第64話 勇者は王都に再来する
それから俺達は数日をかけて移動し、特に寄り道することなく王都に到着する。
途中で怪物化の種を飲んだ人間と遭遇するかと思ったが、期待とは裏腹にそういった問題はなかった。
魔族が襲いかかってくるということもなかった。
(向こうは必ず俺の存在を知っているはずだ)
ここまでの一連の行動は、魔族側に少なからず打撃を与えている。
魔視のゴーグルも入手したことで、積極的に種の根絶に動いていた。
宝石竜を倒したことも知られているなら、純粋な戦闘能力も脅威だと認識されているだろう。
放っておけない存在だと思われているはずだ。
それでも音沙汰がないのは、おそらく何らかの準備期間なのだろう。
嵐の前の静けさという奴である。
馬車に乗る俺達は、遠くに見える街並みを望む。
一見すると平穏そのものだが、数年後には魔族との戦場となる。
壊滅までは至らないものの、大きな損害を負うことを俺は知っている。
「久々の王都だな」
俺が呑気に呟く横で、リリーは真剣な顔をしていた。
しきりに馬車の周囲を睨んでいる。
隠密系統の魔術で潜む人間を察知したのだろう。
「……やはり監視されていますね」
「どこかで情報を掴んだのだろうな。予想はできていた」
俺に注目するのは魔族だけではない。
王国側も動向を気にしている。
敵対しているかはグレーなところだが、向こうからすれば、あまり面白くない存在には違いなかった。
有用な力を持ちながらも、一切の命令を聞こうとしない。
国の威信にまで影響が出てきたら、暗殺くらいは決行しそうだ。
馬車は開放された門から王都内へと入る。
にぎやかな大通りを進んでいく。
モアナは目をキラキラと輝かせてその光景に興奮していた。
「すごいね! 人がいっぱいだ……!」
「これでも少ないくらいだ。時期によってはさらに増えるだろう」
「そうなんだ!」
しばらく進んでいくと前方が騒然となってきた。
見れば通りを騎士団が封鎖している。
視線はこちらの馬車に集中していた。
明らかに俺達を待ち構えている。
一部は弓や杖を構えており、いつでも攻撃可能な状態だった。
街の人々はその付近を避けるように往来している。
「この辺りで降りよう。さすがに迷惑だ」
俺は二人に告げると、不安そうな顔の御者に金を渡して馬車を降りた。
そして騎士団のもとへ堂々と歩み寄っていく。




