安全な場所まで逃げてくれる。
もし何かあっても、最低限の自衛はできるはずだ。
俺はトゥワイスを引き抜き、両手でスピンさせてからガディアスに向ける。
弾は残らず装填してある。
調子は上々であった。
いつでもぶち抜くことができる。
俺は体内の魔力を研ぎ澄ませながらガディアスに告げる。
「ようやく二人きりになれたな」
「貴様……まさか気付いているのか?」
「何も知らずに宰相に会いに来るかよ。すべてお見通しだ」
俺には逆行前の記憶があった。
こいつの正体や陰謀は把握している。
王都を訪れたメインの目的は、他の勇者の動向を探るためだ。
ただ、宰相ガディアスへの対処も視野に入れていた。
どの時期に敵対するか悩んだ結果、こいつの様子を見て今にしたのである。
ガディアスは暫し沈黙する。
やがて片手に杖を携えながら唸った。
肉体から発せられる爆発的な憎悪と魔力が沈静化を見せる。
能力的な上限に達したのではなく、理性を取り戻したのだろう。
ガディアスは自分の身体を見下ろして首を傾げる。
「奇怪だ。擬態は完璧なはずだが」
「人生なんてそういうものだ。諦めな」
「――よかろう。貴様はここで屠る。野放しにしておくには危険すぎるようだ」
ガディアスは不敵な笑みを見せる。
直後、その肉体が変異を始めた。
張り詰めた身体が肥大化し、本来の姿へと進化していく。




