第37話 勇者は翻弄する
「グオアアアァッ!」
咆哮を上げた領主が突進してくる。
前傾姿勢で駆けてくる姿には、直前までの面影など存在しなかった。
俺は後退しながら銃撃を浴びせる。
領主は左腕を掲げてガードした。
弾丸は腕に食い込むも、貫通には至らない。
体内を循環する魔力が威力を殺したのだろう。
(物理特化か)
攻撃を避けながら俺は分析する。
鋭利な爪が眼前を通過するも、それに恐怖することはない。
相手の間合いは把握していた。
これで当たるほど間抜けではないのだ。
(発芽による怪物化は、本人の素質に合わせて変貌具合が異なる)
いくつかのタイプに分類される中でも、物理特化は最もポピュラーだった。
身体能力の異常強化と、副作用として理性の破壊。
それに伴う凶暴化が主な特徴である。
領主は典型的な物理特化だった。
「ゴアァッ!」
振り下ろされた領主の腕を躱す。
拳が床を粉砕し、破片を辺りに撒き散らした。
俺は身体強化でそれらを耐える。
攻撃が当たらず苛立つ領主は、猛然と迫りながらラッシュを叩き込んできた。
壁も床も天井も木っ端微塵にして攻め立ててくる。
たとえ身体強化があっても、無防備に食らいたくないパワーだ。
領主の持つ邪悪な心が、怪物化の種と適合したのだろう。
(厄介なことだ)
俺は巧みに回避しながら銃撃を行う。
領主は僅かに怯むも、それで攻撃を躊躇うことは無かった。
さらに怒りを込めて殴り返そうとしてくる。
変貌した領主は恐ろしく頑丈だった。
回復力も高く、ちょっとした攻撃なら平然と再生してしまう。
トゥワイスも悔しそうに愚痴っている。
(だが、これでいい)
今は粘る時だった。
俺は冷静さを崩さず、的確に回避しながら弾丸を撃ち込んでいく。
領主の部屋はほぼ全壊して、あちこちから屋外の様子が見えるようになっていった。
やがて領主の動きが鈍り始める。
消耗が大きくなりすぎて、負荷が無視できなくなってきたのだ。
怪物化は燃費が悪く、最終的には宿主の命を喰らう。
領主はその段階に達しているのであった。
銃撃による負傷を回復するのにもエネルギーを要する。
俺は最低限の反撃で、領主を効率よく損耗させてきたのだ。
一見すれば効果の薄い攻撃でも、戦いが長引けばこうして勝敗を決するだけの影響を及ぼす。
一方で俺は、霧散した領主の魔力を吸収して回復していた。
混ざり込んだ瘴気を分離しているので、肉体に害を受けることなく流用している。
これも逆行前に習得した技だ。
単独行動の多かった俺は、対魔族の戦闘に長けている。
怪物となった領主も魔族の一種だ。
身体能力は下級に匹敵しているが、代わりに知能が崩壊している。
俺が負けるはずもなかった。
(そろそろだな)
戦況からそう判断した俺は、領主の殴打を避けながら微笑する。
そして、体内に圧縮蓄積していた瘴気をトゥワイスへと送り込んだ。
「WTF!?」
驚くトゥワイスに構わず引き金を引く。
放たれた漆黒の弾丸は、螺旋回転を上げきながら突き進む。
それは領主の右目を穿ち、その頭部で力を解放した。




