第49話 勇者は宝石竜と対峙する
その日の夜。
俺達は魔霧の谷に到着した。
段差を利用して谷底に下りると、暗闇の中を進んでいく。
身体強化を目に施せば、暗視くらいは可能になる。
モアナはそこまで知らなかったが、やり方を教えるとすぐに習得した。
彼女にはセンスがある。
逆行前、そこらの戦士には負けない実力を持っていた。
いきなり竜との戦闘に巻き込むことになってしまったが、きっと問題ないだろう。
谷底を進む中、先行する俺は二人に指示を出す。
「リリーとモアナは援護を頼む。怪我をしないことが最重要だ」
「了解です」
「分かったよ!」
二人は揃って返答をする。
理解が早くて助かる。
このパーティーには回復役がいない。
俺とリリーは応急処置くらいはできるが専門職ではない。
そうなると負傷しない立ち回りが求められる。
火力に関してはトゥワイスで十分だ。
リリーとモアナには、無理をしない程度にサポートしてもらうのが妥当だろう。
ここは安全かつ効率的にクリアしたい。
「竜とはどうやって戦うの?」
「俺が前線で陽動と攻撃役を担う。基本的にはそれで片が付くと思う」
「自信満々だね」
「腐っても勇者だからな」
俺はモアナの言葉に笑う。
別に虚勢などではない。
培ってきた実力を基に見解を述べているだけだ。
竜の討伐経験は何度もある。
二度目の旅で俺は急速に強くなっていた。
そもそも、ここで負けるようなら魔王にも敵わない。
あくまでも通過点なのだ。
さっさと倒して、富豪から種探しの機器を貰わなくては。
意識を集中させて進むこと暫し。
前方から強大な魔力反応が接近してきた。
縄張りに入った俺達に気付いたのだろう。
「来たか」
月明かりに照らされて現れたのは、金色の竜だった。
輝く鱗はそのすべてが財宝である。
場所によって異なる輝きを放っており、昼間なら目が眩みそうなほどだ。
宝石竜の双眸はしっかりと俺達を捉えていた。
怒りに染まっているのは明らかである。
低空飛行で接近する巨体は、翼の暴風で谷底を吹き荒らしながら近付いてくる。
俺は臆せずに対峙すると、相棒の二丁拳銃に話しかける。
「行くぞ、トゥワイス。竜殺しになろうぜ」
「All right,master」
ノリのいい返答を聞きながら銃を構える。
そして、魔力を込めた弾丸を撃ち放つのであった。




