第62話 勇者は舞い戻る
翌日、俺達は商業都市イェグルを出発した。
都市内は謎の通り魔の噂でもちきりになっている。
種を破壊された人間が被害を訴えたのだ。
合計で二十人くらいは撃ち抜いたので、話題になるのも仕方ない。
とは言え、俺達の行動は怪物化を防ぐためだ。
罪悪感はなく、むしろ感謝してほしいくらいであった。
ついでに魔族の所在も調査したが、特に有力な情報は手に入らなかった。
少なくともイェグル内に魔族は潜伏していないようだ。
魔視のゴーグルを使って念入りに調べたものの、痕跡一つとして見つからなかったので確定した。
種は別の場所で仕込まれたと考えるのが自然だろう。
飲んだ人間に共通点はなかったので、それぞれが別件で種を入手した可能性も高い。
世界ではあちこちで魔族が暗躍している。
かなり慎重に動いている個体が多く、陰謀を完璧に阻止するのは困難だった。
こうしている間にも、また別の人間が種を飲んでいるはずだ。
俺にとって種の根絶が目的ではない。
できる範囲で破壊するが、そこに固執すると行動指針がぶれてしまう。
あくまでも魔王討伐が最終目的であった。
そこに繋がるように動かねばならない。
俺は決して全知全能ではないのだ。
その辺りを履き違えずに決断する必要があった。
使命と責務と鑑みて活躍しようと思う。
イェグルを出発した俺達は、乗合馬車で移動する。
他に客のいない馬車を占拠して、揺られながら街道を進んでいく。
次の行き先は王都だ。
王国の中心部であり、勇者として召喚された地だった。
窓の景色を眺めるモアナは嬉しそうに笑う。
「あたし、王都に行くのって初めて! やっぱり都会なの?」
「そうだな。よく発展している印象だ。色んな店もあって生活に困らない」
「いいなぁ。到着するのが楽しみだね」
「言っておくが、観光目的ではないからな。あくまでも勇者の動向確認がメインだ」
俺がやんわりと注意すると、モアナは力強く応じる。
「もちろん分かってるよ! 迷惑にならないように気を付ける!」
「それなら大丈夫だ」
モアナには天真爛漫な一面があるが、しっかりと物事を考えている。
自らの役割も弁えており、トゥワイスを定期的にメンテナンスしてくれていた。
選定した武器なのでそう簡単には故障しないが、そこだけは欠かさず実施している。
今はまだ若いものの、モアナは将来的に一流の鍛冶師になる逸材だ。
近々、トゥワイスの改良もしてくれるそうなので楽しみにしている。
きっとさらに性能を上げてくれることだろう。




