第42話 勇者は次なる地へ発つ
翌日、俺とリリーとモアナの三人はネリアを出発した。
見送りに来たモアナの父は泣いていた。
娘と別れるのが寂しいのだろう。
それと同時に嬉しそうなのは、きっとモアナの成長を喜んでいるからに違いない。
俺も彼とは再会を約束した。
今回は不意の進化で流れてしまったが、次こそトゥワイスの強化を任せたい。
その頃にはさらなるパワーアップを果たしているはずだ。
正直、トゥワイスはどうなっていくのは予想が付かない。
今の時点で当初のイメージから大きくずれている。
もちろん性能的には嬉しい誤算だ。
最初は自作の単発銃だったとは思えない姿である。
この調子で強化を重ねて、魔王にも対抗できる武器になってほしいものだ。
街道を歩く俺は一度だけ振り返る。
既にかなり遠いネリアの街並みは平穏そうだった。
とても領主が怪物化して暴走していたようには見えない。
俺は小声でリリーに尋ねる。
「ネリアの情勢は問題なさそうだな?」
「はい。領主の弟が解放されて、療養と並行して引き継ぎ作業が始まっています。これまでの独裁はやはり反感を買っていたようで、誰もが街の回復に努めています」
「そうか……」
リリーは出発前にしっかりと独自調査を行っていた。
ひとまずネリアの混乱は落ち着きそうだ。
この先は街に暮らす人々の出番である。
魔族に関与する領主の死後、ようやく正常な方向へ進み始めていた。
これで鍛冶師が不当な扱いをされなくなる。
モアナの父が死ぬことはないだろう。
一安心というわけだ。
余談だが、領主の他に魔族と関わっていそうな者はいなかった。
ただし確証はないので完璧とは言えないものの、そこまで心配はしていない。
もし上手く潜伏していたとしても、領主があんな最期を遂げた後に何か企もうとはしないはずだ。
少なくとも種を発芽させようとは考えないと思う。
俺に見つからないように暗躍を選ぶだろう。
今はそれでいい。
大きな被害が出ないように時間を稼ぐのが目的なのだ。
いずれ一掃できるようになる。
俺達が次に目指す場所は、とある商業都市であった。
そこに怪物化の種を探知できる機器があるのだ。
この時期にも存在しているはずなので、必ず入手しておきたい。
機器の有無で今後の立ち回りが大きく変わってくる。
怪物化の種は、発芽前だと通常の感知に引っかからないという厄介な性質を持っている。
しかし、専用の機器があれば即座に特定できる。
各地の種を破壊しつつ、魔王戦に備えて鍛練を進めていく。
それが当面の目的になるだろう。




