第70話 勇者は宰相に会いに行く
俺は国王の諦めを感じ取った。
不在の間に色々と葛藤等があったのかもしれない。
少なくとも俺をコントロールするという考えはなくなった様子だ。
「繰り返すが俺の目的は魔王討伐だ。邪魔をしないでくれ」
「分かっておる。好きにしてくれ」
国王は若干投げやりに答えた。
早く出て行ってほしそうである。
まさしく厄介者のような扱いだった。
国王にとって、制御できない勇者は迷惑なのだろう。
俺も無駄話をしたいとは思っていないので、さっさと本題を済ませようと思う。
「ところでガディアスはどこだ?」
「この時間なら執務室にいると思うが……」
「分かった」
俺はモアナにアイコンタクトを送り、二人で国王の私室を出た。
国王は想像以上の小物だ。
逆行前から大物感はなかったが、ここまで情けなかっただろうか。
少なくとも表面上は取り繕っていたはずだ。
それが剥がれ切っている。
よほど俺の行動がショッキングだったらしい。
ストレスにでもなっているのかもしれない。
まあ、それに罪悪感は覚えない。
俺はやるべきことをこなすだけだ。
国王が心労に苛まれようと知ったことではなかった。
俺とモアナは再び城内を移動する。
今度は密偵の監視もない。
これ以上の犠牲は出さないように気を付けているようだ。
監視したところで意味がないと悟ったのだろう。
「次は宰相さんのところに行くの?」
「ああ。ちょっと話をしないといけなくてね。戦闘になるだろうから覚悟だけしてくれ。いざとなったら退避するんだ」
俺はモアナに警告する。
今日はなるべく穏便に進めたい。
荒事は後日に回したいところだが、向こうの性格からして困難だろう。
ならばいつでも戦えるように意識しておいた方がいい。
モアナは俺の警告に驚くも、詳しい事情は聞かずに承諾してくれた。
彼女は空気が読める。
気を張らねばならない場面だと理解したらしい。
逆行前と比べて若いが、肝は相応に据わっているようだ。
執務室に到着した俺達は、ノックもせずに扉を開ける。
「宰相ガディアスはいるか」
「……勇者。何の用だ」
机の並ぶ室内の奥で、ガディアスが立ち上がった。
隠すつもりのない敵意が俺達に刺さる。
ひりつくような感覚が混ざっているのは、視線に殺気が含まれているからだ。
俺はその威圧をいなして返答する。
「経過報告と、他の勇者の動向を訊きに来ただけだ。俺はこの国で召喚されたのだから、別におかしくないだろう」
「…………」
ガディアスは無言でこちらに近付いてくる。
周囲の文官が慄く中、彼の気配が明確に変容しつつあった。




