第69話 勇者は王に問う
俺達は数分ほどかけて城内を移動し、密偵に監視されながらも一つの部屋に辿り着く。
そこは王城の中でも入り組んだ先にある部屋だった。
やけに豪華な扉には、何重にも魔術の防御が施されている。
専用の鍵を使わなければ開かないようになっているのだ。
しかも、下手に触れれば呪いが返ってくる仕組みまであった。
かなり厳重な造りだ。
よほど誰も立ち入らせたくないのだろう。
モアナは扉を眺めながら不思議そうな顔をする。
「ここはどこなの?」
「国王の部屋だ」
俺は答えながらトゥワイスを構えた。
狙いを扉に定めて、ゆっくりと引き金に指をかける。
「Here we go!」
トゥワイスの声と共に連射した。
強化された銃弾は、いとも簡単に扉を破壊する。
仕掛けられていた術もまとめて粉砕した。
いくら厳重と言っても、選定された勇者の武器に耐えられる設計ではない。
これでも手加減はしているのだ。
もし今のスペックで本気でぶっ放せば、部屋ごと消し飛んでいるだろう。
俺とモアナは遠慮なく部屋に入る。
すると奥にいた部屋の主――国王が腰を抜かしてこちらを見た。
「き、貴様っ!?」
「久しぶり……でもないな。調子はどうだ、国王」
このやり取りの間に密偵が奇襲を仕掛けてくるも、トゥワイスの殴打で迎撃した。
計五人を薙ぎ倒して俺はさらに進む。
もはや俺の戦闘能力は、並の人間には止められない領域となっていた。
やはりまだ全盛期とは比較にならない弱さだが、それでも常人からすれば怪物クラスである。
元から密偵の存在には気付いていたのだから、そもそも奇襲自体が成り立っていない。
国王は狼狽した様子で短剣を握り、その切っ先を俺に向けてくる。
しかしその手は小刻みに震えていた。
「何の用だ。我は何もしておらぬぞ」
「城下街で騎士団に止められた。あれは誰の命令だ」
「我ではない。騎士団長の独断でないとすれば、宰相のガディアスになると思うが……」
その答えは予想通りだった。
別の人間が動いていたらどうしようかと思ったが、俺の考えが的中していたことを確信する。
「すまぬ。詳しいことは知らぬが、お主に敵対するつもりはない。ここは穏便に済ませてほしい」
「妙に大人しいな。どうしたんだ」
「……お主の功績は聞いておる。とても敵わないことを知っておるのだ」
おそらくは宝石竜の一件だろう。
王国の密偵は、俺の動向を調査していたのだ。
怪物化した領主の話も聞いているかもしれない。
調査能力によっては、あの出来事を把握している可能性は高い。
単独で怪物化した人間や竜を倒せる人間は皆無だ。
国王はそれを理解しているからこそ、弱腰になるしかなかったのだった。




