第65話 勇者は問答を済ませる
代表らしき騎士が険しい顔で声を発した。
言わずもがな、俺達に向けられた言葉である。
「止まれ」
有無を言わさない口調だった。
敵意すら感じられるほどの気迫が込められている。
俺達はその声に従って足を止めた。
騎士達との距離は十メートルほどだ。
身体強化持ちなら一瞬で詰められる間合いであり、トゥワイスの早撃ちも可能だった。
もっとも、今回は戦う気などない。
そんなことをすれば、たくさんの犠牲が出てしまう。
別に騎士達を殺す理由がない以上、避けるべき展開だろう。
俺は敵意がないことを示しながら尋ねる。
「何か用か」
「それはこちらの台詞だ。何の目的で王都に来た?」
「他の勇者と会いたくなった。数少ない同郷の人間なんだ。それくらい不思議ではないだろう」
「戯れ言を……早く目的を言え!」
騎士が苛立った様子で問いただしてくる。
なんとも失礼な態度だ。
俺は穏便に済ませようとしているのに、向こうにその気はない。
(埒が明かないな。よほど警戒されているらしい)
以前、王都で一悶着を起こした際はしっかりと念押ししたはずだ。
次に訪れた時に面倒事が起きないようにという配慮で、それでも多少の反発は覚悟していた。
しかし、この雰囲気は予想より深刻である。
俺の脅威度が誇張されている印象があった。
(一体、誰の仕業だ?)
騎士達に誰かが命令して、ここに集結させたはずだ。
独断で踏み切ったとは考えにくい。
シンプルに考えるなら国王だろうが、さすがにそこまで愚かだろうか。
自分の命も関わってくるので、軽率に命じないと思う。
(いや、今は犯人捜しをしている場合ではない。さっさと終わらせるか)
ここで言い合いをしても意味がなかった。
互いに損を被ることになる。
だから俺は、代表の騎士に向かって脅しをかけることにした。
「俺を止める権限があって邪魔しているんだな? 代表者の名前と階級を教えてくれ。国王に確認してくる」
「……くっ」
騎士はそれだけで怯む。
名乗ろうとしないのは、リスクを負いたくない想いからだろう。
それだけの覚悟がないのだ。
他の騎士にも戸惑いが広がっていた。
攻撃の構えにも躊躇が見える。
敵意が霧散し、代わりに怯えや恐怖が感じられた。
俺はリリーとモアナを促して前進する。
咄嗟に避ける騎士達の間を進んで抜けた。
その際、代表の騎士が捨て台詞を洩らす。
「高慢になっていられるのも今のうちだぞ」
「どうだろうな。俺はいつでも謙虚に生きている」
目と目が合う。
騎士は怒気に近いものを湛えていたが、実際に仕掛けてくることはない。
さすがに実力差を理解しているらしい。
ここで襲いかかったところで、返り討ちに遭うのは目に見えているのだ。
俺達は悔しそうな騎士達を置いて王都の通りを進むのだった。




