第7話 勇者は底力を見せる
熊は凄まじい咆哮を上げて、四足歩行で突進してくる。
こちらを敵と認識したらしい。
急加速は身体強化によるものだろう。
この魔物は、本能的に発動できるのだ。
熊の噛み付きに対し、俺はギリギリで飛び退いて対処した。
その鼻先に肘打ちをねじ込む。
熊は嫌がるように首を振ると、今度は片手で引っ掻いて来ようとしてきた。
俺はそれも回避した。
潜り抜けるようにして左の拳銃を向けて、魔力で強化しながら発砲する。
弾丸は熊の顔面にめり込むも、そこまでだった。
蒼い毛に威力を削がれたのだ。
僅かに出血する程度で、致命傷とは程遠い。
(打撃どころか魔弾すら通らないか)
連続して迫る腕を避けながら俺は観察する。
幸いにも攻撃パターンは単純なので、狭い洞窟内でも回避は簡単だった。
身体強化に回す魔力が残っている限り、俺が傷を負うことはない。
問題は熊の防御力だ。
エリア最強の評判は伊達ではない。
熊が強引な突進を仕掛けてきた。
俺は腕を交差してガードする。
頭突きを受けるが、自分から飛び退くことで衝撃を緩和した。
普通に防御すれば骨が折れていただろう。
(さて、どうする?)
俺は地面を滑りながら熊と対峙する。
豪快な圧し掛かりを、すれ違うように転がって避けた。
その間に距離を取る。
身体を反転させた熊は、低く唸りながら俺を威嚇してきた。
なかなか殺せない獲物を相手に苛立っているようだった。
(残りは一発。温存なしでぶち込むしかないなッ!)
どのみち選択肢は限られていた。
リロードする余裕はないのだ。
すなわち次の一発にすべてを懸ける。
俺は大地を蹴って疾走すると、右の拳銃にありったけの魔力を注いでいく。
銃身が赤熱して今にも暴発しそうだった。
それを魔力のコントロールで無理やり抑え込み、さらに魔力を継ぎ足していく。
熊は俺の接近に合わせて爪を振るってきた。
紙一重で身を沈めて躱す。
頬が切られたが浅い。
そのまま減速することなく懐に飛び込んだ。
「口を開けろよ」
俺の言葉に合わせて、熊が咆哮を上げようとする。
その口に拳銃を突っ込んだ。
口内ならば蒼い毛による防御など関係ない。
限界寸前まで込められた魔力を解放するように、引き金に力を込めた。
洞窟全体に届く爆発音。
全身全霊の銃撃は、熊の口内を貫通した。
喉奥から一直線に破壊すると、背中を粉砕して飛び出していった。