第30話 勇者は目的を告げる
ドワーフの男は難しい顔をする。
まるで怒っているかのような表情だが、深く悩んでいるだけだろう。
彼はしばらくして息を吐いた。
「随分と無茶を言ってくれる。可能だと思うのか?」
「そうでなければ頼もうとはしない」
俺はこの鍛冶師の腕を信頼している。
件の知人は、父親には敵わないと口癖のように言っていた。
あれは謙遜ではなく真実に違いない。
だとすれば、トゥワイスを強化するのにこれ以上の人物はいなかった。
男は腕組みをして黙り込む。
こちらの要望に添えるか吟味しているようだ。
やがて俺の視線に観念したのか、彼は大きく頷いた。
「よし、いいだろう。注文通りにやってやる。すべての改良案を兼ねたものにしよう。かなり高額になる上、素材の調達を頼むがいいな?」
「構わない。どんな雑用でも任せてくれ。俺には強い武器が必要なんだ」
「大した心意気だな。あの武器を何のために使うつもりだ」
「魔王を殺す」
俺が即座に答えると、男の顔つきが変わった。
驚きと同時に、懐疑的な色が混ざっている。
「――本気で言っているのか?」
「酔狂でこんな目標を立てるほど愚かではない」
「魔王は封印されていると聞いているが」
「だから探し出す。封印できるのがいいが、間に合わなければ殺す。奴の配下である魔族も滅ぼす」
俺はその覚悟で世界を逆行させた。
あのまま滅びゆくのを拒んだのだ。
独りよがりな動機であるが、それでもこの執念は誰にも負けない自信があった。
「トゥワイス……あの銃はどこにある」
「奥に保管しているが、一度見るか。改良について詳しい相談をしたい」
「そうしよう」
俺と男は作業場へと向かう。
そこには知人である鍛冶師がいた。
彼女は、机に置かれたトゥワイスを興味深そうに観察している。
部屋に入ってきた俺達を見て、ハッと顔を上げた。
あまりに集中して気付くのに遅れたようだ。
「あ、お父さん」
「それは大事なものだ。触るなよ」
「ちぇっ」
父親に叱られた知人は、残念そうに立ち上がった。
そして今度は俺に近付いてくる。
上から下までじろじろと見つめた後、彼女は父に尋ねた。
「この人が、あれを?」
「そうだ。改造を頼まれた」
「ふーん」
知人は気の抜けた返事をして笑うと、俺に向かって手を差し出してきた。
「あたし、モアナ! よろしくね」




