第66話 勇者は使命を自認する
「まったく、一触即発だったな」
俺は後方の騎士達を一瞥する。
彼らはまだ俺達を睨んでいた。
敵意に近い感情を抱いているようだ。
ただ、攻撃してこないのは確信していた。
さすがにそこまで馬鹿ではない。
俺を怒らせてはいけないのは分かっているはずなので、煮え切らない気持ちを抱いているだけだ。
騎士達にとっては難しい任務だったろう。
俺と敵対せず、脅しながら尋問をしなければいけないのだから。
しかし命令には逆らえないので苦労する立場だと思う。
モアナは不思議そうに俺と騎士達を交互に見る。
「いつもと違って強気だったね。優しく言ってあげてもよかったんじゃないの?」
「弱気でいると、向こうが調子に乗ってしまうからだ。しっかりと互いの立場を知らしめないといけない。これを徹底しないと、思わぬ場面で妨害されるからね」
周囲からの評価や印象など関係ない。
やるべきことをやるだけだ。
騎士達からは恨まれる結果になったろうが、舐められるよりマシである。
脅威として認識されている方が、彼らも下手な行動には出られない。
俺自身も犯罪には手を染めていないので、騎士達に従う義理もないのだ。
(最も高潔な英雄が世界を救うわけではない。時には泥を被ってでも遂行しなければいけないことがある)
極論、世界さえ救うことができれば、悪党と呼ばれても構わなかった。
そのくらいの覚悟で望んでいる。
地位も名誉も必要ない。
逆行前はチヤホヤされたかったし、大金持ちになりたかった。
いつの間にかそういった欲求も消え失せた。
今の俺は、魔王討伐だけを望む機械に等しい。
目的だけを見据えて人生をやり直している。
俺は隣を歩くリリーに囁く。
「少し頼みがある」
「何ですか」
「王城で勇者について調査してほしい。選定した武器や、今後の予定が分かるとありがたい」
「分かりました」
リリーなら色々と調べてくれるだろう。
俺達が表立って行動しつつ、裏は彼女に任せれば効率的だ。
俺はさっそく立ち去ろうとする彼女に忠告する。
「それと要注意人物がいる。そいつには近付かないでくれ」
耳打ちでその人物の名を告げると、リリーが困惑した。
「……なぜですか」
「理由はいずれ分かる。とにかく、その人物から距離を取るようにしてくれ。調査が滞ってもいいから、まずは身の安全を優先してほしい」
「了解しました」
頷いたリリーは今度こそ消えた。
気配を薄めて城に潜入しに行ったようだ。
彼女なら厳重な警備でも突破できる。
俺がわざわざ動くこともない。
本当にありがたい仲間であった。
(これで情報収集はスムーズに進みそうだな)
リリーのいなくなった先を眺めていると、モアナが肩を叩いてきた。
彼女は期待に目を輝かせて尋ねてくる。
「ねぇねぇ、あたしは何をしたらいい!?」
「……とりあえず、怪しいことがあれば報告してほしい。先入観のない立場からの感想を聞きたい」
「分かった! 任せてっ!」
別にあえて頼むほどではないが、モアナはやる気満々だ。
形だけでも指示しておいた方がいいだろう。




