第58話 勇者は思わぬ収穫を得る
その後、俺達は街中を散策してみることにした。
種を持つ人間を探すのが目的である。
街を歩く途中、モアナが俺に質問した。
「これからは、いつもゴーグルを使っておくの?」
「いや、必要なタイミングを選ぶよ。道具に頼りすぎると、自分の感覚が鈍ってしまうからね」
この世界には様々なアイテムが存在する。
中には使用者の能力を大きく変貌させる物もあった。
ある意味では怪物化の種もその一つだろう。
とにかくそういうアイテムは便利には違いない。
ただし、同時に中毒性を抱えている。
所持しているだけで慢心を生んでしまいがちで、使用者の成長する機会を失わせる恐れがあった。
ゴーグルだってそうだ。
こいつがあれば様々な対象を切り替えながら視認できるが、自前の感知能力を鍛えることができない。
いざという時、真に頼れるのは自らの感覚なのだ。
出し惜しみは良くないが、頼りすぎないように意識するのも大切だろう。
そういったことを説明すると、モアナは目をキラキラと輝かせて笑う。
「色々考えているんだね!」
「それくらい徹底しないと勇者なんてやれないからな。できることには全力で取り組むさ」
俺が応じると、隣ではリリーが納得した様子で頷いていた。
彼女もどちらかと言うとそのタイプだ。
戦闘でも便利な武具を使うより、己の肉体を駆使している。
俺の考え方に共感できるものがあったのだろう。
こういうタイプは最終的に大成する。
早期に仲間にできたのは幸運と言う他ない。
それから俺達はイェグルのメインストリートを練り歩いていく。
ゴーグル越しの風景に異常はない。
「この辺りは大丈夫そう?」
「そうだな。特に怪しい反応はない」
「平和だね。イェグルには魔族が絡んでいないのかな」
「どうだろう。一体くらいは潜伏していそうなものだが……」
俺はあちこちを見回しながら会話をする。
種持ちの人間の近くには、魔族が隠れている可能性があった。
そちらも並行して見つけていきたい。
商業都市イェグルは様々な地域から人々が来訪する。
身分を偽って暮らすには恰好の場所である。
どこかの魔族が隠れ家にしていても不思議ではない。
(まあ、難しいか。いくら大都市とは言え、そう簡単には見つからないだろう)
散策を止めようとしたその時、視界の端に妙な歪みが発生する。
俺はすぐさまその歪みに注目した。
「……ビンゴか」
視線の先に、種を飲んだ人間が立っていた。




