第45話 勇者は商業都市を訪れる
俺達三人は、魔物と戦闘を繰り返しながら移動を続ける。
途中でいくつかの街や村に寄りつつ、数日後には目的地に到着した。
増築に増築で膨れ上がった外観を持つその場所は商業都市イェグルと呼ばれている。
王国の端に位置するが、別に王国の領土というわけではない。
ここはどこの国にも属していない独立地帯なのだ。
束縛を嫌う権力者が、国家に影響されない土地として築き上げたのである。
過去には王国を含む複数に国がイェグルの所有を企んだそうだが、結局は達成に至らなかったらしい。
この商業都市の軍事力は、かなりのものなのだ。
完全に独自戦力が構築されており、正規の軍隊でも容易に敵う規模ではない。
逆行前、魔族と激しい攻防を繰り広げながらも、最後まで陥落しなかったのは印象に残っている。
それほどまでに堅牢なのが、この商業都市なのだった。
街に入った俺達は、メインストリートを進んでいく。
増築だらけの外観を裏切らず、街中は全体的に雑多だった。
様々な様式の建物が並んでおり、本来なら倒壊しそうなところを魔術で補強している。
そのせいで縦にも横にも無理やり増築を繰り返しているのだ。
噂では地下にも広大な空間が広がっているらしい。
周囲の人々の種族や職業にも統一感がない。
強いて言うなら、商人風の者が多いくらいか。
各国に太いパイプを持つイェグルは、商業面でとにかく活発なのだ。
そこかしこで店が開いており、オークションなども常に実施されている。
歩いているだけでセールストークを浴びせられる始末だった。
領主の独裁で閑散としていたネリアとは大違いである。
根本的に街の規模も違うが、それ以上に街の気質がよく表れていた。
(ただ、俺達は観光しに来たわけではない。ゆっくりと見て回る余裕はないんだ)
この街に来た目的は、種を探知する機器の入手だ。
それと情報収集もしておきたい。
具体的には魔族の居場所や、魔王の封印場所に関する情報である。
今後の予定を組む際の参考にしたかった。
あとは各種道具や消耗品を買いたい。
ここには様々な国の商品があり、必要な物の調達が何かと便利なのだ。
魔族を少人数で倒していくのなら、いくつもの策を持っておきたい。
道具を揃えるのもその一環だった。
トゥワイスの力でゴリ押しできない場面だってある。
詰んでからでは遅い。
ここは準備は怠らずに固めたいところだろう。
とは言え、まずは種を探知する機器の確保からだ。
俺の記憶が正しければ、これも一筋縄ではいかない。
入手は難航しそうな予感がしていた。
もっとも、困難を乗り越えるのには慣れている。
これをやり遂げるからこそ勇者なのだ。
臆せずに挑戦していこうじゃないか。




