第46話 勇者は入手を急ぐ
俺達は都市内を突き進んでいく。
無理な増築の繰り返しによって、どこの道も迷路のように入り組んでいるが迷うことはなかった。
この街には何度か来たことがある。
時期的にはもう少し先なので記憶の風景とは異なるが、主要な通りは固定で敷かれている。
したがって特に困ることはない。
途中、後ろをついてくるリリーが俺に質問する。
「どこに行くのですか?」
「イェグルを統べる富豪の邸宅だ。種を探す機器を持っている」
探知用の機器については、既に保管場所が判明している。
この街の責任者の一人がコレクションにしているのだ。
なんでも迷宮から見つかった古代のアイテムらしい。
現代の技術では再現困難なのだという。
実際は疑似的な魔術が開発されるのだが、それはもう少し後のことであり、精度もあまり高いとは言えなかった。
やはり機器の確保が急務であることに変わりはない。
本来の歴史では、数年後のオークションにて出品される予定だった。
魔族に奪われたところを勇者が取り返し、街を救った礼として受け取ることになっている。
ただ、それを待っている暇はない。
オークション開催までに手に入れるのが今回の目的であり、最大の難関だった。
リリーは難しそうな顔で悩む。
「イェグルの富豪となると、簡単に会えるのですかね……」
「難しいだろうが、まあやってみるしかない。最悪の場合は強奪してもいい」
俺があっさりと答えると、今度はモアナが驚いた顔を見せた。
彼女は口をぱくぱくとさせながら不安げな表情を浮かべる。
「富豪の家から強奪……勇者って盗賊なの?」
「なんというか、否定できないのが辛いな」
俺はモアナのリアクションに苦笑する。
テレビゲームの勇者は他人の家からアイテムを手に入れたりする。
現実でやれば間違いなく犯罪で、俺は同じことをやろうとしていた。
正直、躊躇いは無い。
魔王討伐が最優先なのだ。
その過程で犯罪者になっても構わないという考えだった。
「これも世界を救うためだ。多少の強硬手段は仕方ないと思っている。もちろん、争わずに入手するのが一番だけどな」
俺がそう述べると、二人はひとまず納得する。
どこか浮かない様子なのは、悪事に手を染める可能性があるからだろう。
それを俺が冗談ではなく実行しようとしている点が大きい。
別に彼女達を責めるつもりはない。
ひとえに覚悟の差だ。
俺は魔王の蘇った未来を知っている。
その運命に抗った末、あえなく敗北した。
あれを知らない者からすれば、俺のやり方は常軌を逸している。
こうして同行してくれているだけ感謝すべきだろう。




