第50話 勇者は圧倒する
トゥワイスによる射撃は、宝石竜の左右の翼にそれぞれ命中する。
砕け散った財宝の鱗が弾け飛んだ。
宝石竜の体勢が傾くも、負傷には至っていない。
俺はその姿から戦い方を決める。
(攻撃を繰り返して、財宝の鱗を剥がしまくるのが良さそうだ)
宝石竜が前方で急停止した。
俺達を見下ろす位置で息を吸い込み始める。
口内で魔力が圧縮されて輝いていた。
辺りを照らすほどの光量である。
「さっそくブレスか」
竜種の必殺技だ。
だいたいの生物を即死させる暴力である。
まともに受ければ俺達もただじゃ済まないが、馬鹿正直に食らうわけもない。
俺はトゥワイスの撃鉄を押し上げて双剣モードに切り替えた。
二丁拳銃のスタイルから、慣れ親しんだ構えに移る。
「ぶち込むぞ。派手にやろうじゃないか」
「Yeah! Let's party!!」
宝石竜がブレスを放った。
炎を模した魔力の濁流が俺達を呑もうとする。
俺は両手に握るトゥワイスの双剣を握り込み、全身に身体強化を施した。
高速回転しながらブレスを切り裂き、合間で受け流す。
その圧倒的な破壊力を削いで逃がしつつ、さらに霧散した分を刃から吸収した。
取り込んだエネルギーを防御と受け流しの糧に変換していく。
双剣に軌道をずらされたブレスは、谷の壁を抉るように焼いた。
しかし、俺達には何の被害もない。
むしろトゥワイスは今のブレスで魔力が充填されて絶好調だった。
俺は地面を蹴って疾走して、宝石竜に斬りかかる。
対する宝石竜は翼を上下させて浮上した。
剣の間合いから抜けようとしている。
予想通りの反応を見た俺は、不敵な笑みを浮かべた。
「舐めるなよ」
トゥワイスを真横に向けて発砲し、その反動で身体を谷の壁に押し付けた。
身体強化を駆使してさらに跳びながら、真下への発砲で加速する。
そうして宝石竜の頭上を陣取った。
(この距離ならブレスも間に合わない)
それは宝石竜も理解しているだろう。
即座に叩き込まれた右脚の爪を躱した俺は、その凶悪な顔面にトゥワイスの連射をぶち込む。
怒りの咆哮に顔を顰めつつ、俺はさらに斬撃を浴びせた。
二丁拳銃と双剣を受けた宝石竜の顔面は、ずたずたになっていた。
剥がれた財宝の鱗の下から、傷だらけの地肌が露出している。
右目は潰れて、残る左目が俺を睨み付けていた。




