第67話 勇者は城内を散策する
俺とモアナは王城に到着した。
いつ来ても荘厳な佇まいで、訪れた者を威圧するような外観である。
ただ、生憎とそれに惑わされる俺ではない。
呆けているモアナの手を引いて門を抜けた。
「勝手に入っていいの?」
「構わないさ。もし問題があれば、誰かが止めようとするはずだ」
そう言いながら門兵を一瞥する。
門兵は苦々しい顔をそらすだけで接触してこない。
立場的に下手なことが言えないのだ。
俺の出入りも黙認するように指示を受けているのだろう。
仮に止められたところで無理にでも入るつもりだったので、手間が省けて良かった。
俺達は遠慮なく城内を散策する。
モアナはあちこちを興味深そうに眺めては、新鮮なリアクションを見せた。
「お城って広いね。迷っちゃいそう」
「城内の複雑な構造は、侵入者を迷わせる狙いがあるらしい。隠された部屋や通路もたくさんあるんだ」
説明しながら、俺は魔力探知を発動する。
壁や天井の裏に複数の気配が潜んでいるのが分かった。
俺達を監視しているようだ。
(やはり見張られているな)
おそらくは国王直属の密偵だろう。
こちらの動向を常にチェックし、怪しげな動きをしていないか確かめているのだろう。
そうとも知らずに、モアナは廊下に飾られた斧に夢中である。
「この魔術武器、すごい凝ってるね……! 多重の術式で効果を高めてるよ」
「あとでじっくり見せてもらえるように頼もうか」
「やった! ありがとうっ」
モアナは大喜びだ。
彼女はなんとも能天気である。
ひりつく城の人間とは対照的に、城内散策を遠足か何かのように満喫していた。
珍しい物ばかりで楽しいのだろうが、漂う緊張感など気にならないのか。
モアナの強さに気付かされつつ、俺は探知範囲を広げていく。
そのうちリリーらしき希薄な気配を発見した。
気配は遥か下方から感じる。
(リリーは地下を調査しているのか)
本来は存在しないはずのフロアだ。
彼女は城内の深部まで探り抜いているらしい。
その勤勉さと有能さには驚かされる。
徹底した仕事ぶりには、文句のつけようがない。
実際、彼女が潜入した状態でありながら、他の密偵が騒ぐ様子はない。
リリーは未だ見つかっていないのだ。
いくら俺とモアナがカモフラージュになっているとはいえ、凄まじい隠密能力である。
元密偵のスペックに感心していると、前方の曲がり角を曲がって一人の少女が現れた。
俺と少女は目が合ったと同時に声を出す。
「おっ」
「あ……」
目の前に立つのは、俺と同じタイミングで召喚された勇者の一人だった。




