第53話 勇者は再挑戦する
俺は手を打って注目を集める。
そして、双剣モードのトゥワイスを弄びながら宣言した。
「さて、宝石竜の死骸を運ぶぞ」
「でもこの大きさだよ。どうするの?」
「討伐証明になる部位だけ持ち帰る。その後、ここに財宝を残したことを富豪に伝えればいいだろう。誰も近寄らないから、横取りされることはまずない」
魔霧の谷は危険地帯だ。
よほどの命知らずでないと立ち入らない場所である。
俺達が立ち去ったところで、入れ違いで誰かがやってくるとは思えない。
それから俺は、双剣で宝石竜を解体した。
無事だった片目と割れた牙や爪、財宝の鱗をいくつか剥ぎ取る。
討伐証明としては十分だろう。
イェグルを支配する富豪ともなれば、それなりの鑑定眼を有するものだ。
これらが本物かどうかは見極められるに違いない。
残った死骸と財宝はリリーが氷漬けにしてくれた。
本人曰く、魔霧の影響で上手く発動できなかったらしいが、それでも十分すぎる成果である。
戦闘中ではなく、存分に集中できたのも大きいだろう。
彼女の魔術は強烈だ。
これならば誰も取り出せない。
おそらく誰も来ないだろうが、念のために処置しても損はない。
俺達は意気揚々と帰還を始めた。
特に何事もなく商業都市イェグルに到着し、その足で富豪の邸宅へと向かう。
途中、モアナが不安そうにぼやく。
「今度は追い返されないかなぁ……」
「大丈夫だ。これだけ用意すれば通してくれるはずだ。いざとなったら強引に突破して目的の機器を盗むさ」
俺が励ますように言うと、リリーがぼそりと指摘する。
「勇者ではなく盗賊ですね」
「手段を選ばないだけだ。倫理で世界平和は買えないからな」
今更、外道と言われたところで痛くも痒くもなかった。
やるべきことを全力でやるだけだ。
手を抜かずに遂行を目指せば、自然と問題に衝突する。
それがたまたま社会のルールだった。
しかしそんなことは関係ない。
俺は躊躇わずにやるつもりであった。
やがて富豪の邸宅前に戻ってくる。
当然、見張り達が反応して足止めしてきた。
「また貴様らか。何度来ても同じだ。帰れ」
「駄目だ。諦めないぞ。俺達にも目的があるんだ」
「それ以上は近付くな。攻撃することになる」
「やってみろ。俺には通用しない」
俺は殺気を振り撒きながら臆せずに前進する。
それだけで見張り達は敵対的な行動を取れなくなる。
進んだ分だけ離れていってしまった。
生存本能とは、最適解を知っているもの。
彼らは俺の前に立ちはだかれない。
堂々と闊歩する俺は、彼らの前に討伐証明を掲げるのだった。




