第38話 勇者は見返りを得る
領主が動きを止める。
撃ち抜いた右目は空洞になっていた。
後頭部まで綺麗に貫通しており、断続的に血が噴き出す。
「……、ぅあ……っ」
領主が何かを言おうとして、そのまま膝から崩れ落ちた。
床に頭を打って動かなくなる。
毛に覆われた巨躯から魔力と瘴気が拡散していった。
復活の兆しはない。
間違いなく死んだようだ。
俺は放出された魔力と瘴気ををしっかりと吸収する。
上質なエネルギーは肉体強化を促してくれる。
特に瘴気は貴重だ。
通常、人体には有害なのだが、俺の場合は体内に圧縮させてキープできる。
いざという時の切り札として温存しようと思う。
そういえば、逆行前には瘴気の操作に特化した勇者もいた。
俺はそこまで上手くないものの、日頃からストックできる程度の技量はある。
トゥワイスから撃ち出すことができると判明したので、今後はさらなる活躍が見込めるだろう。
(やはり問題なく倒せたな)
俺は目の前の死体を見て考察する。
正直、追い詰められる予感はまったくしなかった。
歴戦の勇者なのだから、互いの力量差は把握できている。
油断はしていなかったし、領主に逆転の可能性が無いのは一目瞭然だった。
もし形勢が不利になるようなら、手持ちの双剣を使うつもりだった。
武器としての品質は劣悪だが、刃を魔力と瘴気でコーティングすれば中級魔族くらいまでは斬れる。
まあ結局は、ほとんど理想に近い形で勝利に至った形である。
(さて、色々と面倒だな。予定がだいぶ狂ってしまった)
想定外のパターンに悩んでいると、突如としてトゥワイスが発光し始めた。
手の中で脈動して形を変えていく。
「Master! Help me!」
「大丈夫。ただの進化だ」
どうやら領主の魔力を取り込んだのがきっかけになったらしい。
下級魔族に匹敵するというと大したことがないように思えるが、実際は凄まじいことである。
本来なら軍が動くような怪物なのだ。
そこらの魔物とは比較にならないパワーを秘めている。
それを余すことなく吸収したのだから、トゥワイスに多大なる影響が出るのも当然のことだった。
(さて、次はどうなる……?)
俺は期待を込めてトゥワイスを見守る。
二丁拳銃の相棒は、眩い光の中で進化を遂げていく。
やがて光は薄れて消えて、新たな姿が露わになった。




