第35話 勇者は領主と対面する
俺は身体強化込みの蹴りで扉を破る。
そして、壁際に立つ小太りの男を睨み付ける。
高級そうな服に、陰湿な悪意を湛えた双眸。
男は激怒した様子で叫ぶ。
「貴様、何者だ!? 私が誰か分かっているのかっ」
「知っている。クソッタレの悪徳領主だな」
俺はトゥワイスを向けながら部屋に踏み込む。
そこで魔術の罠が起動するも、短いステップで回避した。
ついでに装置を銃撃で破壊する。
侵入者対策くらいはしていると予測していた。
これで引っかかるのは二流三流だ。
俺は常に周囲を探知している。
特に双剣の間合いは精度が最も高い。
罠の類は基本的に効かないのだ。
「俺は勇者。お前の悪事を見過ごせなくなったので話をしに来た」
領主に詰め寄りながら名乗る。
トゥワイスはいつでも撃てるように構えていた。
「動くな。命が惜しければ、余計な真似をするなよ」
「くっ……」
領主は悔しげに唸る。
その態度に演技臭さを感じた。
どことなく余裕が垣間見えるのだ。
(何か企んでいるな)
そう考えた時、領主が部屋の端に向かって駆け出そうとした。
俺は彼の脚を即座に撃ち抜く。
片膝が破裂した領主は転倒した。
血を流しながら絶叫する。
「ごあああぁぁッ!?」
「動くなと言ったはずだ」
「聞いて、いるぞ……召喚された勇者。その中の一人は危険人物である、と……!」
「俺は魔王討伐に力を尽くすだけだ。周りの評価なんて興味ない」
淡々と述べると、領主が唾を飛ばして糾弾する。
「狂人が! 一般人を殺傷しておきながら何を言うッ!」
「悪事を働く人間を処罰しているだけだ。これで街が正常な状態になる」
俺は領主の頭に銃口を向ける。
一歩ずつ進みながら、感情を乗せずに告げた。
「俺は躊躇わない。不要な存在は誰であろうと排除する」
「……ッ」
「お前を失脚させる。命までは取らないが、表舞台からは退場だ。私腹を肥やすためにやり過ぎたな」
「小僧が生意気を……ッ!」
歯軋りしていた領主は、突如として白目を剥く。
四肢を暴れさせながら痙攣すると、泡を噴いて目から血を流す。
やがて領主の目に意識が戻った。
彼は邪悪な笑みを湛える。
「フッ、フハハハハハハハァァッ! やった! やってしまった! もう後戻りはできぬぞォ!」
領主はふらつきながら立ち上がった。
撃ち抜かれた膝などお構いなしだ。
血の涙を流しながら俺を睨み付けてくる。
(体内の魔力が増幅している。まさかこの反応は……)
俺は一つの心当たりに辿り着くも、その間に領主の肉体に異変が生じる。
筋肉が膨張し、肌の色が黒に近い紫色となる。
軋みながら背丈が変わり、天井に届かんばかりの巨躯に至ろうとしていた。




