第52話 勇者は仲間に感謝する
力を失った宝石竜は、墜落して地面に激突する。
俺はそのすぐそばに飛び降りると、双剣で宝石竜の胸を切り開いた。
そして、トゥワイスに残る弾を傷口に撃ち込んでいく。
弾切れになったところで銃を下ろした。
宝石竜はぴくりとも動かない。
白目を剥いて死んでいた。
財宝の鱗を濡らすようにして、真っ赤な血が溢れ出してくる。
竜は驚異的な生命力を誇る。
本当に追い詰められた際の切り札として死んだふりをする時があるのだ。
だから俺は素早く心臓を破壊した。
竜種の場合、瀕死からの一撃でも危険である。
さっさと追撃を叩き込んで、確実に殺すのが最も安全だった。
(竜以外でも、しぶとい魔族なんかがいるからな……)
首を刎ねても襲いかかってくるような奴らがいるのだ。
しっかりと止めを刺すことは癖になっていた。
それくらいの意識でなければ、不意打ちで殺されるのが魔王討伐の旅である。
冷酷すぎると指摘されることもあったが、すべて死なないための策だ。
どれだけ文句を言われようとやめるつもりはなかった。
そうして俺は単独で戦うことになった。
宝石竜の死を確かめた俺は、リリーとモアナのもとへ戻る。
すると、モアナが顔を輝かせながら称賛してきた。
「すごかったね! 竜の頭が爆発しちゃったよ!」
「トゥワイスのおかげだな。威力不足なら勝てなかった」
「I think so too」
俺の言葉に同意するトゥワイスは軽快に口笛を吹く。
竜を倒せたことにご満悦らしい。
下手な大魔術より高威力だったのだから、それくらいの態度でちょうどいいだろう。
たった二度の進化で本当に凄まじいパワーアップを遂げている。
騙し討ちによる効率的な勝利を狙ったが、もしかすると正面からのゴリ押しでもいけたのかもしれない。
トゥワイスの性能を鑑みて、ついついそんな可能性まで考えてしまう。
リリーは宝石竜の死骸を見て苦笑する。
「私達の手助けは不要でしたね。食べられそうになった時は焦りましたが」
「あれも作戦さ。油断させれば隙を作れる」
「こちらが慌ててしまうので、なるべく事前に教えてください」
「すまない。気を付ける」
俺は素直に謝る。
たぶん二人は加勢するかどうか迷っていたのだろう。
目の前で勇者が噛み殺されそうになっているのだから、冷静でいる方が難しい。
それでも俺を信じてくれたから、手出しせずに静観を選んだ。
結果、俺は騙し討ちでトゥワイスの一撃を叩き込むことができた。
二人の判断には感謝しなくてはいけない。




