第34話 勇者は屋敷を駆け抜ける
屋敷に突入した俺達は迫る兵士を打ち倒していく。
殺しはしない。
手加減するほどの余裕があるためだ。
命令で動くだけの彼らを惨殺するのは、さすがに躊躇してしまう。
これは明確な甘さだが、譲るつもりはなかった。
「邪魔だッ」
俺は迫る斬撃を躱し、トゥワイスで殴り付けて相手の兵士を気絶させる。
さらに発砲で牽制しながら肉弾戦で昏倒させていく。
飛来する魔術を回避するのは簡単だ。
狭い廊下や部屋の地形を利用し、向こうが数の利を活かせないような立ち回りを意識すればいい。
殺人をしないという手加減はするが、戦略的な妥協は一切しない。
持ち得る手札を最大限に利用して容赦なく兵士達を無力化する。
逆行前、俺が単独で魔族を殺しまくることができたのは、この辺りの方針を徹底していたからだろう。
突貫するだけの脳筋では生き残れなかった。
途中、リリーが横道を曲がった。
彼女はこちらを向かずに疾走していく。
「先回りして脱出経路を塞ぎます」
「ああ、頼んだ」
俺は迷わず前進した。
彼女の判断は戦力的に問題なく、むしろ妥当であった。
ここは二手に分かれて行動した方がいい。
万が一にも領主が逃げられないように妨害するのは適切だった。
(俺は領主を拘束するか)
魔力による察知で領主の位置は把握していた。
この屋敷の最上階で、厳重に警備された部屋に一人で引きこもっている者がいる。
実際に姿を見たことはないが、その反応が領主だった。
もし間違っていたとしても、屋敷内を手当たり次第に探っていくだけである。
リリーも別行動で裏工作を施しているので、失敗することはまずない。
やはり彼女を仲間として招き入れて良かった。
単独ではここまで円滑に進められなかっただろう。
「いたぞ! こっちだ!」
前方で兵士達が騒いでいる。
即座にクロスボウの矢を撃ってきたので、俺はトゥワイスで弾いてガードした。
「Hey!」
「すまない、我慢してくれ」
抗議するトゥワイスに謝りながら別の部屋に転がり込む。
そこで相手の位置を探知しながら、壁をぶち抜いて移動していく。
本当は手持ちの双剣で防御するのが一番だった。
それならトゥワイスに痛い思いをさせることもない。
しかし、俺が別の武器を使うと、トゥワイスが不機嫌になってしまうのだ。
今のところは動作面で不具合は無いが、あまり怒らせると弾が撃てなくなるような事態に陥るかもしれない。
生きた武器の思わぬ弱点が発覚した瞬間だった。
なかなかに嫉妬深い二丁拳銃である。
だからなるべく双剣では使わない方向でいきたいと思う。
その後、俺は屋敷を進みながら兵士を倒していく。
ほぼノンストップで移動して、ついに最上階の領主の部屋の前に辿り着く。
扉の前にいた数人の兵士はそれなりに強かった。
おそらく領主が個人的に雇ったボディーガードだろう。
リリーほどではないにしろ、常人ならまず勝てないような能力である。
ただ、今回ばかりは相手が悪かった。
俺は既にトゥワイスを使いこなしつつある。
いくら相手が優秀だろうと、よほどのハンデがない限り負ける気がしなかった。
「さて、ここからが本番だな」
領主は未だ部屋に閉じこもっている。
さっさと拘束して、その座から引きずり落とさねば。




