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第6話 勇者は強敵に挑む

 歩いて進むこと暫し。

 俺は森の中にある洞窟の前にいた。


 この先から強烈な魔力反応を感じる。

 目当ての獲物の住処であった。

 周囲の魔物とは比較にならない相手だ。


 身体が震えるのは生存本能であった。

 意志の力で捻じ伏せなければ、恐怖で逃げ出しそうになる。


 戦いには慣れているので精神的にはまったく問題ない。

 しかし、肉体は無意識に身を守ろうとしているのだ。


(まったく、困ったものだな)


 俺は苦笑する。


 魔王討伐の旅も終盤に差し掛かると、そういった部分が麻痺していた。

 人間以外を殺戮するマシンに成り果てていたのだ。

 だから、こうして人間らしい反応ができるのは少し嬉しかった。

 どうせ震えることができるのも今のうちである。


「よし、行くか」


 俺は洞窟の中に踏み込む。

 魔力で強化した両目は、明かりがなくとも先まで見通していた。

 二つの拳銃を握って進んでいく。


 洞窟内には動物の骨らしき物が散乱していた。

 ここの魔物が食事をした痕跡だ。

 半殺しにした獲物を住処まで持ち帰る習性がある。


(懐かしいな……)


 ここの魔物は、逆行前に倒したことがある。

 王城で訓練をしていた頃、実力試しとして挑むことになったのだ。

 あの時は五人の勇者で対決した。


 結果として勝利できたが、こちらの損害もかなりのものであった。

 犠牲者が出ずに生還できたのは幸運に近かっただろう。

 そんな強敵に今から挑もうとしている。


(純粋なパワーでは負けている。工夫の見せどころだな)


 俺は不敵に笑いながら拳銃を回す。


 件の魔物は、縄張りから出ない臆病者だ。

 ただし縄張りに踏み込むと、どこまでも追いかけてくる。

 この森ではトップクラスの身体能力を誇り、長年に渡って食物連鎖の頂点に君臨してきたモンスターだった。

 油断してかかると痛い目を見る。


(まあ、化け物具合で言えば俺も同類だがね)


 俺は双剣の勇者だった男だ。

 単独で魔族を虐殺した経験がある。

 あの時代で唯一、魔王との直接対決にまで漕ぎ着けたのだ。

 いくら弱体化したと言っても、森の魔物に敵わないはずがない。


 実際、剣で殺すのは簡単だった。

 身体強化を使用し、打ち込まれる攻撃を躱しながら、急所を的確に切り裂くだけだ。

 しかし、それではただの剣士である。

 何の鍛練にもならない。


 だから今回は二丁拳銃で始末するつもりだった。

 せっかく選定したのだ。

 しっかりと戦闘スタイルを確立していきたい。


 もちろん、現在の構造では戦闘中の再装填は不可能だ。

 つまり二発で仕留めなければならない。

 かなりの縛りになるが、なんとかなるだろう。


 黙々と進んでいくと、鼻を貫くような獣臭が強くなってきた。

 俺は顔を顰めながら前進する。

 そして、ついには相手を発見した。


 暗闇に座るそいつは、痙攣する鹿を齧る最中だった。

 逞しい両腕で押さえ込み、顔を近付けて豪快に噛み千切っている。

 そして血を垂らしながら咀嚼していた。

 捕えた獲物を己の糧としている。


 洞窟内に座り込んで捕食をするのは、蒼い毛の熊であった。

 見上げんばかりの巨躯は、体長は三メートルを超える。

 膨大な魔力を帯びており、それが天然の鎧と化していた。

 ただでさえ強靭な肉体にさらなる防御力を与えている。


 鹿を掴む膂力も脅威だ。

 ただ腕を振るだけで岩をも砕くパワーがある。

 直撃すれば死にかねない。


「よう、食事中に悪いな」


 俺は親しげに声をかけながら近寄る。

 拳銃の射程は短い。

 もっと近寄らなければ有効打になり得ないのだ。


 たった二発。

 それでこいつを仕留める。


 ここで剣を使うようでは魔王を超えることなんてできない。

 一度決めた以上、絶対にやり遂げてみせる。

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